勇者殺しの平民は、世界をやり直す ~平穏を目指す彼女のリスタート~

白い彗星

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第19話 罪の行く先

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 勇者、カズマサ・タカノ。危機に瀕したこの国、いや世界を救うために異世界から召喚された、男の子。
 彼は、世界を救う宿命を持っていた。

 王女、リミャ・ルドルナ・ロベルナ。王女でありながら、異世界の勇者を筆頭に編成される勇者パーティーの、一員。
 その能力は"女賢者"……ヒーラー、つまり回復能力だ。どんな深い傷でも、たちまち癒やすことができる。

 そして、私リィンもまた、勇者パーティーの一員だ。その能力は、"猛獣使い"。
 勇者と王女と私……そして魔法使い、武闘家、弓使いの計六人で、勇者パーティーの全員だ。

 ……けれど、前の時間軸で勇者パーティーが結成されることは、なかった。


『リィンさん……いや、リィン……! よくも、よくも勇者様を……!』


 地下牢に監禁された私は、王女の怒りを、憎しみを一身に受けた。
 それもそのはず。私は、勇者を殺したのだから。

 世界を救う宿命にあった、勇者。彼を殺したことは、すなわち世界を危機に陥れたに等しい。
 それ以上に……王女にとって、勇者は特別な存在だった。


『なんで、勇者様を殺したの』

『言ったでしょう。あの男が、私を犯したから。この身体を好きに弄ばれました。どれだけ叫んでも、どれだけ抵抗しても、やめてくれなかった。
 あの痛みを、屈辱を、私は忘れることはできません。だから……』

『……っ、話にならないわね』


 王女は、地下牢に閉じ込められていた私に、定期的に会いに来た。
 それは、捕まえられた私を心配して……というわけでは、決してない。彼女にとって私は、絶対に許せない存在。

 彼女が私の下に訪れるのは、ぶつけようのない感情をぶつけるため。そして私が勇者を殺した理由を、聞き出すため。
 もう、何度目の同じ質問だろう。

 それに対し私は、何度目かの同じ答えを返す。
 もっとも、彼女は私が真実を話しても、まったく信じてくれないから……こんな、不毛な時間が続いているわけだけど。


『あなたが勇者様をかどわかし、私たちをも騙して……そんな、妄言を! 反省の色も見えないなんて……あなたには、屈辱的な罰が下るでしょうね!』


 私の言うことはなに一つ、信じてはもらえない。元々、私の味方はこの国にはいなかったんだ。
 決定的に、みんなとの間に溝ができた。

 勇者を殺し、勇者に襲われたと嘘をつきみんなを騙した……その罪は、決して許されるものではない。
 反省の色を見せない私に、情状酌量の余地はなかった。

 もっとも、私は勇者を殺したことは後悔していないし、助かりたいがために媚びるつもりもない。
 殺すなら、殺せばいい……そんな、投げやりの気持ちになっていた。

 ……だけどあの日。死んでいたと思っていた感情が、爆発した。


『……えっ?』


 その日、ある兵士がやってきた。
 私は逃げるつもりはないけれど、牢屋から逃亡しないように見張りの兵士が交代制でつくのだ。

 その兵士は、私に言った。


『カロ村、この村の名前に心当たりはあるな?』

『……?』


 それは、私にとって聞き流せない言葉だった。
 これまでは、私に話しかけてくる言葉があっても、それは悪意や罵倒といった負の感情をぶつけてくるものだ。

 だから、聞き流していた。けれど、カロ村の名前を出されては、聞き流すわけにはいかない。
 なぜなら、カロ村は私の故郷なのだから。


『そう、だけど……』

『そのカロ村だがな……滅んだらしいぞ』

『……は?』


 兵士は、淡々と言った。
 私は、なにを言われているのか、わからなかった。


『な、んで……』

『どうにも、魔族に滅ぼされたらしいな。村は壊滅、住んでいた人たちも全員死んだって話だ』

『ま、ぞく……』


 故郷の村が、滅ぼされた……魔族に。
 住んでいた人たちは、全員死んだ。そんな、嘘だよ……近所のおばちゃんも、いつも野菜を分けてくれるおじちゃんも、懐いてくれてた子供たちも……

 ……シーミャン、も……


『これも全部、お前のせいだ。わかっているのか?』

『……へ? わた、し?』

『そうだ。お前が勇者様を殺さなければ、今頃は魔族を討伐するため旅に出ていただろう。
 だが、お前が勇者様を殺したせいで、魔族に対抗する術は失われた!』


 兵士は、檻を蹴り……私を、睨みつけた。


『なんだその顔は。まさか、自分がやったことのせいでどんなことが起こるか、考えてもなかったのか?』

『あ、ぁ……』

『俺はその村のことは知らないが……お前のせいで、お前の故郷の人間が死んだんだ。
 はっ、ざまあないな人殺し。これがお前がやったことの報い……その一端だ』

『う、ぅぁ……』

『これから、もっと多くの人間が死ぬ。魔族によって、多くの人間が。本当なら助かった人たちが、死んでいく。
 お前のせいでな!!』

『ああ、あぁああぁあああぁああ……!!』


 ……その日は、私は牢屋の中でずっと、泣いていた。
 泣き声が不快だの静かにしろだの、暴言を投げつけられながら。私は、泣いた。

 人を殺しても、痛むことのない心だと、思っていた。
 思っていたけど……心が、痛かった。張り裂けてしまいそうなくらいに……痛かった。
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