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第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
第20話 親しくしてほしいので
しおりを挟む平謝りをするリミを見つめ、セニリアはというと、頭を抱えて小さくため息をついている。
「姫、タツシ殿がお困りです」
「はっ!」
「全く……そんな取り乱すなど、姫としての自覚というものが……」
「……私もう姫じゃないですし」
セニリアの呆れたような言葉にリミは我を取り戻すが、続いて聞こえるのはセニリアからのグチグチした言葉だ。
これは長くなりそうだと早々に打ち切るリミだが、それに反応するのは達志だ。
「え、リミって姫じゃないの?」
「基本的に、私たちの国でのお姫様なので、移住を移した先ではもうそんな肩書き意味ないんですが……」
「形式上は、です。
私が姫とお呼びしているのも、私にとって、姫は姫だからです」
セニリアは、首を振る。
彼女にとって、リミが仕えるべき人物であることに、変わりはないのだ。
「じゃあ、他にもリミのこと、姫とかリミ様とか呼ぶ人が居たり?」
「私としては、普通に名前で呼んでもらいたいですね。
実際、みんなにもそういるのお願いしているので」
「みんな?」
リミの言葉に、気になる単語が出てきたのを達志は聞き逃さない。
みんな、とは誰のことだろう。
「あ、それはみんなというのはですね……」
「姫は、学校の級友と親しくしているのです」
リミは指を一本立て、彼女からの視線を受けたセニリアが説明を引き継ぐ。学校の級友と、仲良くしている。
なるほど、それなら納得だ。学校の……
「えっ! リミ学校通ってんの!?」
「は、はい……十七ですし……」
当然といえば当然の答えが返ってくる。リミの年齢ならば学校へ行っていて当然だ。
第一、今リミが着ているのは、達志の学校の制服ではないか。
今まで見ていたのに、なぜ驚愕してしまったのだろうか。
「タツシ殿、姫の服をなんだと思ってたんですか? やはりまだ、体の調子が戻ってないのでは?」
セニリアは、リミが制服を着ていることを今更になって驚いた達志に、呆れているらしい。
お前今まで制服見てたんじゃないのかよ、と言われているようで、思わず視線をそらしてしまう達志であった。
なんとなく気まずさを感じてしまった達志だが、それを引きずっていても仕方がない。
わかりやすく咳ばらいをして、無理矢理にでも話題を変えさせてもらう。
「と、とにかく……リミへの対応は、敬語とかじゃなくってもオッケーってことね?」
「はい! むしろ特別扱いはしてほしくないので……」
「国王様も、周りにはフレンドリーに接しているので、誰にも等しく親しみを向けられています。
昨日なんか、近所の公園で子供たちと一緒に遊具で遊んでおられました。その娘である姫にも同様、親しく接してくれる方は多いです」
「それはそれでゆるゆる過ぎじゃない!?」
偉い人、とは言っても、周りに親しく接していれば、周りからの対応も親しくなる。
話しかけやすい相手に、自然と気軽に話してくれるものになってくるだろう。
そのため、娘のリミにも同じく、気軽に話しかけてくれるというものだ。それにしても、自由過ぎる国王様だが。
「それも、国王様のいいところです。その娘である姫の人柄も素晴らしいです」
「も、もーセニリアったら。急にそんな褒めて……」
「とはいえ、姫は少々抜けているところがありすぎます。気品も足りませんし、節度もなってません。はしたない真似もダメです」
「む、もー、わかってますよー。いつもいつもそんなこと……」
「ですので姫、先ほど姫がタツシ殿に言おうとした、ここに泊まるという案はなしです」
「わー! 忘れてたと思ったのに! 掘り返さないでよ!」
セニリアの小言が、リミは嫌いだ。なのでまた小言が始まる……と膨れていたリミだが、続けられたのは全く別の話。
先ほど達志の手を取り、過呼吸に陥った場面のことだ。
唐突なセニリアの発言に、一気に顔を赤くしたリミ。それは達志が、聞き取れなかった言葉だ。
「え、リミここに泊まろうとしてたの?」
「わー! せっかくわかってなかったっぽいのに!」
「姫がわかりやすすぎるんです。タツシ殿でなければわかってましたよ」
手をパタパタと動かし、おまけに耳も振り回しているリミは誰の目にも、慌てていることがわかる。
さりげなくディスられた気がする達志だが、追及はしないでおく。
「リミの気遣いは嬉しいけど、そんなことしたら親が心配するでしょ。嫁入り前の娘が、男の病室に泊まるだなんて」
「よ、嫁だなんて……両親はタツシ様のこととなれば寛大ですし、お母様にはメールすれば大丈夫です!」
「メール……やっは現代機器残ってるのな」
異世界人が携帯電話を使いこなしている場面を想像して、思わず達志は頬を緩める。現代機器を使う異世界人……何だか新しいなと、そう考える。
現代機器を触り、それに四苦八苦しながらも、時間をかけ使いこなしていくのだ。
魔法という超常的なものが出てきても、ちゃんと科学も残っているのだ。
むしろこの二つが混ざり合い、以前よりもっと便利になっているのではないだろうか。ウルカがそう言っていた気がする。
「……そういやさ、リミは魔法、使えるの?」
一旦途切れてしまった会話であったが、今しがた頭を過ぎった魔法、という単語で再び気になることが湧き上がる。
話によると、魔法は必ずしも使えるわけではない。
ならば目の前の少女は、果たして魔法を使えるのだろうか。
「はい、使えますよ!」
「なにせ姫ですからね」
達志の問いに、意気揚々と答えるリミと、謎の自信を語るセニリア。
国を背負う者としての娘という立場だから使えて当然ということなのか、リミという人物が優秀なために使えて当然ということなのか、それはわからないが。
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