転生魔族は恋をする 〜世界最強の魔王、勇者に殺され現代に転生。学校のマドンナに一目惚れし猛アタックする〜

白い彗星

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転生魔王は青春を謳歌する

行き先は水族館

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「……」

「……」

 さて、今俺は、さなと隣り合って歩いている。
 ……正確には、さなは俺の少し後ろを歩いている。
 服の袖を、ちょこんと摘まんで。

 こういったシチュエーションは、なかなか男心をくすぐるものだ。
 なのだが……

「さな……これじゃあ、道がわからないのだが」

「あ、そ、そうですよね……すみません」

「いや……」

 これは、デートだ。なので、俺がリードしている形なら、今のままでも全然問題ないのだが……
 今回は、さなの提案でのデート。
 さなに主導権がある形になる。

 なので、後ろを歩かれたのでは、目的地が分かっても俺に道は分からないわけで。

「で、では、こちらに……」

「ん、あぁ」

 さなは今度こそ隣に並び、俺を案内するように歩き出す。
 その際も、手は離さないままだ。

 ただ、次なる問題が発生する。
 会話が、浮かばない。

 くそ、いつもならばなんでもないところからでも、話題を膨らませられるというのに。
 やはり、俺は緊張しているのか?

「あ、あの、光矢くん」

「ん?」

 そこへ、さなの方から話しかけてきてくれた。
 情けない話だが、助かった。
 ここから、なにか話を膨らませられればいいが……

「え、っと、ですね……
 そろそろ光矢くんのこと、な、名前で呼んでみても、良いですか?」

 ……予想外過ぎる申し出だった。

「あ、ご、ごめんなさい、いきなりすぎましたよね。
 今のは、忘れてくださ……」

「もちろん、いいぞ。
 むしろお願いしたいくらいだ」

 いかんいかん、一瞬意識が飛んでいた、だと。
 こんな経験、かつてなかったぞ。

 たった、名前を呼んでもらう、ただそれだけのことで……

「じゃ、じゃあ……真尾、くん……」

「…………」

 おぉ……好きな人から名前を呼んでもらえるというのは、なんというか……
 すごいんだな。

「や、やっぱり変ですかね……」

「いや、それでいこう。それで頼む」

「あ、は、はい」

 真っ赤になるさなも、かわいいものだ。
 しかし……どうしたというんだ。いきなりデートの誘いや、名前呼びなどと。
 そりゃ、嬉しいことこの上ないのだが……

 なにか、さなの中で心境の変化でも……?

「あ、着きましたよ!」

「ここか」

 いつの間にか、目的地である水族館にたどり着いていたらしい。
 祝日だからか、人の出入りが多いな。

 入場のためのチケットは、さなが持っている。
 このまま、受付まで行って……

「いらっしゃいませ」

「あの、このチケット二枚で……」

「はい、『カップル割り』のチケットですね。承ります」

「!?」

 受付の女性にチケットを見せていると、女性がとんでもないことを言い出した。
 か、カップル割り……だと……?

 隣を見ると、さなが真っ赤になっていた。
 この短時間で、赤くなったりならなかったりを繰り返している。

 チケット、としか聞いてなかったから……まさか、カップル割りだったとは。

「では、いってらっしゃいませ」

 受付の女性に見送られ、俺たちは館内へ。
 さなは、終始無言だった。

 カップル割り……か。水族館が好きだから、お得にすませるために、一番親しい異性である俺を誘ってくれただけなのか。
 それだとしても、一番親しいというのは光栄だが……


『……光矢くんと、行きたかったんです……』


 あの台詞が、頭の中で回っている。
 そして、そんな俺の考えを見透かしたかのように……

「……真尾くんを、利用したわけでは、ないですから」

 口元を隠しながら、そんなことを言った。安く済ませるために俺を利用した、という意味ではないと、律儀に教えてくれる。
 別に利用されてもいいかな……と思ってしまったのは、内緒だ。

「さな……」

「わっ……見てください、真尾くん!」

 はっと顔を上げたさなが、正面を指差す。
 これまでさなの横顔しか見ていなかった俺は、促され、ようやく正面を見た。

 そこに広がっていたのは……

「おぉ……」

 どでかい、水槽……見る者を圧巻するような、巨大な水槽がそこにあった。
 ここはいわば、水族館の玄関……受付を通り、まず目につくところだ。

 そこに、こんなものがあれば、誰だって目を奪われるだろう。

「魚が……たくさん、泳いでいるな」

 水族館なのだから当然ではあるのだが、水槽の中にはたくさんの魚が、様々な種類が泳いでいる。
 ひと目で魚とわかるものや、そうでないもの……
 知っているものや、知らないもの。

 なんとも、迫力のある光景だと思った。
 これほどまで、美しいと感じる景色を見たのは、初めてかもしれない。

「わぁ……
 見てください真尾くん、こっちこっち!」

「あ、あぁ」

 いつの間にか、水槽の目の前にまで移動していたさなは、水槽に貼りつきながら、俺を呼ぶ。
 学校では、決して見ることのない姿だ。

 絵に描いたような優等生、男女隔てなく接するその姿は、誰の目にも好印象だ。
 そんな彼女が、今、年相応に子供のように、はしゃいでいる。

 隣に移動した俺に、魚の種類を説明してくれる彼女の姿は、とても生き生きしていた。

「あ……す、すみません、はしゃいじゃって……」

 ふと、我に返った時に恥ずかしがるのも、かわいらしい。

「いや、さなのそういうところ、もっと見たい」

「そ、それは恥ずかしいですよ……」

 意識すると恥ずかしいのか、もじもじとしながら首を振る。
 別に俺は、気にしないのだがな。

「こほん。
 あ、改めて見て回りましょう、真尾くん」

「あぁ、そうだな」
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