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転生魔王は青春を謳歌する
着信アリ
しおりを挟む「んん……」
さて、さなへのアピールを決めたその日の夜……
俺は自室で、さなにどうアピールをするかを考えていた。
あいにはあの後、ストレートなのはいいがあんまりストレートすぎても、逆に引かれてしまう……と注意された。
実際に引かれたかはともかく、あの後露骨にさなに避けられていたからな。
なので、アピールするにも方向性を決めていこうと思うのだが……
正直、どうすればいいのかよくわかっていない。
「またデートに……いやでもそう頻繁に誘うのもな……」
デートをするにも、金が要る。
もちろん、費用を抑えるデート方法もあるのだろうが……
『えー、光矢くん、せっかくのデートなのにしょぼすぎない? 幻滅したんだけど』
こんなことを言われたりなんかしたら、俺はもう立ち直れない自信がある。
そりゃ、さなはこんなことは言わない……それはわかっている。
だが、そう思わないかは、また別の話だ。
デートには金が要る、なるほどな。
現状小遣いをやりくりしてはいるが……
「ったく、人間社会ってのは……」
思えば、魔王時代にこんなことは考えたことがなかった。
欲しいものがあれば力づくで手に入ったし、なんだったら部下が勝手に用意してくれたし。
まして、誰かの喜ぶ顔が見たい、などと……
だがまあ……
その"誰か"にために、いろいろと考えを巡らせるのも、悪くはないか。
「となると、バイトでも探してみるか?
今じゃネットにいろいろ載ってるみたいだし……」
スマホを手に、検索しようかしまいか、迷っていると……
表示画面が、着信画面へと変わる。
表示された名前は、さなだ。
「さな?」
その名前に、俺は少し驚く。
俺からさなに電話をかけることは……そんなに多くはないが、少なくともさなから電話がかかってきたのは、初めてじゃないか?
……あれ。
「なんだろう、少し息苦しいな」
なんだ、この気持ち……若干、手も震えている。
それに、心臓も……なにかの病気か?
……そういえば、以前あいが、愛読している小説について熱く語っていたな。
想いを寄せている相手からの電話に、主人公が緊張して出る……その甘々な雰囲気がたまらない、と。
まさか、これはそういうことなのか……?
この俺が、緊張しているのか?
「……ふぅ」
落ち着け、俺は魔王。前世の話だが……あらゆる魔族の頂点に立った男だぞ。
緊張などと、そんなものとは無縁だ。
まして、電話などに……顔も見えない相手からの連絡に、なにを緊張する必要があるというのだ。
自分で自分を律する、落ち着け元魔王。
「……よし」
そう、これは、いつも連絡がこない相手から来たから、驚いただけ。
ただそれだけだ。
俺は着信のボタンをタッチし……画面を、耳に当てる。
「も、もしもし……」
『あ、光矢クーン!?
やっほー、さっきぶりー!』
「…………」
聞こえてきた声は……騒がしい、女のもの。
さなではない。
というか、あいだった。
あれ、おかしいな……さっきまで、心臓は高鳴り少し息苦しいほどだったのに。
それが嘘のようだ。
「……なぁあい」
『うん、なんだーい?』
「俺、今だけお前のこと嫌いになってもいいか?」
『?
よくわかんないけどダメ』
いやいや落ち着け俺、さっきとは別の意味で。
着信の名前はさなだ、だから向こうは、さなのスマホであることには間違いない。
だから、着信終了のボタンを押そうとするな、俺!
「なんの用だ」
『なんだよぅ、冷たくない?
あ、もしかしてさなちゃんからの電話だと思って期待してた?
いやぁ、ごめんねぇ』
「あぁ、いいさ。ただ、今後はこういうことは控えてくれ。もし鍵沼が同じことをしたら、俺は奴を半殺しにするまで殴る自信がある」
『!?』
「ははは、冗談だ。気にするな」
『冗談!? ホントに!? ていうか、どこからどこまでが!?』
やれやれ、あいは電話越しにでもやかましいな。
そう、冗談だとも。なにせ俺は紳士だ、こんなことで怒るわけないじゃないか。
「で、だ。
なんで、あいがさなのスマホから?」
『あぁ、それはねぇ……
ほい!』
……?
ほい、の声と共に、電話口からはなにも聞こえなくなる。
……いや、ざわざわとなにか聞こえるな。あと、声も。
これはあいと……さなのものか?
しばらくの間、なんらかの攻防と思われる音……声だな。続いて……
『も、もしもし……?』
さなの声が、した。
「お、おぉさな。
いたん、だな」
『は、はい』
その声が聞こえた瞬間、急速に冷えていた体温が、上昇してきた感覚。
また、心臓もうるさくなり始めた。
くそ、どうしたと言うんだ、俺の体は。
「ど、どうしたんだ? さなからの電話だと思ったら、いきなりあいの声がして驚いたぞ」
二重の意味でな。
『ご、ごめんなさい。あいちゃんとは、その、パジャマパーティーをしていて……お泊り、していて……それでその、私から光矢くんに電話をかけるつもりだったんですが、踏ん切りがつかなくて……見かねたあいちゃんが……
……光矢くん? 聞いてます?』
……パジャマパーティー……パジャマパーティーだと……!
つまり今、さなはパジャマ姿で……なんなら、風呂とか入った後で……
『光矢くん?』
「ん、んん! あぁ、聞いてるぞ! パーティーがパジャマだったな!」
『いえ、そうではなくて……』
いかん、俺はなにを口走っているんだ!? 馬鹿か!?
これじゃ鍵沼のことを馬鹿とか言ってられないぞ!
「すまん、取り乱した」
『い、いえ……それで、ですね……』
大丈夫、話は頭に入っている。
さなが俺に、電話をかけようとしてくれていた。俺に!
しかしなかなか電話をかけられず、見かねたあいが電話をかけた……と。
あい、グッジョブだ!
しかし、さなからの電話……用件は、なんだろうか。
話があるなら今日いくらでも時間があっただろうに、明日だって学校で……
あ。明日は祝日だったか。だが、だからといってわざわざ……
『あ、明日! 私とで、デート、しませんか!?』
「……………………デート?」
なにを言ってくるのか……ある程度の覚悟はしていたが、出てきた言葉は、その覚悟をやすやす打ち砕くものだった。
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