転生魔族は恋をする 〜世界最強の魔王、勇者に殺され現代に転生。学校のマドンナに一目惚れし猛アタックする〜

白い彗星

文字の大きさ
上 下
87 / 114
転生魔王は青春を謳歌する

手作り弁当

しおりを挟む


 さなとのデート、舞台は水族館。
 水族館はこれまでに、来たことがなかったから、俺としては新鮮な場所だ。

「え、真尾くん、水族館初めて来たんですか!?」

「あぁ」

 そう話すと、さなはとても驚いていた。
 自分は好きな場所なので何回も通っている……だからこそ、通ったことのない人間がいるとは、思わなかったのだろう。

 俺も、興味がないわけではなかったが……
 機会が、なかったからなぁ。

「だから今日は、さなが連れてきてくれて嬉しい」

「……そう、ですか。
 でも真尾くん、表情が変わらないので、わかりにくいです」

「それは……努力しよう」

 よく、鍵沼にも無表情だとか鉄仮面だとか言われることはある。
 自分でも、わざわざ表情を動かそうとは思っていない。
 とはいえ、無理に無表情を貫いているわけでもない。

 ただ、あまり性格が表に出ないだけだ。
 今も、昔も。

「あ、別に、表情が見えないからどうってわけじゃないんですよ。
 それはそれで、真尾くんの、個性だと思いますし」

「……そうか」

 個性……そう言われたのは、初めてだ。
 対してさなは、表情がよく変わる。

 笑ったり、照れたり、少し怒ったり。
 好きな相手の、表情の一つ一つを見ていると、胸があたたかくなるのを感じる。

「あの、そろそろお腹空きませんか?」

「ん?
 ……言われてみれば、そうだな」

 さなの言葉に、左手首に付けていた腕時計を見る。
 時刻はちょうど正午あたり……
 腹にものを入れるには、いい時間帯だろう。

 昼食を取るとなると……
 一度、外へ出てどこかに食べに行くか。で、まだ見足りなければ再入場を……

「あの、真尾くん……
 実は、お、お弁当を、作ってきたんです」

「……弁当、だと」

 それは、衝撃の一言だった。
 まさか、さなが、弁当を……それも、今日のために?
 俺のために?

「あの、お口に合うか……」

「いや、食べよう。すぐ食べよう」

「あ、は、はい」

 ということで、館内の飲食スペースへ移動。
 二人がけの席に対面で座り、さなは鞄から包みを取り出す。

 それは、なにかを包んだもの……
 そしてそのなにかとは……

「こ、これです」

「おぉ」

 黒い弁当箱だ。
 さなは緊張した様子で、ゆっくりと蓋を開けていく。

「おぉ、うまそうだな!」

「ん……」

 弁当箱には、白飯を始め、卵焼きやウインナー、唐揚げといった、弁当の定番メニューともいえるものが入っている。
 ちなみにその横には、一回り小さな弁当箱。
 これが、さなの分だろう。

 自分の分とは別に、俺のまで作ってくれたということか。

「えっと……お、お口に合うかは、わ、かりませんが……」

 緊張しているのだろう、先ほどと同じ言葉を繰り返すさな。
 蓋を持つその手は、若干ながらに震えている。

 相手に受け入れられてもらえるかわからない、こんな思いを抱えながらも、さなは俺のために……

「あぁ、もちろん全部食べさせてもらおう」

「む、無理はしないでくださいね!?」

 無理だなんてとんでもない……さなの手料理なら、なんだって食べてやろう。
 俺とさなは、それぞれ弁当を広げ、手を合わせる。

「いただきます」

「い、いただきます」

 この飲食スペース、若干数カップルが多い気がする。
 だからだろうか、さなが必要以上に緊張しているのは。
 それとも単純に、弁当の出来を気にしているのか。

 さて……
 俺は箸を手に取り、さっそくおかずを手に取るために狙いを定める。

 最初は……やはり……

「卵焼きを」

「……」

 手を伸ばした先は、卵焼き。
 まずはそれを箸で掴む。おぉ、なんとふわふわした食感……力加減を間違えたら、割れてしまいそうだ。

 なのでゆっくりと、持ち上げて……口へと、運ぶ。
 一口サイズの卵焼きを、一気にパクリ。

「あむ……んん」

「……ど、どうでしょうか」

 不安げな、さなの表情。

「……あぁ、うまい」

「!」

 そんな彼女に、俺は素直な感想を、伝える。

「触った瞬間にふわふわなのはわかったが、口の中で噛んだ瞬間に卵の黄身が溢れてきてな。
 それに、ほんのピリッとした塩味も、実に好みだ」

「よ、よかったです……」

 俺の感想を受けてか、さなはほっとしたように、胸を撫で下ろす。
 他人に、自分の作ったものを食べられるというのは、緊張するものなのだろう。
 俺は料理をしたことないから、わからないが。

 安心したのか、さなも自らの弁当に手を付ける。
 二人とも同じ中身ではあるが、弁当箱の大きさが違うので、量は俺のが多い。

「さなは、それで足りるのか?」

「はい。
 真尾くんこそ、それで足りますか?」

「あぁ、問題はない」

 男だから、これだけ食べるだろうって予想して作ってくれたのか。
 ありがたいことだな。

 それぞれ、どのおかずもうまく、箸が止まらない。
 あっという間に、量が減っていく。

「わ……す、すごいですね」

「ん、そうか?
 うまいから、箸も進むだけだ」

「そ、そうですか……」

 本当ならば雑談でもしながら優雅に食事の時間を楽しみたいところだったが……
 気づいたときには、弁当箱は空になっていた。

 さなは、まだ食べている途中だ。

「うわぁ、本当に全部食べてくれるなんて……
 あ、お茶です」

「当然だ、うまかった……ありがとう」

 さなから、水筒からコップに注がれたお茶を受け取り、それを飲む。
 喉が潤い、さっぱりした感覚。

「嬉しいです」

 コップを返し、さなはうっすらと笑っていた。
 こんなにも嬉しそうにしてもらえると、なんだかこっちも嬉しくなるな。

「ちなみに、どのおかずが一番美味しかったですか?」

「一番、か……
 迷うが、卵焼きかな」

「そ、ですか……卵焼き。
 ふふ」

 一番美味しかったおかず……それを聞いて、またさなは笑みを浮かべ。
 箸で摘んでいた卵焼きを、パクっと食べた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...