23 / 184
第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
第22話 初めてのお友達
しおりを挟むリミとセニリアが達志の病室を訪れて、二人との会話により達志の心細い気持ちも、ずいぶん紛れていた。
母であるみなえ、幼なじみの由香、猛、さよなとは違い、達志とは全く関わりのなかった人物。
達志の勇敢な行動により救われた少女と、彼女の従者との会話は、達志に新鮮な風を送り込んでくれていた。
「いやあ、なんか二人と話してると、由香たちとは違った意味で新鮮だわ」
「喜んでくれたなら、なによりです」
達志が楽しそうにしているだけで、花の咲くような笑顔を浮かべる少女。
見る者全てを虜にしてしまうようなその笑顔は、達志が知る由香……十年前の由香を彷彿とさせる。
大人になった由香も、雰囲気は十年前と変わってはいないが、今の由香は少し会った程度しか知らない。
達志にとっては、昔の由香と比べることはできない。
活発で笑顔が似合い、ごまかすのが下手な女の子。それは由香とリミの二人に被るところがあり、もしも二人が会ったら気があうことだろう。
……と、そこまで考えて、そのもしもが実現しているのではないかと思う。
「そういえば……リミと、由香たちって知り合ってたりする?」
思えば、リミや由香たちは、十年間もお見舞いに来てくれていたのだ。
由香たちはリミのように毎日でないにしろ、その時間の中で、出会いがなかったと考える方が不自然だろう。
……リミが今回のように、面会時間過ぎに訪問していなければ、だが。
「はい! タツシ様の幼なじみのお三方とは、この病室で出会いました。
忘れもしません、私とセニリアがお見舞いにこの病室を訪れた時、お三方がいらっしゃって……」
「私も忘れられません。ユカ殿、タケル殿、サヨナ殿……タツシ殿の幼なじみを前に、自身の行いを悔い、大粒の涙を流しながら反省し、お三方に謝罪する姿は今でも……」
「ちょ、ちょっと!? 何言ってるの!?」
しみじみと、三人と出会った時のことを思い出すリミ。
それに倣うようにセニリアもその時のことを思い出すが、それはリミの恥ずかしい話も同然のものであった。
リミは顔を真っ赤に、セニリアに駆け寄る。
「涙と鼻水で顔を汚し、私のせいで……すびばぜん……と何度も謝る姿は、思わず私ももらい泣きしてしまうほどで……」
「ねえもうやめよ!? その話やめよ!? 泣き真似しなくていいから、掘り起こさなくていいから!」
彼、彼女らから幼なじみを奪ってしまったことを悔いていたリミ。それは三人を前にしたことで、感情の抑えが決壊し、溢れ出したのだ。
幼なじみに対しその反応だったということは……達志の母に対しては、これ以上の反応だったのではないかと、想像するには容易い。
「それはその……なんて言えばいいか……」
「タツシ様気を使わないで! ……こほん!
と、とにかく! それを機に皆さんとは連絡先を交換して、時々やり取りを……」
「すげーや、着々と異世界交流捗ってる」
達志の事故をきっかけに、知り合った人たち。事故がいいことだとは言えないけれど、こうして人の輪が広がっていくというのは、なんだか胸の奥が温かくなる。
その自分が原因となれば、事故にあったかいがあるというものだ。
……いや、やっぱりそう思いたくはない。
三人とは、今は良好な関係を続けているのだろう。耳や尻尾が揺れ動いており、それは嬉しさの感情を表しているというのは、すでにわかっている。
「姫にとっては、この世界に来てからの、初めてのお友達ですから」
「ちょ、余計なこと言わなくても……それに、お友達なんてそんな、皆さんにとって大切な人を奪った私なんかが……」
「そうですか? お三方はもう……というより、あの頃からも怒ってはいないと思いますが。
それに、彼らは初めから、姫に友好的だったじゃないですか」
達志の知らない、彼女たちの中での話。
リミは責任を重く受け止めてしまう気質らしいが、セニリアの言うように、三人共そのことは、気にしていないだろう。
「そうだぞ。あいつらがそれくらいで怒ることないって」
「そう……でしょうか。でも、それくらいって……」
「タツシ殿がそう言っているのです、そうなのです。ですからお友達でないなどと言っては、せっかくのこの世界での初めてのお友達が……
いや、あちらでも、お友達いましたっけ?」
「いい、いましたよ! いますよ! セニリアも知ってるでしょ!?」
センチメンタルになりかけたリミを、セニリアはほとんど強引に連れ戻してくる。「冗談はさておき……」と告げているが、リミは元の国では姫という立場。
そんな立場の人間に、気軽に友達ができるだろうか?
……これ以上考えててはいけない気がした達志は、頭を振って思考を中断する。
リミに友達がいたかどうかの議論は、これ以上考えても、いろんな意味で傷つく気がする。リミが。
「あはは、二人って本当に仲良いのな。ところで話変わるけど……いまさらでいきなりだけど、セニリアさんって、純粋な人間?
それとも、リミみたいなケモッ娘?」
「ホント話変わりましたね!」
新しい話題を探していた達志の目に映ったのは、リミの感情に従うかのように揺れ動く、ウサギの耳と尻尾だ。
ザ、秘書なセニリアは見た目は人間であるが、もしかしたら耳や尻尾を隠しているのかもしれない。それとも、純粋な人間か……
今までの会話で話題にならなかったのが不思議でかなわないが、話題一新のためにもいい機会だろう。
質問を受けたセニリアは、一度咳ばらいをして……
「私は……ハーピィです」
「はー……ぴぃ……」
自らの種族を、語る。見ただけでは人間と違わない姿。しかしその実態は、ハーピィという種族なのだという。
聞き覚えのある単語を噛み締めた達志は、己の頭の中に眠るハーピィのイメージを引っ張り出してくる。
「ハーピィっていうと……見た目は人っぽいけど、腕に鳥の翼が生えてる、足が鳥のそれ、っていうやつですか?」
「えぇ、その認識で問題ありません。よくご存知ですね?」
「そりゃまあ、ケモッ娘やハーピィやエルフなんてのは、異世界ものじゃ王道パターンですから。脳内シミュレーションはバッチリなわけですよ」
実際に口で言われただけでは判断しようがない。しかし、ここでセニリアが嘘をつくことはないだろう。
今普通の人間に見えるが、その気になれば翼に変化するという。腕が。
できる秘書系従者に、ハーピィという属性が追加された瞬間である。
「なんでしたら、飛びましょうか?」
「……いや、大丈夫です」
言葉だけでは信用に欠けると判断したのか、実際に飛んで見せようかと、窓を指すセニリア。
それはつまり、そこの窓から外に出て、飛ぶということだろう。
その光景を思い浮かべ、あまりにシュールな絵面が出てきたために、達志は苦笑いを浮かべた。
10
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スキルガチャで異世界を冒険しよう
つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。
それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。
しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。
お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。
そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。
少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家の猫がポーションとってきた。
熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。
ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。
瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。
始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる