転生魔族は恋をする 〜世界最強の魔王、勇者に殺され現代に転生。学校のマドンナに一目惚れし猛アタックする〜

白い彗星

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転生魔王は青春を謳歌する

指輪の交換

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「ほら、さな」

「えっと……いいんですか?」

 クレーンゲームでゲットした景品。二つを、さなに手渡す。
 それは、袋の中に入れられたアクセサリー。指輪タイプのものだ。

 二つともそれだったので、アクセサリーの種類がないのは残念だが……こればかりは、勘弁してほしい。

「当然だ。さなのために取ったのだからな」

「……ありがとうございます。でも……」

 さなは俺の言葉に微笑むと、手を伸ばして袋を受け取る。ただし、二つのうち一つだけ。
 そして俺を見て、口を開く。

「せっかくですから、もう一つは真尾くんが持っていてください」

「俺が?」

「はい」

 思わぬ言葉に、俺は首を傾げるが……まあ、同じものを二つ持っていても仕方がないか。

 ……いや、二つではないな。指輪の一部に、青く輝く石のようなものがはめ込まれている。
 さなのは、赤い。

 これはおもちゃの指輪だ。本物の宝石と言うわけでもあるまい。
 俺が魔王だった頃は、もっときれいで大きな宝石を何度も見てきた。

 だが……不思議なことに、おもちゃの指輪がそれらどの宝石よりも、輝いて見える。
 そしてそれ以上に、指輪を受け取り嬉しそうにしている、さなの笑顔が……

「むふふふふ……」

「……なんだあい、その笑いは。鍵沼のように気色悪いぞ」

「えっ、嘘!」

「おぉい失礼だろ!」

 なぜかにまにまとあいが笑っている。
 なにが楽しいことがあるのかと見つめていると、やっぱりまだ少し笑っていた。

「だって……指輪の交換なんて、ねぇ」

「……!」

 あいが意味深に言うが……指輪の交換? なにを言っているんだ。
 それを聞いたさなの顔が、急に真っ赤になっていく。

「ここ、交換はしてない! それに、おもちゃだし!」

「えぇー? でも、あれだけあるアクセサリーの中から指輪が……それも二ついっぺんに落ちるなんて、運命だと思わない?」

「そ、それはぁ……」

 なんだかよくわからんが、あいがさなをからかっている……というのだけは、理解できた。
 真っ赤な顔のさなは、見ていて目の保養になるので、別にいいのだが……

 隣で鍵沼までにまにましているのが、腹が立つな。

「なぁ鍵沼。殴られるのと俺の質問に答えるの、どちらがいい?」

「なに急に物騒な! 怖い!」

 俺の握りこぶしを見て、鍵沼は俺の本気を悟ったのか「質問に答えるから!」と慌てたように話す。
 そこまで怯えなくてもいいだろうに。別に顔の形が変形するくらい殴るわけではないのに。

 この体じゃ、そこまでの力は出ないしな。せいぜい、気絶させる程度……まあいいか。

「で、質問って?」

「あいが言っていた指輪の交換がどうのというのは、どういうことだ?」

「…………ん?」

 鍵沼が、ひどくマヌケな顔をさらす。

「おいおい、普段からマヌケな顔が、さらにマヌケな顔になっているぞ」

「……」

 おかしいな、俺の言葉に無反応とは。
 いつもなら、なにかしらの反応を見せてくるのだが。どこか具合でも悪いのか?

 それから鍵沼は……

「えっと……冗談?」

 と聞いてきた。

「なにが」

「いや、その……指輪の交換の意味を知らないっての」

「知らん」

 即答。それを受け、鍵沼は顔を手で覆い天を仰いだ。
 なんだと言うんだ。

 それから鍵沼は、さなとあいのじゃれあいが続いていることを確認し、俺に口を寄せる。

「真尾ってやっぱ、変なところで世間知らずだよな」

「世間知らず……これは、世間一般が知っていることなのか」

「まあ……高校生くらいになれば、自然と知るもんじゃないかとは思う」

 そうだったのか……うぬぼれていたわけではないが、まだ俺の知らないことはあったのだな。それも、世間一般とされるほどの常識を。
 それを鍵沼に指摘されるのは、些か不本意だが。

「で、どういう意味なんだ」

「それは…………いや、帰ったら自分で調べろ。
 あと、それ他の奴には言わない方がいいぞ」

 鍵沼のやつめ、もったいぶっているのか?
 さなやあいなら確実に意味を知っているのだろうが……これが世間の常識だと言うなら、これを晒すことは自身の無知を意味する。

 さなやあいに己の無知を、進んで晒すこともないだろう。

「仕方ない、そうしよう」

「ま、真尾くんっ」

 そこへ、あいにからかわれていたさなから声がかけられる。
 さなの表情は、嬉しいとも恥ずかしいともつかないものだったが、少なくとも負のイメージはなかった。

「どうかしたか?」

「えっと……あ、あいちゃんの言ったことは、気にしなくていいですからねっ。あ、あとそれ、迷惑でした?」

「? あぁ……いや、迷惑なんてことは、決してないが」

 あいによほどからかわれたのか、その顔はトマトのように真っ赤だ。
 さなをいじめたくなる気持ちはわからないでもないが、しっかりあいにも釘を刺しておかなくては。

 それにしても、この指輪が迷惑かという話なら、そんなことは断じてない。

「確かにこれは俺が取ったが、一度はさなにあげたものだ。そしてそのさなが俺にこれをくれたということは、さなからの貰い物でもある。
 さなから指輪を貰って、嫌なわけがないだろう」

「ぉっ……そ、そうです、か……」

 なぜだろう、さなの顔がいっそう赤くなったような気がする。
 それどころか、顔から湯気まで出てないか?

 さなの隣であいは両手に頬を当て「キャーキャー」と叫び……というか喜び、鍵沼は俺の肩に手を乗せた。

「なあ、本当に指輪の意味は知らないんだな?」

「そう言っているだろう」

「……なんていうか、やっぱすげーわ真尾。今のところわざわざ『指輪』っていうあたりが、マジパネェわ。
 俺のことバカって言うけど、真尾もわりとバカだと思うぞ」

 なんなんだ、いったい。失礼な奴だな。
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