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転生魔王は青春を謳歌する
最終話 転生魔族は恋をして
しおりを挟む「よー真尾。おっはー」
「……鍵沼か」
登校日。もはや見慣れることとなった通学路を歩いていると、後ろから声をかけられた。
振り向くまでもなく、それが誰のものかわかった。
「おぉう、朝からなんて顔してんだよ」
「家を出て最初に見る知り合いの顔がお前かと思うとな」
「ひどい!」
これがさなだったら、最高だったんだがな。もしくはあい。
鍵沼とあいの家は隣同士だったはずだが、あいの姿は見当たらないな。
「あいは、一緒じゃないのか」
「別に家が隣だからって、静海と一緒に行くわけじゃないし。むしろ、別々の時間に出るようにしてるよ」
「ほぉ」
この二人は、相変わらずというか……幼馴染というやつらしいが、仲は良くない。
もっとも、一緒に家を出ないように話し合っているというのは、仲が悪いのか一周回っていいのかわからないが。
その後も絡んでくる鍵沼に適当に流していると、前方に見覚えのある姿を見つけた。
その後ろ姿に、俺は声をかけるつもりはない。が……
「あ、小鳥遊さんだ。おーい」
「! か、鍵沼くん……」
鍵沼の奴が、バカみたいに声を上げて駆けていく。
声をかけられた一人は、振り向く。それは、小鳥遊 さらさの姿だ。
彼女は写真部の一員で、なぜか鍵沼に想いを寄せている女だ。
その隣にいる女もまた、振り向き……鍵沼の後ろにいる俺を、睨んでくる。
「……」
闇野 遊子。小鳥遊の友人であり、なにを隠そう生前は勇者だった女だ。
どういうわけか、こいつもこの世界に転生してきている。
なるべく話さないようにしたいのだが、小鳥遊が鍵沼を好きな件でいろいろと相談を持ち掛けられるようになってしまった。
おい、そんな目で見るな。話しかけたのは俺じゃない、鍵沼だ。
「おぉー、にゃんにゃーん」
「ん?」
小鳥遊に話しかける鍵沼、鍵沼に話しかけられ慌てている小鳥遊、なぜか俺を睨む闇野……
どうにかこの空間から逃げたいと思っていたところで、またも聞きなれた声が聞こえてきた。
それは、道の端でしゃがみこんでいる、小柄な女のものだ。
その隣に立っているのは、顔を見なくても声を聞かなくても誰だかわかる。
「さな、あい」
「! 真尾くん、おはようございます」
「ひゃあ! こ、光矢クン!」
二人に話しかけると、さなは俺を見て笑顔を浮かべ応対。あいは肩を跳ねさせ俺を見上げた。
しゃがんでいたあいの足下には、子猫がいる。
「おはようさな。
……なるほどな」
「なな、なにがなるほどなのかな!? もしかして、見てた!?」
「おぉー、にゃんにゃーんの下りか?」
「忘れてぇええ!」
登校中、子猫に話しかけていた姿を見られたのが、そんなにも恥ずかしいのか。……恥ずかしいだろうな。
とはいえ、あんな姿早々忘れられるはずもない。
不幸中の幸いと言うべきか、鍵沼は小鳥遊に話しかけていてこちらを見ていないということだ。
見られたら、あいつのことだ。しばらくあいをからかうだろう。
「さなは、猫は好きなのか?」
「はい。かわいらしいですよね」
「あれ、そのまま話進めちゃった!?」
人間の女は、猫を好む傾向にあると、以前調べた。
それはさなも例外ではないようだな。
猫か……さすがに、ぬいぐるみとは違い家に置いておくことは出来ないか。
「ん?」
ふと、背筋に妙な気配を感じる。闇野かと思ったが、敵意ではない。
振り向く。そこには、登校中の生徒……の向こう側に……
「はぁはぁ、魔王様……」
「……」
離れた草陰から俺の姿を伺っている女がいた。
あいつ……ニーラか。あいつも俺たちと同じくこの世界に転生した、俺の元部下だ。
この世界では、新良 かなたという名前だったか。
体育祭の日に俺を見つけ、その後単身突撃してきた奴だ。忠誠心の高さは認めるが、タイミングが悪い。危うくさなを怒らせてしまった。
結果的に、さなとは以前よりも絆を深めることができたとはいえ。
あまり関わりたくない奴だ。あいつ中学生だから、闇野以上に関わることは少なくなると思っていたのに。
「どうかしましたか、真尾くん」
「いや、少し虫がいただけだ」
「はぁ」
とりあえず、あいつは遠くからこっちを見ているだけでなにかしようとしているわけではないようだ。
というか、勇者もいるのだから近づきたくても近づけないのだろう。
「あ、鍵沼! さらさちゃん困ってるでしょ!」
「そんなことねえよ。なー、小鳥遊さん」
「え、えっと……」
立ち直ったあいが、小鳥遊に絡んでいる鍵沼を指差す。
三人で騒いでいる姿を見ると、なんだか落ち着く気持ちとそうでない気持ちがあって複雑だ。
小鳥遊は鍵沼に好意を抱いているし、あいもさなが言うには鍵沼を好いているのではないか、と言う話だからだ。
「さらさ、私先行ってるわよ」
「あ、うん。ごめんね遊子ちゃん」
「いいわよ。うまくやりなさい」
闇野は、これ以上関わるつもりはないのか、一人で先に行ってしまう。
俺としても、あいつと同じ空間にいるのは気まずい。
とはいえ、ずっとこの場に留まっていては遅刻してしまう。
「俺たちも行こう、さな」
「そうですね。あいちゃん、またあとで」
「ちょっ、行くよボクも! ほら鍵沼も!」
「わぁってるっての。小鳥遊さんも行こうぜ」
「は、はい」
俺たちも、学校に向けて歩き出す。
まったく、少し前までは想像もしていなかったな。俺の周囲がこんなにも、騒がしくなるとは。
人間の世界に転生してからというもの、俺の世界はどこか退屈なものだった。
それもこれも、さなと出会ってから……俺の中の景色が大きく変わったんだ。
「ど、どうしました真尾くん。私の顔に、なにかついていますか?」
「いや。俺はさなが好きなのだなと、再認識していたところだ」
「っ……そ、そういうこと、こういうところで言わないでくださいっ」
瞬間、顔を真っ赤にするさな。
さなには、顔を赤くする機能でもついているのだろうか。
「それは、こういうところでなければ、いいということか?」
「し、知りません!」
「あ、おいっ」
ついに、なにかに耐え切れなくなったと言うようにさなは、走り出した。俺はたまらず、その背中を追いかける。
後ろからでも見える、さなの耳は赤く染まっていた。
人間の世界も、退屈しないな……さなと一緒なら、これからもいろんな景色を、見せてくれることだろう。
完
――――――
あとがき
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
「転生魔族は恋をする ~世界最強の魔王、勇者に殺され現代に転生。学校のマドンナに一目惚れし猛アタックする~」はこれにて完結となります。
魔王だった男が人間の世界に転生し、一目惚れした少女に告白する……というところから物語は始まります。
本当は、二人が恋人同士になったあたりで完結かなと思っていたのですが、ついもうちょいと続けちゃいました。
物語は終わりますが、彼らの青春はまだまだこれからだ!
真尾とさなのラブラブな関係や、鍵沼をめぐるあいと小鳥遊の取り合い!? それらも、また想像の余地があっていいですね。闇野は恋愛話には絡みません(笑)
転生魔族はここで完結ですが、他にも連載している作品はあります! ので、そちらでもお会いできたらと思います!
改めまして、最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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