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第6話 運命は動き出す
しおりを挟む運命の日、そして運命の時……
カロ村は、ざわついていた。それもそのはず、村に客人が来ていたからだ。
いや、客人と言うには語弊があるかもしれない。
正確には、迎えに来た兵士……誰を迎えに来たかって?
……私だ。
「リィン、元気でね……!」
「うん、シーミャンも」
今日はついに、王都からの迎えが来る日だ。
とはいえ、私が死に戻りしてから一日しか経っていないんだけどね。
時間は、昼前のこと。村に、来訪者を知らせる鐘が鳴った。
その来訪者が、王都の兵士たち。全部で、五人だ。
鎧に身を包んだ五人のうち、一人の兵士が村長と話をしている。体が大きく、他の兵士は彼を尊敬のまなざしで見ている。
だから前回の私は、彼が兵士たちのリーダーだと予想した。そして、それは見事に的中した。
「リィンを、どうかよろしくお願いします」
「えぇ。王都までは我々が、責任をもってお送りします」
少し老け顔だけど、意外にも年は三十を過ぎた頃らしい。
その年で、兵士たちをまとめるリーダーをしている。実力は、確かだ。
彼らの任務は、"神聖の儀"で選ばれた神紋を持つ人間を、王都まで無事に送り届けること。
「それでは、神紋の勇者様。行きましょう」
「……はい」
リーダーさんが私に、にこっと爽やかな笑顔を向けてくる。
村の外から来た人に、こんな爽やかな笑顔を向けられた私は、ドキッとしてしまったのを覚えている。
だけど、今になって、違和感に気づいてしまった。
私を初めて見た時、兵士が変な顔をしていた。それはきっと、「本当にこいつが?」と言いたげな顔だったのだ。
理由は、私が平民であり……かつ"忌み人"だからだ。口に出さなかったのは、まだ言葉にしないだけの良識があったのだろう。
「……じゃあみんな。行ってきます」
「うん! 行って、そんで世界を救ってきてよ!」
シーミャンとの、そして村のみんなとの別れを済ませてから、私は馬に乗る。
死に戻ってから馬に乗るのは初めてだ。……前の時間軸でも、当然このタイミングが初めてだった。
リーダーの背中に位置するよう、馬に乗る。
「…………落ちないよう、しっかりと掴まっていてください。神紋の勇者様」
リーダーさんは、私の顔を見ずにこう言った。初めは、もしかして女の子を背中に乗せるなんて照れているのかな、とも思った。
でも、それは違うと、すぐにわかった。
私が、"忌み人"だから……顔を見ないように、視線も合わせようとしなかったのだ。
体にくっつかれるのも、嫌だったのだろう。でも、神紋が表れた人を回収に回るのは、国王直属の命令らしい。
それを忠実に、実行しなければいけない。馬に慣れていない私を、一人で乗らせるわけにもいかないしね。
「……はい」
腕をリーダーさんのお腹に回すと、私よりも大きな体が、小さく震えた。
……そんなに、イヤ、か。
彼らの間で、神紋が表れた人間は、"神紋の勇者"と呼んで扱っているようだ。
神紋が表れると、それを感じ取ることの出来る人が、お城にいるらしい。
その人の言葉を受け、神紋の勇者を回収に向かう。
その人がわかるのは、神紋の勇者のいる現在地……
つまり、私がこの村にいることは、なにをしていてもバレるし。現在地がわかるのだから、どこへ逃げても無駄だ。
ただ、わかるのはそれだけ。
場所から判断して、そこにいるのが貴族か平民かの違いくらいは、わかるかもしれないけど……
対象が、"忌み人"かまでは、わからない。
『……っ、そ、ちらの方が……神紋、を?』
私が"神紋の勇者"であると知った時の、兵士たちの顔は、忘れられない。
まさか、世界を救う可能性として選ばれたのが平民の、それも"忌み人"だとは思わなかったのだろう。
表面上は笑顔でも、その裏には嫌悪があった。
私だって、好きでこんな髪の色で生まれてきたわけじゃない……私の両親は、普通の髪の色なのに。
この紫色の髪は、遺伝など関係ない。
ある時突然、こういう髪の子が、生まれるみたいなのだ。
「本日は、この場で休息を取ります。
神紋の勇者様は、こちらでお休みください」
馬に揺られているうちに、兵士さんから声がかけられた。
王都までの道のりは、馬に乗っていても三日はかかるという。
今回は私……神紋の勇者を乗せているのだから、もっとかかるだろう。前回は……五日だったっけ。
途中、盗賊やモンスターに襲われるかもしれないし。警戒しながら進んでいるんだ。
「……神紋の勇者、かぁ」
馬から降り、野営の準備をしている兵士たちを遠巻きに、見つめる。
それから手の甲に表れた神紋を見て、一人つぶやいた。離れた先では、兵士たちがたき火の準備をしている。
火を起こすなどは、魔石を使えば簡単だ。でも、これは魔石を使っていない。
不測の事態に備えて、極力魔石は使わない。それが、リーダーさんからの説明だ。魔石にも許容魔力というものがある。
いさというとき、魔力が尽きてしまっては元も子もない。なので、魔石がなくてもできることは自分の力でやる。立派なことだ。
この隊は五人だが、魔法使いは一人しいかいない。魔法使いとは、魔力を扱える人のことだ。
魔法使いは貴重で、そういった人たちは兵士にならず、王城の防衛とか、そういうことをやっているらしい。
その魔法使いでも、不測の事態に備えて魔法は使わない。
魔法使いの使える魔法……魔法を使うための魔力量というのが、個人個人で違うとは言え決まっているからだ。
「神紋の勇者様、たき火が燃え上がりましたので、こちらへ」
「はい」
呼ばれて私は、たき火の側へと移動する。
あぁ、あったかい。この周辺は、夜になると一気に冷え込むからなぁ。
兵士たちも、たき火の側で休めばいいのに……忙しなく、動いていた。
私の側には、いたくないってことなんだろうな。
「はぁ……」
吐く息が、白い。
あと、数日後には……王都の中だ。
そこで私は、勇者に会う。そして、彼を殺すことになったのが……前の時間での出来事。
あんなこと、起こさないように気をつけないと。肝に銘じよう。
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