82 / 114
転生魔王は青春を謳歌する
どうしたいんだろうか
しおりを挟むそれは、次の学校登校日でのこと……
「いやぁー、さらさちゃん、めっちゃかわいかったわ!」
「そう……」
朝一番、登校した俺を見つけるや、すぐに駆け寄って話しかけてきた鍵沼。
その興奮した様子は、言われなくてもなんのことを言っているのかわかる。
あの日のデート、まさか俺たちに尾行されていたと知る由もない鍵沼は、小鳥遊のあそこがよかった、ここがよかったと、頬を赤くして話し始めたのだ。
「いやぁ、胸がときめくとかマンガでよく見るけど、こういうことを言うんだなぁ。
なぁ真尾!」
「そうだな、キモい」
「言葉の前後おかしくない!?」
いかんいかん、あまりに恍惚な表情で語る鍵沼の姿が、あまりに鬱陶しくて……
こほん。
とはいえ、その気持ちは……まあわからんでもない。
俺も、さなとのデートの時は胸が高鳴る、ってやつを経験したしな。
「いやぁ、これから俺も写真部に入ってもいいかもしんないなー」
「部内恋愛は禁止です」
「真尾がそれを言うの!?」
まあ、言葉だけだろう……鍵沼は、陸上部を抜けて写真部に来るなんてことは、ありえない。
この学校では、部活の掛け持ちも許されているようだが……
それでも、陸上一筋の鍵沼が、写真部に来ることはない。
「鍵沼くん、ご機嫌ですね」
「本当鬱陶しいわ」
そんな鍵沼の様子を見つめるさなは微笑ましそうに、あいは不機嫌そうに見ている。
すっかり、この四人でいることがいつもの光景になったな。
その後も、鍵沼から小鳥遊のいいところを延々と聞かされ続けてしまった。
ホームルームのチャイムがこんなに待ち遠しいと思ったのは、初めてだ。
確かに小鳥遊は、魅力的な異性だとは思うが。
「今の話を小鳥遊に聞かせてやれば、泣いて喜ぶだろうに」
その小鳥遊も……闇野に、同じように語っているんだろうか。
まさか、自分たちを尾行していた相手だとも知らずに。
そんなこんなで、一日は過ぎていく……
「で、なんで俺は呼ばれたんだ」
はずだったのだが、なぜか昼休憩に、闇野に呼び出されてしまった。校舎裏に。
今からさなたちと昼食を開始するはずだったのに、なんてことをしてくれるんだこいつは。
一切関わらない……と言っていたつもりが、いつの間にか番号交換までしてしまっていたのだ。
失敗だったか。
「仕方ないでしょ、私だってあんたと好んで会いたくなんてないわよ」
「じゃあ帰っていいか」
「なんのために呼んだと思ってるのよ」
……やれやれ、また面倒なことに。
「小鳥遊のことか?」
「そうよ」
まあ、そうだろうな。
闇野が、俺との共通点で自分から話しかけてくることなんて、親友の小鳥遊のことか転生前の世界でのことか、だ。
ちょくちょく絡むようになったのは……小鳥遊のためなら、気に入らない俺に話しかけるほどに大切な相手ができた、ということなのだろう。
「で、小鳥遊がどうしたって?」
だいたい、想像はつくが……
「あの子、今日会ってから、鍵沼くんの話ばっかりなのよ……
こっちが胸焼けするくらいに」
「あぁ……」
ほら、やっぱりな。
「その反応……もしかしてそっちも?」
「そのとおりだ」
「なんて色ボケな二人なのかしら……
まあ、鍵沼くんもさらさのことを、好意を持ってくれている、と捉えていいのよね」
二人揃って、相手とのデートのことを、思い返している。
それはまあ、なんとも微笑ましい字面ではあるが……
実際に、それを熱く語られては、こっちの身がもたない。
「体育祭の様子を見るに、馬鹿っぽいけど根はいい子みたいだし……
デートを見る限りじゃ、女の子のエスコートも、ちゃんとできてるのよね」
今、ナチュラルに煽りやがったな。ひどい言いようだ。
別にいいけど。
「なにより、さらさが好きな子だもの、これはあとひと押しでくっつくんじゃない……?」
「ううん……」
闇野の言うとおり、なにか後押しするものがあれば、鍵沼と小鳥遊の二人はくっつきそうだ。
小鳥遊はもちろん、鍵沼も多分告白されて、断る理由はない。
ただ、そうなると……
「……」
ふと、あいの顔が浮かんだ。
本人は、鍵沼が自分より先にデートしたのが生意気でムカつく、なんて言っていたが……
それだけの理由では、ない気もする。あの態度は。
なんとなくだが。
「どうかした?」
「いや……」
ただ、闇野には協力しろと言われてるしな。
俺個人としては、どうしたいんだろうか。
別に、鍵沼の幸せなんざどうでもいいが……小鳥遊は、鍵沼のことが好きで鍵沼の方もまんざらじゃない。
あいは、鍵沼と犬猿の仲。しかし、どうやらそこには複雑な感情も込められていそうだ。
「人間って、面倒だなと思ってな」
「なによ突然、きっっっもち悪いわね」
「そんなに実感込めなくても」
自分が魔王だった頃は、こんなこと考えもしなかったが……これが、人間というものか。
自分のことだけでなく、他者のことについても、気を配らなければいけない。
その後、闇野とは少しだけ会話をして、別れた。
急ぎ教室に戻り、さなたちと合流すると……なんと、さなは弁当を食べずに俺を待っていてくれたのだという。
「一人で食べるのは、寂しいと思って……」
なんて、とてもかわいらしいことを言ってくれる。
あぁ、なんということだろう。なんて優しいのか。
好きだ。
待ってくれていたさなのおかげで、昼食はおいしくいただくことができた。
ちなみにあいと鍵沼は、当然のように先にもりもりと食べていた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる