目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

文字の大きさ
上 下
21 / 184
第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました

第20話 親しくしてほしいので

しおりを挟む


 平謝りをするリミを見つめ、セニリアはというと、頭を抱えて小さくため息をついている。

「姫、タツシ殿がお困りです」

「はっ!」

「全く……そんな取り乱すなど、姫としての自覚というものが……」

「……私もう姫じゃないですし」

 セニリアの呆れたような言葉にリミは我を取り戻すが、続いて聞こえるのはセニリアからのグチグチした言葉だ。
 これは長くなりそうだと早々に打ち切るリミだが、それに反応するのは達志だ。

「え、リミって姫じゃないの?」

「基本的に、私たちの国でのお姫様なので、移住を移した先ではもうそんな肩書き意味ないんですが……」

「形式上は、です。
 私が姫とお呼びしているのも、私にとって、姫は姫だからです」

 セニリアは、首を振る。
 彼女にとって、リミが仕えるべき人物であることに、変わりはないのだ。

「じゃあ、他にもリミのこと、姫とかリミ様とか呼ぶ人が居たり?」

「私としては、普通に名前で呼んでもらいたいですね。
 実際、みんなにもそういるのお願いしているので」

「みんな?」

 リミの言葉に、気になる単語が出てきたのを達志は聞き逃さない。
 みんな、とは誰のことだろう。

「あ、それはみんなというのはですね……」

「姫は、学校の級友と親しくしているのです」

 リミは指を一本立て、彼女からの視線を受けたセニリアが説明を引き継ぐ。学校の級友と、仲良くしている。
 なるほど、それなら納得だ。学校の……

「えっ! リミ学校通ってんの!?」

「は、はい……十七ですし……」

 当然といえば当然の答えが返ってくる。リミの年齢ならば学校へ行っていて当然だ。
 第一、今リミが着ているのは、達志の学校の制服ではないか。

 今まで見ていたのに、なぜ驚愕してしまったのだろうか。

「タツシ殿、姫の服をなんだと思ってたんですか? やはりまだ、体の調子が戻ってないのでは?」

 セニリアは、リミが制服を着ていることを今更になって驚いた達志に、呆れているらしい。
 お前今まで制服見てたんじゃないのかよ、と言われているようで、思わず視線をそらしてしまう達志であった。

 なんとなく気まずさを感じてしまった達志だが、それを引きずっていても仕方がない。
 わかりやすく咳ばらいをして、無理矢理にでも話題を変えさせてもらう。

「と、とにかく……リミへの対応は、敬語とかじゃなくってもオッケーってことね?」

「はい! むしろ特別扱いはしてほしくないので……」

「国王様も、周りにはフレンドリーに接しているので、誰にも等しく親しみを向けられています。
 昨日なんか、近所の公園で子供たちと一緒に遊具で遊んでおられました。その娘である姫にも同様、親しく接してくれる方は多いです」

「それはそれでゆるゆる過ぎじゃない!?」

 偉い人、とは言っても、周りに親しく接していれば、周りからの対応も親しくなる。
 話しかけやすい相手に、自然と気軽に話してくれるものになってくるだろう。

 そのため、娘のリミにも同じく、気軽に話しかけてくれるというものだ。それにしても、自由過ぎる国王様だが。

「それも、国王様のいいところです。その娘である姫の人柄も素晴らしいです」

「も、もーセニリアったら。急にそんな褒めて……」

「とはいえ、姫は少々抜けているところがありすぎます。気品も足りませんし、節度もなってません。はしたない真似もダメです」

「む、もー、わかってますよー。いつもいつもそんなこと……」

「ですので姫、先ほど姫がタツシ殿に言おうとした、ここに泊まるという案はなしです」

「わー! 忘れてたと思ったのに! 掘り返さないでよ!」

 セニリアの小言が、リミは嫌いだ。なのでまた小言が始まる……と膨れていたリミだが、続けられたのは全く別の話。
 先ほど達志の手を取り、過呼吸に陥った場面のことだ。

 唐突なセニリアの発言に、一気に顔を赤くしたリミ。それは達志が、聞き取れなかった言葉だ。

「え、リミここに泊まろうとしてたの?」

「わー! せっかくわかってなかったっぽいのに!」

「姫がわかりやすすぎるんです。タツシ殿でなければわかってましたよ」

 手をパタパタと動かし、おまけに耳も振り回しているリミは誰の目にも、慌てていることがわかる。
 さりげなくディスられた気がする達志だが、追及はしないでおく。

「リミの気遣いは嬉しいけど、そんなことしたら親が心配するでしょ。嫁入り前の娘が、男の病室に泊まるだなんて」

「よ、嫁だなんて……両親はタツシ様のこととなれば寛大ですし、お母様にはメールすれば大丈夫です!」

「メール……やっは現代機器残ってるのな」

 異世界人が携帯電話を使いこなしている場面を想像して、思わず達志は頬を緩める。現代機器を使う異世界人……何だか新しいなと、そう考える。
 現代機器を触り、それに四苦八苦しながらも、時間をかけ使いこなしていくのだ。

 魔法という超常的なものが出てきても、ちゃんと科学も残っているのだ。
 むしろこの二つが混ざり合い、以前よりもっと便利になっているのではないだろうか。ウルカがそう言っていた気がする。

「……そういやさ、リミは魔法、使えるの?」

 一旦途切れてしまった会話であったが、今しがた頭を過ぎった魔法、という単語で再び気になることが湧き上がる。
 話によると、魔法は必ずしも使えるわけではない。

 ならば目の前の少女は、果たして魔法を使えるのだろうか。

「はい、使えますよ!」

「なにせ姫ですからね」

 達志の問いに、意気揚々と答えるリミと、謎の自信を語るセニリア。
 国を背負う者としての娘という立場だから使えて当然ということなのか、リミという人物が優秀なために使えて当然ということなのか、それはわからないが。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スキルガチャで異世界を冒険しよう

つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。 それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。 しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。 お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。 そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。 少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家の猫がポーションとってきた。

熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。 ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。 瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。 始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

処理中です...