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転生魔王は青春を謳歌する
さなからデートのお誘い
しおりを挟む「デート……さなから、デートのお誘い……」
昨夜、俺はさなからの着信を受け……驚くことに、デートに誘われたのだ。
これまで、さなからの電話すらなかったのに、いきなりデートとは……
いったい心境で、そうなったのだろう。
とはいえ、明日デートしよう、と前日の夜に言われては、ろくな準備は出来なかった。
まあ、断るなんて選択肢は、ないんだがな。
待ち合わせ場所と時間はあとでメッセージを送る、デート内容についてはこちらで考えてある……と言われたので、当日、待ち合わせ場所に待ち合わせ時間三十分前についたわけだが……
「さすがにまだ来ていない、か」
速すぎたためか、さなはまだ来ていない。
ま、こういうのは男が待っておくもんだから、気にすることはないのだがな。
前回はさなの方が三十分前についていたから、今回は俺の方が早くついたぞ。
うーむ、祝日だからか人の出も多いな。
いったい、さなにどこに連れて行ってもらえるのか……
「こ、光矢くーん」
適当にスマホを見て時間をつぶしていると、聞きなれた……もはや待ち望んでいた声が聞こえた。
現代科学の進歩はすごいな、と思っていた直前までの思考を、すぐに切り替える。
「お、お待たせ、しました」
「いや、俺も今来たところ……」
背後からの声に、振り向く。
そこにはさなが……いつもの、制服姿ではないさなが、いた。
前回着ていた、白いワンピースとも違う。
白色のトップスに、その上からロングパーカーのコート。水色のミニスカートを着用し……長い黒髪を、後ろで一つにまとめている。
鞄を両手で持ち、駆けてきたのか軽く息を整えている。
……端的に、かわいい。
「えっと……どうか、しました?」
「いや……似合っているなと、思ってな」
「あ、ありがとうございます……」
恥ずかしがり、うつむくその仕草も愛らしい。
……と、その胸元に、きらりと輝くものが見えて。
「……その、ネックレス」
「あ……ええと。光矢くん、喜んでくれるかなと」
首にかけられた、ハート形のネックレス……
それは、前回のデートで、俺がさなに買ったものだ。
……いや、お互いに。
「はは、考えていることは一緒だな」
「あ……」
俺も、服の内側に忍ばせていたそれを、見せる。
その瞬間、さながわずかに微笑んだように見えた。
……まずいな。
「きょ、今日はどこに、行くんだ?」
さりげなくさなから視線をそらし、今日の目的地を聞く。
あんまりさなが普段と違ってかわいいもんだから、直視しすぎるとまずい。
いや、もちろん普段も、かわいいのだが。
と、さなはポケットから折り畳み式の財布を取り出し、その中にあったなにかを俺に見せる。
「水族館、行きましょう!」
「……すいぞくかん」
見せつけられたチケットは、水族館へのフリーパスチケット。
それが二枚、つまりはさなと俺の分だ。
予想外の目的地に、しばし言葉を失う。
「実は私、お魚が好きで、小さい頃から、よく水族館に連れて行ってもらってたんです。
……あ、逆かも。水族館に連れて行ってもらってたから、お魚が好きになったのかな?」
「……」
「それで、その、宜しければ一緒に……
も、もちろん無理にとは言いませんし、その場合のプランも考えて……」
「……」
「こ、光矢、くん?」
「……あ、いやすまん……さなの好きなものが、意外な形で知れて、嬉しくてな」
これまで知らなかった、さなの好きなもの。
誰かから教えてもらったわけでもなく、さな自身に教えてもらった。
それも、デートの行き先として。
これは……なんというか、あれだな……
嬉しいって、やつだ。
「そ、そうです、か……」
「なら、さっそく……
……俺で、よかったのか?」
「え?」
そこでふと、気になってしまう。さなが魚好きというのなら、魚好きの友人や、以前連れて行ってもらったという親と、一緒に行かなくていいのかと。
俺は魚は嫌いではないが、好きというわけでもない。
まして、生きている魚だ。
もちろん、さなの好きなものなら俺も好きになるよう、全力で挑むが……
そんな、俺の内心を知ってか知らずか。
「……光矢くんと、行きたかったんです……」
なんて、とんでもなくぐっとくることを言った。
おいおい、なんだその表情は……視線をそらしてはいるが、赤くなった顔を隠しきれていないぞ。
それに、チラチラこっちを見てくるのはやめなさい。抱きしめたくなる。
そうか……自分の好きなものを、俺と共有したいと、思ってくれたわけか。
「そうか……
そういうことなら、遠慮なく好意に、甘えるとしよう」
「! はい!」
眩しいほどの笑顔を向けてくれる……いろいろ準備をしていなかったら、やばかったな。
今でも、気を抜いたら膝から崩れ落ちてしまいそうだ。
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そうだ、落ち着くのだ……
「ふぅ……よし。
じゃあ、行こうか」
「はい」
歩き出そうとする……が、ふと、袖が引っ張られるような感覚。
何事かと、後ろを振り向く。
「あ、あの……手を、繋ぎ……たいんですが、それはさすがに、恥ずかし……なので、こ、これでも……い、ですか?」
「…………あぁ」
恥ずかし気に、袖をちょこんとつまむさな。
そして、上目がちな視線…………あぁ。
俺は今日、死ぬかもしれんな。
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