10 / 184
第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
第9話 目が覚めたら、幼なじみが十歳年上になり社会人になっていた件について
しおりを挟む"たっくん"
懐かしさを感じる顔立ち、気持ち。そしてなにより、達志のことを「たっくん」と呼ぶのは一人しかいない。
背は伸び、以前とは違う。顔は大人っぽくなりながらも、童顔の部類。女性としてはコンプレックスを感じていた身体も、今ではスタイルは抜群だ。
あの頃の面影を残しながらも、成長したその姿。正直姉だと言われた方がまだ納得できるが、あいつに姉妹はいない。つまり、本人。
達志にとっては、つい『昨日』会ったばかり。それが驚くべき変化を遂げている。
だが、そもそも忘れてはならない。あれから、十年の時が経っているということを。だというのなら、この見た目の変化も納得せざるを得ない。
「……まさか……ゆ、か……か?」
「……十年ぶりなのに、覚えてくれてだんだ」
そこにいたのは……達志の幼なじみである、如月 由香であった。由香は達志の言葉を聞くなり、今にも泣いてしまいそうなほどに目の端に涙を溜め、微笑んでいる。
その表情を見るだけで、彼女がどれほど心配してくれていたのかが伝わる。
……母みなえは、この後来る人物と二人きりにするために、一人帰宅した。
わざわざ十年ぶりの息子との再会を中断してまで、気を遣おうと考える人物……そんなのは、限られた人物しかいない。
全く、いらぬ気を使わせてしまったものだ。わざわざ自分が去ってまで二人きりにしたい相手が、幼なじみの由香であるとは……
「……由香」
「……なに? たっくん……」
こう呼ばれるのも、『昨日』までは気恥ずかしかったのに、今では心地よささえ覚える。
体感では昨日のことでも、実際には十年経ってしまったと……心が、感じ取っているのだろうか。不思議だ。
なにを言われるのか……期待に瞳を潤ませ、頬を赤く染めながら待っている由香に対して、達志は……
「しっかしお前……えろくなったなー」
「……なっ……!」
気を遣うほど感動的な再会など、俺とこいつには似合わない……だから達志は、思いのままに感じたことを伝えた。しかしそれは、母の時とまったく同じ間違いだった。
現に、それを聞いた由香は顔を真っ赤に、腕で胸を隠し、内股になる。
しかし、その恥じらいの姿がまたそそるというもの。
「へ、変態! たっくんのえっち! せっかくの再会の言葉がそれなの!?」
感動的な言葉を期待していた由香の乙女心は見事に崩れ、代わりに湧いてきたのはなんとも言い難い、形容しがたい気持ち。
十年ぶりの再会が、こんな形で……だから由香は、怒る。とはいっても、恥ずかしさで顔を真っ赤に染め上げているため、迫力はないのだが。
思いのままに感じたことを伝えた結果、案の定、罵られてしまう達志。
しかし、母親といい由香といい、こうも身近な人物の成長を見せつけられると……つくづく、十年経った世界というものを突きつけられる。
それに由香の成長ぶりは、人ってこうも変わるんだな、と目を見張るものがある。
昔は胸はぺったん、背も低く、自分のスタイルに自信がないと言っていた。一部ではそこがいいと、ファンクラブまで存在するほどであったが。
……それが今ではどうだ。すっかり大人のお姉さんではないか。
自分の知らぬ内に、みんな成長していたのだ。自分の、知らぬ内に……
……目が覚めたら、幼なじみが十歳年上になり社会人になっていた件について。今の状況を簡潔にまとめるなら、この言葉で充分だろう。
「十年、か……」
寝る前を昨日とするなら、昨日まで達志は、高校に通っていた。目の前の、由香と一緒に。
それが、どうだ。あの、高校生にすら見えなかった幼児体型の由香が、モデル顔負けのナイスバディになっている。それでも変わらぬ童顔と内面に、少しばかり安心感はあるのだが。
これが十年か。
「そっか……びっくりした、よね。こんな……」
「そりゃもう。百歩……いや千歩譲って……まあ現実だから譲るもなにもないんだが、十年後は受け入れるにしても……この世界観は何よ」
十年の世界。それだけでも処理しきれない事柄なのに、問題はそれだけにはとどまらない。十年後の世界と同じくらい……いや、むしろそれよりも大きな問題がある。
『十年の歳月』……そして『異世界っぽくなった世界』。
前者はまだ現実味のある現象ではあるが、後者はとてもではないが現実味もなにもあったものではない。
獣人、魔法……フィクションの中でしか見たことのない世界が、目の前に広がっているのだ。真っ先に自分の頭がおかしくなってないかを疑った。
夢でないかを疑った。……これは、現実だった。
窓の外には、以前と変わらず近代的な建物が並んでいる。無駄に大きなビル、マンション、建設中の建物……というのに、この世界ではファンタジーな要素が絡み合っている。
仮にここが異世界なら、まだ幾分か受け入れられただろう。
目が覚めたら異世界……なんて、召喚ものや、達志の場合であれば事故のショックで異世界に飛ばされる、とか。
達志の大好きなラノベでありがちな展開だ。予習だってしている。
……だが、ここは異世界じゃない。『異世界っぽい現実の世界』だ。ファンタジーだけどファンタジーじゃない。
獣人が現代機器を使いこなし、飛行機と平行して鳥人間が飛び、庭では子供が魔法を放ちそれを注意されている。
「……なんだこの世界」
自分の知らない間に変わってしまった世界。世界がこうなった理由はウルカから聞いたものの、それでもやはり……いや。
今は、いいか。せっかく目の前に幼なじみがいるのだ。世界の情勢とは別に、彼女の状況を聞いてみたい。
……聞きたいことはたくさんある。あるのだが……うまく、言葉にできない。由香は、達志がなにかを言うのをただ待ってくれている。
……ならば、なにも考える必要はない。ただ素のままに、疑問をぶつければいい。
「……由香は、会社員?」
大人になった幼なじみを前に、その身体の成長を除けばまず気になったのは、着用しているスーツだ。なにせ、眠る前までは……達志にとっての昨日までは、由香は高校生だった。
それが、今では成人している。
「ううん、実はね私、教師になったんだ」
「へぇ、すげえな、きょう…………え、マジで!?」
思わずさらっと流してしまいそうになったが、衝撃の告白に、驚きを隠せない。
働いていることに驚きはしないが、高校生の時は、達志より……というか、学年の中でも最下位に近いほど頭が悪かったのだ。それに、性格としても子供っぽかったというのに。
だというのに、だ。
「あ、今失礼なこと考えてるでしょ」
「おお、思ってない思ってない! バカなのによく教師になれたなとか、性格は今でも子供っぽいのにとか思ってないから! そもそも教師とかウソだろとか思ってないから!」
「めちゃくちゃ思ってるじゃん! 失礼を通り越してなんかもうすごいね!?」
達志の態度に、不服だと猛抗議する由香は頬を膨らませる。
その仕草が以前となんら変わりなく、外見は変わってもやはり中身は変わってない……その事実に、達志は安心する。
「ウソじゃないもん。証明書だってあるもん。見る?」
「や、いいよ。由香がそんなウソつかねえことくらい知ってる」
「なら覚えてるかな? 私の夢……」
「覚えてるもなにも、俺にとって十年経った実感ないって。忘れる要因がねえよ」
由香の夢……無論、覚えている。実のところ由香は昔から教師に憧れていたのだ。私教師になる……なんて言われたときには、無理無理とあしらっていたが……
「夢、叶ったんだ。おめでとう」
こうして、ちゃんと夢を叶えている。あの時からかっていた自分を殴ってやりたい。
幼なじみからの労いの言葉に、夢を叶えた少女……いや女性となった彼女は、頬を緩め、赤らめる。
11
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スキルガチャで異世界を冒険しよう
つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。
それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。
しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。
お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。
そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。
少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家の猫がポーションとってきた。
熊ごろう
ファンタジー
テーブルに置かれた小さな瓶、それにソファーでくつろぐ飼い猫のクロ。それらを前にして俺は頭を抱えていた。
ある日どこからかクロが咥えて持ってきた瓶……その正体がポーションだったのだ。
瓶の処理はさておいて、俺は瓶の出所を探るため出掛けたクロの跡を追うが……ついた先は自宅の庭にある納屋だった。 やったね、自宅のお庭にダンジョン出来たよ!? どういうことなの。
始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる