1 / 1
マスクゾンビ
しおりを挟む「あー……」
その日、とある施設で一匹のゾンビが誕生した。とある研究者が秘密裏に開発していた、ゾンビ薬。それを、同僚に投与した。
別に、同僚に恨みがあったわけではない。誰でもよかった。そもそもこの薬が本当に効くかの実験も兼ねていた。
結果として、同僚はゾンビになった。研究者の見立てでは、ゾンビ映画よろしくゾンビに噛まれた者は同じくゾンビになり、その数を増やしていくはずだ。なので、薬の予備はもうない。
「ははは、さあ行けえ!」
研究者は、始まりのゾンビを外に放り出した。このまま放っておけば、この町、国、いずれは世界中がパニックになることだろう。
さて、騒ぎが大きくなる前にさっさと逃げてしまおう。研究者は荷物を纏め、研究所を飛び出した。研究者は浮かれていた。研究が成功したこと、そして世界がパニックになることを思い描き、浮かれていた。
だから、忘れていた。
ゾンビは、マスクを付けていた。研究者は、ゾンビとなった同僚を見るや満足し、その後の処置を怠った。
----------
昨今、世界中はウイルスの流行により、感染対策でほとんどの人はマスクを付けている。
同僚も、その一人だった。
「あー、うー」
「なんだありゃ」
外に放たれたゾンビは、血肉を求めてさ迷い歩く。そして、当然人々の目にも触れる。
人間に反応したゾンビは、得物を目当てに襲い掛かる。いきなり襲われた人は、その非日常な出来事に反応出来ない。
通行人はゾンビに押し倒され、首筋をゾンビに噛まれる……かと思われた。
だが……
「うぅ、うぁー」
「な、なんだこいつ! 離せ!」
ゾンビはマスクを付けていた。ゆえに、目の前の得物に噛みつくことが出来なかった。
マスク越しに、通行人に噛みつこうとはしている。そして実際に噛みつけはするのだが……
直接噛みついていないからだろう。通行人にゾンビ化の現象は現れなかった。しかもこのマスク、結構お高い布製のマスクだった。
獲物を襲う本能しか持たないゾンビは、マスクを外すことは出来なかった。
「ほら、なにしてんの」
「そこ離れて」
やがて駆けつけた警察に、ゾンビは取り押さえられた。マスクは外されなかった。
その後、結局の悪いこの男がとある研究所に勤めていたことがわかり、男がおかしくなった同時期に研究所から逃げ出した研究者の存在が明らかになった。
研究者は逮捕された。空港に向かおうとしていたが、持ち逃げた荷物が多すぎてタクシーが捕まらず、徒歩だったためすぐに発見された。
ちなみにワクチン薬はなかったので、研究者は馬車馬のごとくワクチン開発に働かされた。
マスクゾンビによるゾンビパニックは起こらなかった。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
雷命の造娘
凰太郎
ホラー
闇暦二八年──。
〈娘〉は、独りだった……。
〈娘〉は、虚だった……。
そして、闇暦二九年──。
残酷なる〈命〉が、運命を刻み始める!
人間の業に汚れた罪深き己が宿命を!
人類が支配権を失い、魔界より顕現した〈怪物〉達が覇権を狙った戦乱を繰り広げる闇の新世紀〈闇暦〉──。
豪雷が産み落とした命は、はたして何を心に刻み生きるのか?
闇暦戦史、第二弾開幕!
呪詛人形
斉木 京
ホラー
大学生のユウコは意中のタイチに近づくため、親友のミナに仲を取り持つように頼んだ。
だが皮肉にも、その事でタイチとミナは付き合う事になってしまう。
逆恨みしたユウコはインターネットのあるサイトで、贈った相手を確実に破滅させるという人形を偶然見つける。
ユウコは人形を購入し、ミナに送り付けるが・・・
夜嵐
村井 彰
ホラー
修学旅行で訪れた沖縄の夜。しかし今晩は生憎の嵐だった。
吹き荒れる風に閉じ込められ、この様子では明日も到底思い出作りどころではないだろう。そんな淀んだ空気の中、不意に友人の一人が声をあげる。
「怪談話をしないか?」
唐突とも言える提案だったが、非日常の雰囲気に、あるいは退屈に後押しされて、友人達は誘われるように集まった。
そうして語られる、それぞれの奇妙な物語。それらが最後に呼び寄せるものは……
月影の約束
藤原遊
ホラー
――出会ったのは、呪いに囚われた美しい青年。救いたいと願った先に待つのは、愛か、別離か――
呪われた廃屋。そこは20年前、不気味な儀式が行われた末に、人々が姿を消したという場所。大学生の澪は、廃屋に隠された真実を探るため足を踏み入れる。そこで彼女が出会ったのは、儚げな美貌を持つ青年・陸。彼は、「ここから出て行け」と警告するが、澪はその悲しげな瞳に心を動かされる。
鏡の中に広がる異世界、繰り返される呪い、陸が抱える過去の傷……。澪は陸を救うため、呪いの核に立ち向かうことを決意する。しかし、呪いを解くためには大きな「代償」が必要だった。それは、澪自身の大切な記憶。
愛する人を救うために、自分との思い出を捨てる覚悟ができますか?
聖者の漆黒
中岡いち
ホラー
「かなざくらの古屋敷」スピンオフ作品
「御陵院西沙が恵元萌江と出会う前の物語」
〝憑き物〟〝祓い事〟を専門とする歴史のある神社・御陵院神社。その神社で三姉妹の三女として産まれ育ちながらも、その力の強さ故に神社を追い出された霊能力者・御陵院西沙。
その西沙が代表を務める心霊相談所の元に、森の中で見付かった〝風鈴の館〟についての相談が持ち込まれる。持ち込んだのは西沙の知り合いでフリージャーナリストの水月杏奈。屋敷総ての天井に風鈴が下がった不思議な廃墟。そこでは何度も首吊り遺体が見付かるが、なぜか全員が誰かによって紐を解かれ、穏やかな死に顔で見付かっていた。当然のようにオカルト界隈で話題になるが、その屋敷を探しに行っても誰も見付けることが出来ないまま噂ばかりが先行していく。見付けられるのは自殺者自身と、それを探す捜索隊だけ。
別件で大きな地主・楢見崎家からの相談も同時期に受けることになったが、それは「楢見崎家の呪いを解いて欲しい」というものだった。何百年も昔から長男は必ず一年と経たずに亡くなり、その後に産まれた長女を傷も付けないように守って血筋を繋いでいた。
その二つの物語を繋げていくのは、西沙の血筋でもある御陵院神社の深い歴史だった。
西沙の母や姉妹との確執の中で導き出されていく過去の〝呪い〟が、その本質を現し始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる