目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました

第10話 再開した幼なじみとの動き出す時間

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 由香は、嬉しくてだらしなくなる顔を引き締めようとするのだが、うまくいかないようだ。

「えへへ。……私ね、ホントは一番にたっくんに伝えたかったんだよ。あ、もちろん、寝ているたっくんに一番に報告しに来たけどね」

 その思いは、いかなるものだっただろう。夢が叶ったことを一番に報告したかった人が、そこにいない。
 近くにいるのに、遠く、遠くにいる。

 眠っている彼に話しかけても、労いも悪口も、ただの一言さえも返ってこない。……彼が目覚めない、十年間という時間に、なにを思っていたのか。
 一番に報告したかった人に、今こうして改めて、自分の夢が叶ったことを報告できている。
 それは、ようやく伝えられた思い。

 ただそれだけのことが、どうしようもなく嬉しい。返事を返してくれるのが、嬉しい。笑顔を浮かべてくれるのが、嬉しい。
 胸が、熱くなるほどに。

 ……夢を叶えた幼なじみを前に、達志は切実に思った。自分が眠っている間にも、みんなはそれぞれの道を歩いている。夢を、叶えている。
 みんなが歩んできた道に、世界に、自分はいない。由香が夢を叶えた瞬間にも、立ち会えなかった。
 ……その世界を、見たかった。

「……おめでとう、由香」

「……ありがとう、たっくん」

 ……それから由香は、自身の身の上話を話してくれた。それは当然ながら達志が知らない『空白の十年』で、由香が辿ってきた道で。
 時には、達志が眠るより前……もっと小さい頃の、昔の話をしたりなんかして。

 そこで気づいたのが、由香も昔のことを覚えてるは覚えてるのだが、どちらかというと達志の方が覚えてるということだ。
 つまり、それが『十年分の差』ということだが、当然といえば当然のことだろう。

 例えば達志が十年前の話をしたとして、それは由香にとっては二十年前の話になるということだ。そこには当然、記憶に差が出てくるわけで。
 そこに若干の寂しさはあったものの、それを口に出すことはない。むしろ、思い出話に花を咲かせ、笑いあう。そんなやり取りがあった。

 記憶の差異に憂うでなく、あんなことあったねと面白おかしく笑う。そんな、温かな空間。

「え、あのアニメ終わったの!?」

「まあ、十年も経てばね」

「え、あのマンガ終わったの!? ラノベも!?」

「まあ、十年も経てばね」

「マジかよぉ! でも考えようによっちゃ、一気見できるチャンス!」

 教えられる情報に、達志は一挙一動。十年も経てば当然世の情勢も変わる。
 その一つ一つが新鮮で、一つ一つが悲しくて。

 数々の驚きの中、由香が夢を叶えて教師になっていたことにも驚いたが、なにより一番の驚きは由香が今、一人暮らしをしているということ。
 達志の知ってる由香は、ドジというか天然というか。とにかく危なっかしくて一人行動なんてさせられる人間ではなかった。

 ……この十年で、由香は変わったんだな。自分の後ろばかり着いてきていた由香が、今や一人で歩きだしている。その事が嬉しく、寂しい。

「親かよ俺は……」

 ……どれくらい話しただろう。頃合いを見て、起きたばかりで長居しても悪い、という理由で由香自ら席を立つ。
 母さんも同じこと言ってたななんて思いつつ、こういう気遣いも出来るようになったことに、達志は感慨深く感じる。

 部屋から出ていく直前、踏み止まった由香は……ゆっくりと振り向き、達志を見る。その目には、今にもこぼれ落ちそうな涙が浮かんでいて……

「……たっくんに言いたいこと……たっくんとやりたいこと……いっぱいあった。たっくんがあんなことになって、改めて気づいたんだ。
 この十年、たっくんのことを考えない日はなかったよ。だから……
 ……ううん。……また、来るから。退院の日がわかったら教えてね!」

 涙を拭うのが間に合わず、一筋が頬を伝い流れ落ちる。涙を見せたくなくて……早々に、背を向けて。最後に明るく言い残して、彼女は去る。
 その涙に、達志はしばし言葉を失っていた。

 それは安堵によるものだ。
 本当に、心配させてしまった……今度、なにかお詫びをしなければいけないだろう。

 ……再会した幼なじみ。それは、止まっていた達志の中の歯車を一つ、動かしていった。

「……ふぅ」

 十年ぶりの母と幼なじみとの再会。体感でなく、現実時間でそれを体験した達志は、ため息を漏らしてベッドに寝転がっていた。
 自分の知らぬ間に老けた母。大人になった幼なじみ。

 その事実に、達志はなんとも言えない気持ちを……いや、これはきっと寂しさという気持ちを、感じていた。

「なんだかなぁ……」

 誰かと話している時は、気が紛れるのだ。だが一人だと、どうしても考えてしまう。
 だから、誰でもいいから来てくれないかなと思っていた。

 とはいえ、会えば、十年間の重みをさらに感じることになるのではないか。そんな矛盾した気持ちを抱えている時だった……

「よぅ、達志。元気か?」

「久しぶり、達志くん」

 そこへ、つい『昨日』聞いたはずの……しかしやはりどこか懐かしい声が、達志の耳に届く。
 これは、母や由香と再会した時と同じ感覚。つまり……

「……猛、さよな……?」

 部屋の入口から、中へと入ってきたのは、由香と同じく達志の幼なじみ、茅魅 猛かやみ たける五十嵐いがらし さよなであった。
 
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