転生魔族は恋をする 〜世界最強の魔王、勇者に殺され現代に転生。学校のマドンナに一目惚れし猛アタックする〜

白い彗星

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転生魔王は青春を謳歌する

忙しない部下

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「き、聞き間違いでしょうか……
 今、こ、恋人と……そう、言ったような……?」

「あぁ、聞き間違いじゃない。あの子は、俺の恋人だ」

 俺の言葉がよく聞こえなかったらしい新良は、聞き返してきた……だが、ちゃんと聞いていたのではないか。
 俺が、その言葉を肯定する。

 新良は、信じられないといった表情を浮かべている。
 そんなに、信じられないことだろうか? 別にこれくらいのことは……

 ……驚くな。なにより、以前の俺に同じことを言ったとして、以前の俺は素直に受け止められないだろうし。
 この俺が、誰かと恋人になるなどと……しかも、人間とだ。

「そ、そんな……わっちと共に過ごした、あの熱い夜は遊びだったんですか!?」

「店内でそんな誤解を招くようなことを言うな」

 よよよ、とこいつは、わかりやすく嘘泣きをしている。こいつは昔から、こういうところは変わっていない。
 別に変わらないところがあるのはいいことだが、ここは公共の場だ。そのような誤解を招く言い方は、やめてもらいたい。

 というか、だ。こいつのこの発言のせいで、さなは……

「本当はお前なんて放っておいて、さなを追いかけたかったんだがな」

「ひどい言い方!」

 昔の部下とはいえ、今の俺にとってはさなの方が大切だ。こんな緊急事態でもなければ、さなをまず追いかけたさ。
 こいつを一人にしたら、なにをするか……いや、こいつをまず落ち着かせないと、さなを追いかけた俺を追いかけてきて、さらに状況は悪化しそうだ。

 まずは、俺の生活に干渉してこないよう釘を刺しておかなければ。

「まあ、済んだことはもういい。今後俺の生活圏内に足を踏み入れなければそれで許してやる」

「そんなさらっと、鬼畜のようなことを!? さすがは魔王様!
 でも、せっかく会いに来た部下にそんな言い草はあんまりでは!?」

「お前があんなことをしなければ、もう少し友好的に接することができたんだがな」

 魔王であった俺を、側近の一人として支えてくれた新良……いや、ニーラ。
 本人には言わないが、こいつに助けられたとこもあるし、感謝はしている。本人には言わないが。

 だが、それはそれだ。今の俺の優先順位が変わった以上、それに悲しい顔をさせたニーラを俺は、友好的に迎えることはできない。
 少なくとも、現時点ではな。

「せっかく二人きりになってくれたんだから、聞きたいこととかあるんじゃないですか?
 ほら、どうしてお前も転生してるんだとか、今恋人はいるのかとか、スリーサイズとか」

「ぺっ」

「!?」

 こいつが俺に好意を持っているのは知っているが……それは恋愛的なものではなく、尊敬の割合が大きい。さらに昔からこいつは、俺をからかおうとしてくる。
 こいつが今言ったことも、的外れではない。確かに聞きたいこともある。

 だが……

「転生の謎も、俺には今やどうでもいい。
 勇者もこの世界に転生していたし、どうせお前も向こうで死んだんだろう。自死か誰かに殺されたかは知らんが」

「ドライですねぇ、まあそこが魔王様の素敵なところ……
 ……ん? 今、誰が転生していたって?」

「? 勇者だが」

 頼んでいた紅茶を飲もうとしていたニーラの手が……ふと、止まる。
 なぜだか、その手がガタガタと震えている。

 ……こいつの、この反応。まさか……

「お前、勇者が転生してたこと知らないのか」

「知りませんよ!」

 半ばやけくそ気味に、ニーラは叫んだ。だからこんなところで騒ぐなと言うに。
 俺が目で注意すると、ニーラはコホン、と佇まいを正した。

「お前、体育祭にいたんだろう。なら、当然気付いているものと思ったが」

「わっち、魔王様以外アウトオブがんちゅーでしたから」

「あぁ、そう」

 そういえば、こいつは昔勇者に、手痛い目に遭わされたのだったな。命こそ取られなかったが、確か腕一本斬られて帰ってきたな。
 まあ、こいつは再生に特化した魔族だったから、無くした腕もすぐに生えたわけだが。

 とはいえ、肉体的な傷は治っても、精神的な傷はそうもいかない。
 当時のことを想い出しているのか、ニーラは全身を震わせていた。

「ま、魔王様は、じゃあ、つまり、勇者と同じ学校に、通っている……?」

「あぁ、そうなるな」

「かはっ」

「うわ、きたねぇ!」

 全身の震えから、なぜか吐血したニーラ。それを目撃した店員が、手早くおしぼりを持ってきてくれた。
 なんともはや、申し訳ない。

「ありがとうございます。
 ……あ、大丈夫です。いつものことなんで、すぐ収まります」

 とりあえず店員に去ってもらい、俺はニーラにおしぼりを渡す。
 おしぼりが赤く染まっていくのは見ていて申し訳なかったが、他に拭くものもないので仕方がない。

 あぁ、俺はどうして、こんなことをやっているのだろう。

「はぁ、はぁ……ゆ、勇者のいる学校……もしバレたら、また……
 くっ、右腕が、うずく……!」

 血を拭き終わり、ニーラは顔色青いままに右腕を抑えていた。
 あの仕草、なんか中学の頃に鍵沼がやっていたポーズに似ているな。なんか、腕がうずく……とかやっていた。怪我とかしていないのにな。

 まあ、ニーラの場合はマジでうずいていそうだ。なんせ本当に斬られたことがあるのだから。
 しかも、人間の身体ではもしまた斬られても、再生はできない。

 ……いくら昔は敵対していた者同士とは言え、今のあいつはみだりに傷つけたりはしないだろうが……

「あんなのがいたんじゃ、もう、魔王様に会いに行けない……!
 くぅ、わっちは、どうしたら……!」

 なんか勝手に、俺に会いに来れない状態に陥っているから、あいつの印象はそのままにしておこう。
 魔族に恐れられて本望だろう、勇者ヨ。

「……はぁ」

 ふと、窓の外を見る。そこには、すっかりオレンジ色となった空が、広がっていた。
 この同じ空の下……さなは、いったいなにをしているんだろうな。
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