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転生魔王は青春を謳歌する
景品を落とす
しおりを挟むペピンタンの話題で盛り上がっていたが、そのうちに目的地であるゲームセンターへとたどり着いた。
町の一角にあるゲームセンターは、休日のためかなかなかの盛り上がりを見せていた。
人が多くて音もうるさい。本来一人だけならば、こんなところに入ることはないのだが……
「わぁ……」
楽しそうなさなを見ていると、こちらまで嬉しくなってくるから不思議だ。
慣れた様子で店内に足を踏み入れていくあいと鍵沼に続いて、俺とさなも足を踏み入れる。
店外と店内とでは、また騒がしさも違ったものがあるな。
「わぁ、いろんなゲームがあるんですねぇ」
「ここは一階がクレーンゲームで、二階がコインゲーム……みたいに、階によって種類が違うんだよ」
周囲を見回すさなに、鍵沼が得意げに紹介する。
俺よりも鍵沼の方が詳しいので仕方ないとはいえ……なんとももやもやする光景だ。
「おやおや、光矢クン。鍵沼に焼いちゃってるのかな?」
「やかましい」
あいはあいで、やけに楽しそうだし。
俺たちはとりあえず、クレーンゲームで遊ぶことに。
おもちゃにぬいぐるみ、それにお菓子まであるのか。最近のクレーンゲームというものは、いろんなものがあるのだな。
クレーンで景品を掴み上げ落としたり、クレーンで掴み上げたボールを当たりの穴に落としたら景品がもらえる……ひとえにクレーンゲームといっても、種類があるのだな。
「あっ」
さて、どれをプレイしようか……めぼしい景品がないか探していたところで、さなが声を上げた。
賑やかな空間だが、さなの声ならたとえどこにいてもわかる。
さなは、一つのクレーン台を見ていた。
そこには、様々なアクセサリーが一つ一つ袋詰めにされている光景が広がっていた。
「どれか、気になるのがあったか?」
「いえ、どれというわけではないのですが……きれいだなと、思って」
さなのほうがずっときれいだけどな。という感想はひとまず置いておいてだ。
ふむ……袋の先に、大きめのわっかがついている。あれにクレーンのアームを引っかけて落とすというタイプか。
少し押せば落とせそうだが……
「よし、やってみるか」
「え、いいんですか?」
「もちろんだ」
別に、初めからなにをしようという目的があったわけじゃない。
さなが興味を持ち、足を止めたのならそれで充分だ。
俺は財布から百円玉を取り出し、コインの投入口に入れる。
隣ではさなが、そしてその後ろであいと鍵沼が固唾を呑んで見守る。
「これを、こうだな……よし」
クレーンゲームの操作自体は単純だ。
ボタンが三つあり、一番目のボタンは左か右にクレーンが動き、二番目のボタンでクレーンを奥へと進める。
そして最後の一つで、クレーンが伸びる。そういう仕組みだ。
鍵沼曰く、ボタン操作でなくレバー操作のタイプもあるということだが……まあ、これはボタン操作なので、それはどうでもいいことだ。
「……あっ、惜しい!」
クレーンのアームは、俺の操作によりわっかをかすめたが、多少動いたのみだ。
なるほど。いけるかもと思わわせておいて……か。面白い。
「はは、真尾にも苦手なことはあるんだなー」
「うるさい」
その後、二度三度とチャレンジするが、うまく落ちない。
いけそうなのだが……なんというか、うまくいかないのだ。
「ま、真尾くん。もういいですよ。行きましょう?」
「いや、もう少しでいけそうなんだが……」
「こうやってまた一人クレーンゲームにはまっていくんだな」
しかし、じれったいな……いっそのこと、残った魔力を使って景品を落としてしまおうか。
……いや、そういう問題ではないのだろう。
これは、景品が落ちるかどうか、その過程を楽しむためのものだ。かといって、これ以上続けてもさなを不安な顔にさせるだけだ。
「なら……最後、この一回でやめるから。な?」
「……わかりました」
回数にして、五回目。俺は百円玉を取り出す。
こんなにも回数をこなすなら、いっそ五百円玉を入れればよかったのに……とは鍵沼の言葉だが、それももう遅い。
最後の百円玉を入れ、俺は慎重にボタンを操作する。
これで最後だと思うと、緊張感も違ってくるものだ。
ボタンを操作して、少し側面に回り位置を確認して……いざっ。
「お、おっ」
クレーンが動き、アームが袋を引っかける。その度に声を漏らす鍵沼。
あいもさなもそれを守る中……アームが閉じたクレーンは、ゆっくりと上っていく。
結局だめだったか……と思った最中、上る最中にアームがぶつかったようで。景品の一つが揺れる。
そして、それがゆっくりと落下し……さらには、もう一つも巻き込んだ。
「わ、わっ。やった、落ちたよ!」
それを見て、あいはまるで自分のことのように喜ぶ。
俺はあっけに取られていたが、カタン、となにかが落下してきた音に我にかえると、下の景品の取り出し口を開ける。
すると、今俺が落とした景品が、そこにあった。それも、二つだ。
「おぉ、まさかの二個取り! やるじゃん真尾!」
「す、すごいことなのか?」
「そりゃそうだよ。それに、なんかお得感があるでしょ?」
喜ぶ鍵沼とあい。どうやら、うまくいったようだ。
俺は二つの景品を取り出す。そして、袋の中を見る。
袋の中に入っているアクセサリーは……指輪の形をしたものだった。
ネックレスや、ピアスなど……様々な種類があった。そんな中で、落とした景品二つともが、指輪だった。
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