19 / 45
第19話 罪の行く先
しおりを挟む勇者、カズマサ・タカノ。危機に瀕したこの国、いや世界を救うために異世界から召喚された、男の子。
彼は、世界を救う宿命を持っていた。
王女、リミャ・ルドルナ・ロベルナ。王女でありながら、異世界の勇者を筆頭に編成される勇者パーティーの、一員。
その能力は"女賢者"……ヒーラー、つまり回復能力だ。どんな深い傷でも、たちまち癒やすことができる。
そして、私リィンもまた、勇者パーティーの一員だ。その能力は、"猛獣使い"。
勇者と王女と私……そして魔法使い、武闘家、弓使いの計六人で、勇者パーティーの全員だ。
……けれど、前の時間軸で勇者パーティーが結成されることは、なかった。
『リィンさん……いや、リィン……! よくも、よくも勇者様を……!』
地下牢に監禁された私は、王女の怒りを、憎しみを一身に受けた。
それもそのはず。私は、勇者を殺したのだから。
世界を救う宿命にあった、勇者。彼を殺したことは、すなわち世界を危機に陥れたに等しい。
それ以上に……王女にとって、勇者は特別な存在だった。
『なんで、勇者様を殺したの』
『言ったでしょう。あの男が、私を犯したから。この身体を好きに弄ばれました。どれだけ叫んでも、どれだけ抵抗しても、やめてくれなかった。
あの痛みを、屈辱を、私は忘れることはできません。だから……』
『……っ、話にならないわね』
王女は、地下牢に閉じ込められていた私に、定期的に会いに来た。
それは、捕まえられた私を心配して……というわけでは、決してない。彼女にとって私は、絶対に許せない存在。
彼女が私の下に訪れるのは、ぶつけようのない感情をぶつけるため。そして私が勇者を殺した理由を、聞き出すため。
もう、何度目の同じ質問だろう。
それに対し私は、何度目かの同じ答えを返す。
もっとも、彼女は私が真実を話しても、まったく信じてくれないから……こんな、不毛な時間が続いているわけだけど。
『あなたが勇者様をかどわかし、私たちをも騙して……そんな、妄言を! 反省の色も見えないなんて……あなたには、屈辱的な罰が下るでしょうね!』
私の言うことはなに一つ、信じてはもらえない。元々、私の味方はこの国にはいなかったんだ。
決定的に、みんなとの間に溝ができた。
勇者を殺し、勇者に襲われたと嘘をつきみんなを騙した……その罪は、決して許されるものではない。
反省の色を見せない私に、情状酌量の余地はなかった。
もっとも、私は勇者を殺したことは後悔していないし、助かりたいがために媚びるつもりもない。
殺すなら、殺せばいい……そんな、投げやりの気持ちになっていた。
……だけどあの日。死んでいたと思っていた感情が、爆発した。
『……えっ?』
その日、ある兵士がやってきた。
私は逃げるつもりはないけれど、牢屋から逃亡しないように見張りの兵士が交代制でつくのだ。
その兵士は、私に言った。
『カロ村、この村の名前に心当たりはあるな?』
『……?』
それは、私にとって聞き流せない言葉だった。
これまでは、私に話しかけてくる言葉があっても、それは悪意や罵倒といった負の感情をぶつけてくるものだ。
だから、聞き流していた。けれど、カロ村の名前を出されては、聞き流すわけにはいかない。
なぜなら、カロ村は私の故郷なのだから。
『そう、だけど……』
『そのカロ村だがな……滅んだらしいぞ』
『……は?』
兵士は、淡々と言った。
私は、なにを言われているのか、わからなかった。
『な、んで……』
『どうにも、魔族に滅ぼされたらしいな。村は壊滅、住んでいた人たちも全員死んだって話だ』
『ま、ぞく……』
故郷の村が、滅ぼされた……魔族に。
住んでいた人たちは、全員死んだ。そんな、嘘だよ……近所のおばちゃんも、いつも野菜を分けてくれるおじちゃんも、懐いてくれてた子供たちも……
……シーミャン、も……
『これも全部、お前のせいだ。わかっているのか?』
『……へ? わた、し?』
『そうだ。お前が勇者様を殺さなければ、今頃は魔族を討伐するため旅に出ていただろう。
だが、お前が勇者様を殺したせいで、魔族に対抗する術は失われた!』
兵士は、檻を蹴り……私を、睨みつけた。
『なんだその顔は。まさか、自分がやったことのせいでどんなことが起こるか、考えてもなかったのか?』
『あ、ぁ……』
『俺はその村のことは知らないが……お前のせいで、お前の故郷の人間が死んだんだ。
はっ、ざまあないな人殺し。これがお前がやったことの報い……その一端だ』
『う、ぅぁ……』
『これから、もっと多くの人間が死ぬ。魔族によって、多くの人間が。本当なら助かった人たちが、死んでいく。
お前のせいでな!!』
『ああ、あぁああぁあああぁああ……!!』
……その日は、私は牢屋の中でずっと、泣いていた。
泣き声が不快だの静かにしろだの、暴言を投げつけられながら。私は、泣いた。
人を殺しても、痛むことのない心だと、思っていた。
思っていたけど……心が、痛かった。張り裂けてしまいそうなくらいに……痛かった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
暇だったので、なんとなくダンジョン行ってみた
himahima
ファンタジー
勢いで会社を辞めたおばさんは暇だった。
なんもかんも嫌になって仕事を辞めたが、目標も気力もない自堕落な生活をおくっていた。
ある日、テレビに映る探検者なるキラキラした若者達を観てなんとなく近所のダンジョンに行ったことから、第二の人生がはじまる。
★初めてのファンタジー投稿です。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる