目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星

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第一章 異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました

第1話 目覚めた先は見知らぬ病室

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 ――――――

「…………」

 ―――意識が覚醒したのは、今しがたのことだ。
 現在、眠っていた男の名前は、勇界 達志いさかい たつし。暗闇が支配していた世界を、つい先ほどまで味わっていた。

 音もなく、一筋の光もなく……ただ、闇が世界を支配している。それがどれほど続いたのか、どれほど続くのか途方もない空間。
 あるいは、意識がない彼には一瞬の出来事だったかもしれない。

 圧倒的な孤独感……それは、眠っている達志にはなんの意味も持たない。

 不意に、途切れていた意識が覚醒し、視界を暗闇が支配しているのを確認する。視界を開くために瞼を開こうとするのだが、何故だか瞼が重い。
 視界を開くだけの簡単な作業。それが何故か、とても難しい作業のように彼は感じていた。

 しばらくの時間をおいて、ゆっくりと……ゆっくりと、瞼を開く。開けた視界に映るのは、ぼやけた景色の中にある、白い壁であった。

「……あれ、ここは……」

 絞り出すような、声。うまく、言葉が出ない、気がする。

 ぼんやりと見つめているうちに、それが壁でないことに気がついた。自分が横になっていることに、今気づいた。
 ということは、あれは天井だろう。
 背中に感じる柔らかな感触から、自分が寝ているのは床などではなく、ベッドの上だということも。

 普段であれば、自室で目覚めたと理解するのだが……あいにくと目の前にあるのは、見知った自室の天井ではない。
 ならば自分は何故、ベッドに寝かされているのか。何故、ここにいるのか……というか、そもそもここはどこなのか。

 疑問が先ほどの言葉だ。だが、声が思ったよりも枯れていることに気づく。その上寝起きにしては、いつにも増してだるさが体を支配している。瞼も重い。いつもの半分ほども開けない。
 いったい……何が何だか。それに妙に頭が痛い。ズキ、ズキと。痛くて我慢できないわけではないが、煩わしさの残る感覚。

 まずは現状を確認しないことには、どうしようもあるまい。あれこれ考えるのはそれから……

「イサカイさーん、検診のお時間ですよー。って、眠っている相手に言っても意味な……え……え!?
 う、ウソ、目が覚めてる!?」

 耳に届いたのは、女性の声。驚きの乗った声色。知らない声だ。
 今、検診と言ったのか。
 さらに言葉の内容から察するに、達志の目覚めに驚愕している……ようだ。

 検診という言葉、そして目覚めに対する驚愕……それが、達志の中に疑念を膨らませていく。
 検診ということは、ここは病院……病室、ということか?

 だがおかしい。目覚める前に眠った場所といえば、自分の部屋以外に考えられない。……その、はずだ。

「……? く……っ」

 しかし、どうしてかその情報に自信が持てない。
 というのも……思い返して気付いたが、眠る前の記憶が混濁しているのだ。自分が、眠る前になにをしていたのか思い出せない。
 なにか、大変なことがあったような気がする。

 思い出そうとすると、頭の痛みが増すのだ。

「はい、はい。そうです、患者が目覚めて……至急、お願いします先生」

 頭の中で考えている間にも、声の主は行動を見せていた。
 声の主……先ほどの女性が、どこかに電話をかけているらしき場面。ここが病室なら、看護師だろうか。

 その中の単語に、ひどく違和感を覚える。患者……と言ったのだ、女性は今。自分が寝かされ、検診だと言われた時点で、気づくべきだった。
 達志は今、患者として、ベッドに寝かされている。

 目覚めたことにより、だんだん意識がクリアになってくる。感覚も、徐々にはっきりわかるようになってきた。
 先程から鼻をつく薬品の匂い。腕にある違和感……少しだけ動く首を動かし確認すると……点滴が刺さっていた。重たい瞼から覗く瞳でも、なんとかわかった。

 ……人の気配は、他にない。今この部屋に居るのは、ベッドに寝かされた達志と、謎の女性のみ。つまり、ここは個室らしい。個室だなどと、贅沢なことだ。
 しかし、なぜ自分はこんなところに……

「……気がつかれました? 体の調子は、いかがですか?」

 電話を終えた女性は、声をかけてくる。その優しげな声色に安心しつつ、声のした方向に目を向ける。よくわからないことだらけだが、声の主から悪意は感じない。
 ならばひとまずは、彼女に現状を確認るべきだろう……

「ご自身のお名前、わかりますか? って、あ、しゃべるのがつらかったら、無理はしないで……あ、それに、ちゃんと聞こえてるのかな……」

「……あ」

 女性は、わたわたと慌てている。なにか、未知のものに遭遇したかのようだ。
 まだ頭は混乱している……しかし、質問に対して条件反射で、達志は答える。

「……いさ、かい……たつし、です」

 患者という言葉。加えて今の質問。もしかしたら自分は、記憶障害を疑われているのかもしれない。他にも、耳が聞こえているのかも。
 それ以外に、今の状況を説明する術を、達志は知らない。

「……よかった。ご自身の家族構成、わかりますか? ゆっくりで大丈夫ですよ」

 次いで質問されるのは、やはり自分は記憶障害を疑われていると、疑問が確信へと至るに充分なものだ。しかしそんな質問は、無駄だ。

「ははといもう、と……ち、ちは、むかししんで……」

 こうして答えることが出来るということは、自分は記憶障害などではない。まだ掠れた声で、たどたどしい口調で答えると同時、それを伝えようとする。
 達志の家族構成は、父親と母親、妹の四人構成というごくごく普通の家庭……とは言い難い。

 父親は、妹が小さい頃に事故で亡くなっており、母親は女で一つで自分たちを育ててくれたのだ。この記憶は、疑いようのない、達志の確かな記憶だ。
 手元の資料を見て、看護師は頷いている。どうやら、資料の情報と一致しているか確認しているようだ。

 なんでこんなことになってるか覚えてはいない。聞きたいこともあるが、今自分は流暢にはしゃべれない。ならば、質問に答えていくのが無難だ。

 しばらくの時間を経て、重かった瞼がようやく開く。光が、まぶしい。

「あの、すみま、せん。すこし、こんら、んしてて……」

 その視界の先には、看護師の女性が、立っていた。
 ……瞬間、達志は自分の目を、頭を疑うことになる。

「……っ?」

 ……そこには、ナース服を来ている人。いや、人型のシルエットの……犬の顔のような形をした何者かが、達志の顔を覗き込んでいた。

「いえ、無理もないです。なにせ、十年も眠っていたんですから……」

「……ん?」

 さらに、女性の言葉により……頭の中が、余計に混乱した。
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