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第40話 稽古の時間
しおりを挟む波乱の幕開けとなった食事会も、滞り無く終了した。
この時間で、メンバー間の親交はある程度、深められたんじゃないかと思う。
……ガルロ以外は。
「ガルロ様とも、仲を深めておくべきだと思いますが」
「そうは言ってもな……彼に寄り添おうという気持ちが見受けられないし、今迫っても逆効果じゃないか」
私の提案に、勇者は首を横に振った。
今が逆効果とか雰囲気がわかっているのなら、私が話しかけるなというオーラを出している雰囲気も、感じ取ってもらいたい。
いつ出しているかって? 主に一日中だけど。
「それでも、これから旅を共にするんですから。仲良くとまではいかなくても、せめてチームワークがうまくいくくらいの関係性は作ってください」
勇者の人間関係がどうなろうと、私にとってはどうでもいいことだけど……
これからのことを考えれば、パーティー内の空気が悪いのは、よろしくない。
なんせ、命をかけた旅路だ。背中を預け合う関係なのだから、一定の信頼関係がないといけない。
「……リィンがそう言うなら」
不満そうな勇者だけど、こればかりは仕方がない。
食事会が終われば、今度は実践形式の稽古だ。
それぞれ、みんななにができるのか。それを確認しておかなければ、ならない。
弓使い、ナタリ・カルスタンド。
魔法使い、ミルフィア・オルトス。
武闘家、ガルロ・ロロリアス。
彼らの実力は、どれほどのものか。把握しておく必要がある。
逆に彼らも、私たちの力を把握する必要があるだろう。
「えっと……じゃあ、わたしから」
訓練所にて、ミルフィアが一歩前に出た。手には、自分の背丈ほどもある魔法の杖。
魔法使いは基本、自分専用の魔法の杖を持っている。大きさは様々だけど、まミルフィアが持っているのは一般的よりも大きいと思う。
そしてミルフィアの眼前には、五つの的が等間隔で横並びに置かれている。
それに向かって、ミルフィアは魔法を放つ。
「えいっ」
「おぉ……」
魔法には、それぞれ火、水、土、風の四つの属性がある。
基本的には、魔法は一人一つの属性しか使えないらしい。中には、二つの属性を組み合わせることのできる人も、いるみたいだけど。
そして、ミルフィアは……四つの的に、火、水、土、風の属性の魔法をそれぞれ使い、一つずつ丁寧に当てていく。
さらには、残った一つを……
「これで……最後っ」
四つの属性を組み合わせた、複合魔法。それを放ち、撃ち抜いた。
魔法は、基本的に一人一属性。複数使えても、それを組み合わせるのは相当な鍛錬が必要だ。
それをミルフィアは、わずか二十代半ばで、四つの属性魔法が使える上に四つの属性を組み合わせることもできている。
まさに、天才と言うべき逸材。
彼女が選ばれた理由も、わかるというものだ。
「おお見事。素晴らしいですね、ミルフィアさん」
「あ、ありがとうございます」
すべての的が撃ち抜かれ、真っ先に手を叩いて拍手するのは、王女だ。
パチパチパチと褒められ、ミルフィアはまんざらでもない表情になった。
これはたしかに、素晴らしい。魔王退治の旅に、なくてはならない存在だ。
私は魔法は使えない。魔力が込められた、魔石を使ったことがあるくらいだ。
その程度の知識でも、ミルフィアがどれだけすごいかはわかるつもりだ。
「これはすごいな。自分も、魔法使いを見たことはあるが……ここまで精度の高い魔法を使う者は、初めて見た」
「あぁ、俺も魔法はちょっと使えるけど、全然こっちのがすごいよ!」
「ど、どうも。えへへ」
ナタリと勇者もまた、ミルフィアを絶賛する。
褒められ慣れていないのか、彼女は身体をくねくねさせて視線をあちこちに動かしている。
なんにしても、これだけの魔法使いがパーティー内にいるというのは、心強い。
「なら、次は自分だな」
次は自分の番だなと、ナタリ・カルスタンドが前に出る。
用意された弓矢を受け取り、構える。その先にあるのは、先ほどミルフィアが撃ち抜いたのと、同じ的。
それに狙いを定め、ナタリは矢を放つ。
狙いは寸分狂うことなく、中心へと突き刺さった。
「おぉっ」
「まだまだ」
射抜かれた弓は、的の中心に吸い込まれるように、突き刺さった。
しかし、ナタリはそれに満足すること無く、次の矢を準備する。三本も。
そして、弓に構える……三本の矢を、いっぺんに。
「三本も……?」
「ふっ」
まるで、風を切るように……ひゅっと放たれた矢は、三本が三本とも、的の中心へと突き刺さった。
それは、驚くべき光景。四本の矢が、的の中心を射抜いていた。
私は矢を打ったことなんてないけど、これが相当な技術であることはわかる。
「すごいな、ナタリ!」
「まだですよ」
テンションの上がる勇者に、ナタリは冷静なままだ。
次に目を向けるのは、先ほどミルフィアが撃ち抜いた的……を支えていた細い木の棒。
その直後、ナタリは走り出す。棒と一定の距離を保ったまま。
横並びの棒に、並行するように走っていき……一本一本、矢を打っていく。
打たれた矢は、木の棒に突き刺さる。等間隔で横並びに立っていた木の棒に、正確に一本ずつ。
走りながら打った矢が、狙い通りに突き刺さっていた。
「おぉ!」
「素晴らしい精密さですわ」
「す、すごい……」
「これくらい、当然です」
まさか、ここまで凄まじい弓矢の使い手だとは。びっくりだ。
派手さで言えば、魔法には及ばない。でも、静かに風を切る鋭さが、派手さはなくとも敵を確実に打つ説得力をくれる。
魔法使い、弓使い。これは、パーティーの力も底上げされるというもの。
……そして、この二人が済んだということは。
「じゃあ、お前の力を見せてもらおうか」
私と同じく考えたのか、勇者が視線を向ける。
残った一人……武闘家、ガルロ・ロロリアスへと。
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