97 / 114
転生魔王は青春を謳歌する
意外な再会とガチギレの彼女
しおりを挟む今から帰宅……というところで、腹部に衝撃が走った。
なんということだ……俺に対する敵意なら、以前ならばすぐに察して、避けられたはず。体は人間のものでも、感覚は転生前のままだ。
この平穏な生活で、鈍ったか?
……いや、そもそも今、敵意は感じなかった……?
「ぐ、ぅう……」
その衝撃に押し倒されそうになったが、寸前のところで地を踏みしめる。
それから、衝撃の正体を確かめようと視線を下げて……
そこには、一人の少女が居た。さっき、こっちに向かって来ていた女だ。くせっ毛なのか、髪があちこち跳ねている。
それが、なぜか俺の腹に顔を擦りつけている。
「お前、誰だ……」
なんとか、言葉を絞り出すが……衝撃を受ける直前のことを、思い出す。
あれが、聞き間違いでなければ……
こいつは俺のことを、魔王様、と……?
「ま、真尾くん……?」
「!」
ま、まずい……いや、この女がどこの誰かも知らないが!
状況的には、さなの前で別の女に抱き着かれている状況だ。これは、まずいのではないのだろうか。
困惑している様子のさなに誤解のないようにきわめて冷静に応える。
「落ち着けさな、俺はこの女のことはなにも知らん。なんか勝手に抱き着いて来ただけで……」
「あぁん、魔王様のいけずぅん。
わっちとは、あんなに熱い夜を過ごした仲ではないですか」
「誤解を招く言い方をするな! ちょっと黙ってろ!」
くっそ、なんだこの女は! あいと同じくらいの背丈だが、あいよりも力強く離そうとしない!
あぁさなの表情が無になっている! あいはあいで困惑しているのか介入してこようとしない。
いったいなんなんだこの女……
……待てよ。
こいつは、俺を魔王様と呼んだ。それが聞き間違いではないと想定すると……こいつは、まさか俺と同じ世界の魔族か?
しかも、だ。さっきこいつ、自分のことをわっちと呼んだな。そんな一人称の女を、俺は一人知っている……
「お前、まさかニーラか……?」
「ふふっ」
さなとあいに聞かれないように、俺は女に話しかける。すると、女は俺を見上げ、ウインクをしてみせた。
間違いない……こいつは、ニーラ……俺が魔王だった頃、側近として世話係を任せていた女魔族……!
なんで、こいつがここに……いや、今は……
「いい加減……離れろ!」
「ひゃわぁ!」
いきなり抱き着いてきた不審者とはいえ、ただの人間相手に乱暴するわけにはいかないので激しく抵抗はできなかったが……こいつの正体がニーラなら、関係ない!
俺は体を思い切り捻り、強引にニーラを引きはがす。
「ちょっ、光矢クン!? さすがに乱暴じゃ……」
「気にするな、これでもまだ足りないくらいだ」
「そうですよぉ、魔王様はもっと激しいのがお好みですもんねぇん」
「お前黙れ!」
頬に手を当て、体をくねくねさせている。あぁ殴りたい。
というか、見慣れない制服だが……や、制服ということは、こいつも学校に通っているのか?
ともかく……くそ、今のやり取り、俺とこいつが知り合いだと勘付かれたか……?
「ていうか、さっきもだけど……光矢クンのこと、まおーさま……とか言ってなかった?」
「ま……真尾様、じゃないか? 俺は光矢 真尾だからな」
「や、だからって……
ねえ、さなちゃんはどう思ひぃ!?」
なんとか、誤魔化せないものか……やはり、厳しいだろうか?
あいがさなにも意見を求めようと振り返ったところ……喉の奥から絞り出したような、悲鳴が聞こえた。
どうしたというんだ。俺も、視線を追い……さなの表情を見る。
「……っ!」
「さあ、私にはわからないかなぁ」
なっ……なんだ、この感覚は。この感覚には、覚えがある。
そう、俺がまだ魔王だった頃。俺を殺しに来た勇者と対峙し、その力に負けて殺されるという最中に抱いたあの感覚、いや感情……
この体になって、初めて感じた……『恐怖』という感情を。
「さ、さな……これは、だな……」
「あ、私用事があるの思い出した。悪いけど先に帰りますね。
じゃあね、あいちゃん……"光矢"くん」
「!?」
俺が引き止めるのも聞かず……いや、実際には引き止めようとすることすら叶わず。さなは、背を向けて行ってしまう。
こういうのは……追いかけた方が、いい。いいんだよな。それはわかっているのに……
あ、足が……動かない……
それはあいも同じなのか、その場に立ち尽くしていた。足が震えているのが見えた。
「あ、あれ……さなちゃちゃん、がが、ガチギレ、しししてる、かも……初めて、見た……
あはは……お、おしっこ漏れちゃいそう……」
どうやら、あいすらも見たことがないようだ。今のさなの姿は。
俺は、さなが怒っているのすら、初めて見たというのに……なんだ、この恐怖は。
あの、圧力……俺ですら、伸ばした手が震えている。
「さなちゃん、恋愛関係だと、あ、あんな怒るんだ……」
「恋愛、関係……?」
「だって、どう見ても光矢クンがその子に抱き着かれたの、見たからじゃん。
し、しかも、かなりの、やきもち焼き……」
あいの見解は、こうだ。やきもち、あれがやきもちなのか!?
とはいえ、逆の立場だったら……俺も、怒ってしまうかもしれない。
その、きっかけを作ったのは……
「あぁん、なんですか魔王様、そんなに熱心に見つめられたら、わっち、わっち……!」
「……」
この、今にもぶん殴りたくなる腹の立つ顔をしている、女だ……!
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる