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転生魔王は青春を謳歌する
好きな奴はいないのか?
しおりを挟む互いに気持ちを伝えあった俺とさなは、より強固な絆で結ばれた……と思う。
思う、と自信がなさげに表現されてしまうが、人の気持ちなんて目に見えないものに、断定することなどできはしない。
あの後、俺はさなをさなの自宅まで送っていった。その場に新良を残してきてしまったが、まあ心配いるまい。
で、今は自宅……自分の部屋だ。ベッドの上に座り、俺は……
『じゃあ、仲直りできたんだね。よかったよかった』
「あぁ」
スマホ片手に、あいと通話をしていた。
耳に当てた機械から、あいの明るい声が聞こえてくる。
「すまん、迷惑をかけたな」
『迷惑だなんてそんなー。ボクはたいしたことはしてないよ。
まあでも、二人なら大丈夫じゃないかなって思ってたけどね』
「それでも、あのときあいがさなを追いかけてくれたおかげだ。今度なにかしら礼を……」
『いやー、ホントにいいんだってー。まあでもー? ボクは別にお礼なんて求めてないんだけどー? この間、駅前にできたクレープ屋さんのクレープが、食べたいいなーって? 思ってはいるんだけど』
礼はいらないと言いながら、しっかりほしがっているじゃないかこいつ。
とはいえ、あいのおかげで俺とさなは仲直りできた。その要因になってくれたと、俺は思っている。
だから、なんだ……
「あぁ、クレープでもなんでもおごってやる」
『! ホントー? いや悪いねー、全然そんなつもりじゃないんだけどー』
「そのつもりがないつもりなら、せめて声のトーンを落とせ」
あいは本当に嘘というか、ごまかすのが下手だな。そこがあいの魅力でもあると思うが。
しかし、今回の礼もそうだが……あいには、世話になってばかりだな。
思えば、入学初日に、さなに想いを伝えた俺に絡んでくる形で、関わることになったんだったか。
いや、あれは俺に絡んでくるというか、さなを守っていたのだろう。
その後、鍵沼の幼馴染だと判明して。遅かれ早かれ、あいとは関わりを持つことになっていただろうか。それとも、鍵沼との関係を見るに……その後も深く関わることはなく、あくまで一クラスメートとしての関係でしかなかっただろうか。
「……あいは、好きな奴はいないのか?」
『…………はぇ?』
「ん?」
あれ……今、俺、なんて言った?
電話口の向こうでは……多分だが、あいが餌を前にした魚のように、口をパクパクさせているだろうことがわかる。
それから、しばらくして……
『は、はぁあああああ!?』
めちゃくちゃ、大きな声が聞こえた。
「あい、声を抑えてくれ」
『う、ごめん……じゃなくて! いきなりなにさ!
す、すす……好きな人、だなんて!』
なんでだろうな……いくら考え事をしていたからといって、そんなすらっと出てくるような内容ではないのに。
どうして、こんなことを……あ、そうか。
「あれだ。今回俺とさなの仲直りに協力してくれただろう。それ以前にも、お前にはいろいろと世話になっている。
だから、お前に想い人がいるなら、それを手助けできないかと思ってな」
『だから、の先おかしくない!? 話飛躍し過ぎなんだけど!』
考えてみれば……あいは鍵沼のことが気になっている、とさなから持ち掛けられて。
あいから鍵沼をどう思っているかの確認はしたが……大事なことを、確認することを忘れていた。
あいが、今好きな相手はいるのかどうか。あいから一個人への気持ちを確かめるのではなく、あい自身が一個人に気持ちを向けているのかそうでないのか……
大事なことを、確認していなかった。
『そりゃ、気持ちは嬉しいけど……
そ、そもそもボクに世話になってるって、それは買い被りで……』
「まあ話を聞け。恋人ってのはいいもんだぞ。これまでつまらなかった世界が、そのすべてが鮮やかに変わる。
正直、魔力もなにもない世界で、こんな軟弱な身体で生きていくことに絶望すら覚えていたが、さなと出会ってすべてが変わった。恋人ってのはいいもんだぞ」
『光矢クンこそ話聞こうよ! いつから恋人自慢聞かせろって話になったのさ! あとボクのろけられてる!?
……あと、なんか魔力がどうのとか聞こえたんだけど?』
おっと、またやってしまったか……どうにも、さなのことになると俺は、我を忘れてしまうようだ。
それに、お礼にあいの恋模様を応援しよう、なんて確かに飛躍していたな。
そもそも、あいにそんな相手がいれば、さながあんなことを言うはずもない……か。鍵沼を気にしているなどと。
もちろん、なにもかもをさなに連絡するわけではないだろう。だが、あいの性格上、好きな相手ができたら、さなに報告しそうだ。
さっきも、今回の件を二人で電話していたみたいだしな。あいはさなから、今回の件の顛末を聞いて知っているのに、俺の話に付き合ってくれているわけだ。
『す、好きな相手なんて……そんな、ボクは、別に……
さ、さなちゃんやみんなと遊んでいた方が、楽しいし』
「あ、思い出した。週末、俺とさなとあい、あと鍵沼で出掛けようって話をしたのを覚えてるか」
『また唐突だな!? 覚えてるけど!』
ぼそぼそとなにかを言っていたが、みんなと遊ぶ、という言葉が聞こえたことで、思い出した。
今日、さなから持ち掛けられたダブルデートの提案……それは、俺とさな、あいと鍵沼の組み合わせを指してのものだった。
もっとも、あいが鍵沼を気にしているというのは、さなの予想でしかないのだが……さなの予想なら、俺は全力で信じるさ。
今日話したことなのに、すっかり忘れていた。新良と会って、いろいろあったからな。思い出してよかった。
それから、あいの好きな人、という話題は華麗に流されてしまい、週末のお出かけと、改めて今日の礼を告げることで、通話を終えた。
まあ、好きな人云々は置いておいても……あいには、なんらかのお礼はしないとな。
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