100 / 114
転生魔王は青春を謳歌する
気付いた私の気持ち
しおりを挟む「はぁ、はっ……」
……如月 さなは、走っていた。いつから、走っていただろう。走るといっても、全力疾走していたわけではない。
せいぜいが、ジョギング程度の速度だったはずだ。今は、足も止めている。だというのに……
どうしてこんなにも、胸が苦しいのだろうか。
「私……」
「さなちゃーん!」
背後から、自分を呼ぶ声がして……振り向くと、そこには一人の少女が走ってきていた。
静海 あい。さなの親友とも言える存在で、いろいろと相談に乗ってもらったり乗ったりする仲だ。
彼女は、さなの前まで走ってくると、足を止める。
さすがは運動が得意なだけある、息切れすら起こしていない。
「っ、あいちゃん……
ごめんなさい、私、急に帰っちゃって……」
先ほどの行動を、さなは恥じていた。
あいと、そして恋人である光矢 真尾と一緒に帰ろうとしていたのだ。
そうしたら、いきなり知らない女の子が、真尾に抱き着いて……親し気に、していたではないか。
それを見た瞬間、さなの中で、なにか黒いものが、渦巻いていた。
そこにいたくなくて、その光景を見ていたくなくて……
気づいたら、その場から立ち去っていた。
「ううん、大丈夫。光矢クンも気にして……なくは、ないだろうけど。
怒ってはいないと思うよ」
「……なんだか、変なの。真尾くんと、あの女の子が、仲良くしてるのを見たら……胸が、苦しくなって……」
「仲良さそうだったかなぁ……
って、それって……」
胸を押さえるさなの姿に、あいは思うところがあるようだ。
しかし、あいのその様子に気付かないままに、さなは己の行動を……そして言葉を、後悔していた。
『あ、私用事があるの思い出した。悪いけど先に帰りますね。
じゃあね、あいちゃん……"光矢"くん』
あんな、自分勝手に怒って、彼に八つ当たりのようなことを……
……怒って、いるのだろうか。私は? さなには、自分の気持ちがわからない。
この黒いもやもやも、自分の気持ちも、なにもわからない。
「その上、あんなことまで言っちゃって……」
「さなちゃん……」
あんな言い方、嫌われてしまっただろうか。それはそうだろう、彼からしたらわけのわからないことでしかないのだから。
今まで、好意を向けてくれていたが……今回の件で、愛想を尽かしてしまったかもしれない。
もしもそうだとしたら……とても、嫌だ。
「さなちゃん……それ、嫉妬じゃないかな」
「……嫉妬?」
胸を押さえるさなに、あいは言う。
これまで恋愛というものをしたことがなかった。だから、その変化に気付けない……それも、仕方のないことであると思う。
しかしさなには、これが本当に嫉妬というものなのかわからない。
なんせ、これが初めてなのだ。知識として知っていても、経験はない。
「だって、光矢クンが他の女の子と仲良くしてたらもやもやしちゃうんでしょ?」
「うん」
「その相手に、光矢クンを取られたくないと思ってる」
「……うん」
「その相手と、光矢クンがくっついたと想像したら……」
「…………やだ」
あいからの質問に、さなは答えていく……質問の内容が変わる度に、あいの表情は暗くなっていき。
他の誰かと、真尾がくっついたら……そう想像しただけで、込み上げるものがある。
その表情を見て、あいは慌てたように言葉を並べる。
「あ、や、わ、ご、ごめん! そんな顔させるつもりじゃ、なくてね……!?」
「うん、ごめん……わかってる」
もしかすると、あいが、そして真尾本人が考えている以上に、さなは真尾のことを……
今のやり取りで、わかってきたことがある。
そしてそれは、さな自身まだ自覚はないものではあった。
「と、ともかく!
光矢クンと他の子が、親密なのを見るともやもやしちゃう……それが、嫉妬ってやつだよ」
「……しっ、と……
あいちゃん、まるで経験者みたい……」
「! あ、あははは! いや、気のせいじゃないかな!
あ、なら今度からボクも、光矢クンとあんまり仲良くしない方がいい!?」
「……いいよ、あいちゃんは」
動揺しているのか、必死に平静を保とうとするあいの姿に、さなはくすっと笑みを浮かべた。
少しだけ、心が軽くなったような気がする。
……この気持ちが、嫉妬……
自分が思っている以上に、自分は真尾のことを大切に想っているのだろうか……さなは、なんだか嬉しくなるのを、感じた。
「……って、この気持ちの正体がわかったからって、真尾くんにしちゃったひどいことが帳消しになるわけじゃない!」
自分の気持ちに気付いても、それは自分の問題が自分の中で解決しただけだ。
先ほど真尾に言った言葉が、なくなるわけではない。
あのとき、真尾はどんな表情を浮かべていただろうか……呆気にとられたような……バツの悪いような……
……傷ついたような、顔ではなかっただろうか。
「……!」
「さ、さなちゃん!?」
急に走り出したさなの姿に、あいは驚きを見せる。彼女が走り出したのは、進行方向とは逆……
つまりは、今来た道を逆戻りしている形になる。
「私、真尾くんに謝らないと!」
「え、今から!? 戻って!?
電話とか、メッセージとか……」
「自分の口から、伝えたいの!」
彼は、恋人になるまでの間……そして、恋人になってからも、ストレートに好意をぶつけてくれていた。それは恥ずかしくも、嬉しかったのだ。
ならば……今度は、こっちの番だ。今思っていることを、ちゃんと自分の口から、伝えなければ!
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる