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第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
第16話 十年越しのありがとう
しおりを挟むもしあのとき、達志がリミを助けなければ。事態は、とんでもない方向に向かっていたかもしれない。
理由がどうあれ……一国の姫に万が一のことがあれば、当然それを引き起こした相手側との関係は悪くなるだろう。
赤信号を飛び出したのが、リミだったとはいえ。歩行者が飛び出してそれを車がひいてしまっても、過失は車の方にある。
異世界サエジェドーラに蔓延する、災厄の件。異文化交流は、他世界への移住を進めるためのものが大きかったのだろうが……
リミになにかあれば、そんな危ない世界に移住はできない、と突っぱねることになったかもしれない。
加えて、武力を持って戦争を引き起こした可能性だってあるのだ。
「そして、移住先を失った我々は、残らず全滅……最悪、二つの世界を滅ぼす結果になっていたかもしれません」
日本の、いや世界の軍事力は相当なものだ。しかし彼女らの済む世界も魔法という、人知を越えた力がある。
そんな強大な力を有した世界同士が戦争を起こせば、被害は必死。
仮にリミの世界が勝利したとしても、いずれは謎の災厄により全滅していただろう。
よって、あの時リミの身を守った達志は、一人の少女の命どころか、結果として二つの世界の命運を救ったと言っても、過言ではない。
「その後タツシ殿の身はすぐに、我が国で最新かつ最高の設備、治癒術師を揃えた体制の下治療を。
その後は、時期を見てこちらの世界での看病に切り替え……」
そこでようやく、達志の合点がいく。
なるほど、個室でいいベッド……こんな高そうな病室によく入院できていたなと思っていたが。
そういうこと、だったのだ。
一国の姫であるリミの計らいで、病室を使わせてもらっていた。おそらく金銭面等も負担してもらっていたんだろう。
「そうだったんだ。ありがとう、リミ」
こんないい部屋に、しかも十年も入院ともなれば、莫大な費用がかかることは想像に難くない。
だが、それをリミの計らいで負担してもらっていたともなれば、感謝してもしきれない。
達志からのお礼を受けたリミは、一瞬キョトンとした表情になった後……みるみる顔を赤らめていく。
そして、わたわたと手を振り慌てる。
「い、いえお礼なんて! ……それに、私を助けたせいであんなことになって……お礼どころか、私が謝罪すべきなんです。
お母様のことだって、生活を全面的に援助すると言ったのですが……」
「そこまではいらない、って言われたんでしょ。母さんあれで結構頑固だから」
「! すごい、やっぱり親子ですね!」
リミの負い目は、当然達志の親であるみなえにも向けられた。息子をあんな目にあわせた責任として、彼女の生活を援助するつもりでいた。
しかしみなえは、息子の看病に加えてそこまでは甘えられないと、申し出を断っていた。
それでも、心ばかりのお礼はしているのだが……
送ったお金も、なかなか受け取ってはもらえない。
「あの時は本当に……本当に申し訳ありませんでした。それと、今日のことも。面会時間過ぎてるのに、無理言って来させてもらったんです!
……そして、あの時助けていただいて……本当に、本当にありがとうございました、」
ペコリ、と頭を四十五度下げる。
それは、セニリアが見せたお辞儀よりは不格好で、しかしそれよりも誠意がこもっているように見えて。
己が犯してしまった罪……その謝罪、そしてお礼を、十年の時を経てようやく、言うべき相手に言うことが出来たのだ。
この時を持って、肩の荷が下りたように感じたのは……きっと気のせいではないだろう。
「あはは、いいって……って、こんなことばかり言ってたら平行線だな。
じゃあ、えっと……どう、いたしまして」
「……っ」
十年前に、自分を救ってくれた少年。彼に、ずっとお礼を言いたかった。
来る日も来る日も病室を訪れ、彼の目が覚めるのを待ち続けた。
いつまで経っても、目覚めることのない……植物状態の彼。
毎日祈りを捧げた。毎日彼の下に通った。
……そして今日、ついに……あの日の感謝を、彼に伝えることができた。自分の命を救ってくれた恩人に。
とはいえ、今伝えたのは多大なる想いの想いのほんの一欠けらに過ぎない。
この十年分の想いを伝えるには、どれほどの時間を尽くせばいいだろうか。どれほど語れば、自分の想いは伝わるだろうか。
この感謝の想いを。どうしようもなく高まる、この胸の温かさを。
「タツシ様は私の、命の恩人です!」
ほんのりと赤く染まった頬で達志を見つめる少女、リミ。
命の恩人である達志に対して、自らが犯した罪のせめてもの贖罪……彼が、目覚めるのを願う。それしかできない、己の無力さが、悔しくて。
それはリミにとって、どうしようもない苦痛でしかなかった。自分ができるのは、誰かに託すことだけ。
医師に託し、そして天に祈り、恩人の吉報を願うことしか、できない。
それがたまらなく嫌で、何もできない自分が嫌になった。そんな日々が十年続き……今日ようやく、目覚めた彼と再会を果たした。
そして、こうして言葉を交わした。お礼を言えた。それだけでなく、リミ自身の無事を喜んでさえくれた。
これがどれほど嬉しかったか……
「本当に……目覚めて、よかっ……」
「リミ……」
目に溜まる大粒の涙をぽろぽろこぼし、セニリアから差し出されたハンカチで、リミは涙を拭う。
目覚めたと知らされたときとはまた、違った喜び。安心。
あふれる涙は、自分の意思でとめることなど、できなかった。
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