転生魔族は恋をする 〜世界最強の魔王、勇者に殺され現代に転生。学校のマドンナに一目惚れし猛アタックする〜

白い彗星

文字の大きさ
上 下
80 / 114
転生魔王は青春を謳歌する

最後まで見届けよう

しおりを挟む


 その後、鍵沼と小鳥遊のデートを観察していたが……
 意外にも、鍵沼のリードはしっかりしていて、相手を楽しませることを第一としているようだった。
 かといって、相手が気遣わないように、自分の好みにも付き合ってもらう。

 うまいな……女慣れしているのか? あいつ。
 鍵沼を参考にするのは癪だが、今度さなを誘った時の参考にしよう。

 さて、意外と健全なデートをしている二人を、尾行している不健全な男女がここに三人。

「なあ、もう帰らないか?」

 以前、さなとのデートを尾行されていた俺が、無理やり引っ張られたとはいえ他人のデートを尾行する側に回っている。
 なんと、頭の痛い展開だ。

 闇野のやつめ、俺とは関わらないとか言ったの、もう忘れてるんじゃないだろうな。

「ででで、でも! もし、このあと、ほ、ホテルとか行ったら……!」

「それは飛び過ぎだと思うけど……」

 顔を真っ赤にして、あいは懸念情報を口にする。
 あの闇野が諫める側とは、よほど暴走しているのか。

 それにしても、あいは思いのほか想像力が豊からしい。

「ホテル……? さすがに高校生だけで宿泊は……
 ……あぁ。男女が子孫繁栄のために活用する、公に認められた施設の方か」

「光矢クン!?」

「真顔でなんてことを」

「?」

 とにもかくにも、あいが心配していることにはならないと思うがな。
 時刻は夕暮れ、夕食を一緒に食べないのなら、そろそろ別れる頃だろう。

 なんというか、今後さなをデートに誘った時のために、参考にできる部分が多かったな。

「まあ、ここまで来ればもう心配事は……あら」

 闇野も、もう執拗に尾行することはないと口を開く……が。
 ふと俺も、違和感に気付く。
 空を、見上げる。

 鼻先に当たるしずく……

「雨か」

 今日の予報では、一日中晴れとのことだったが……
 残念なことに、天気予報というものは百パーセントではない。

 困ったな、傘なんて持ってきてないが……

「傘を持ってないのは、あいつらも同じか」

 鍵沼は論外として、用意周到な小鳥遊だって、まさか今日という日に傘を用意しているとは思わない。
 証拠に、わかりやすくおろおろしている。

 まあ近くにコンビニもあるし、そこで買えば……

「お?」

 しかし、次に小鳥遊がとった行動は、近くのコンビニに入る、というものではなかった。
 鞄に手を突っ込み、中を探っている。

 そこから、なにかを取り出して……

「折り畳み傘、ですって……!?」

 その光景を見たあいが、唖然としている。
 そう、小鳥遊は鞄から、折り畳み傘を取り出したのだ。おろおろしていたのは、傘がないからではなく、用意していた傘を取り出すタイミングを見計らっていたのか。

 ちなみに、ピンク色の。
 男が持ち歩くにはなかなか勇気のいる色だが、小鳥遊が持ち運んでも似合っているものだ。

 突然の雨、二人に対してひとつの折り畳み傘、ここから導き出される結論は……

「あいんぐっ……!」

 次の行動が予想できたから、俺はすぐにあいの口を塞いだ。
 そして、それは正解だった。
 一歩遅かったら、「相合傘!」と叫んでいたことだろう。

 そう、差し出された折り畳み傘を受け取った鍵沼は、それを差し、小鳥遊と二人で傘に入ったのだ。

 それこそ、話に聞いていたが自分が経験することのなかった、相合傘というやつだ。

「へぇ、鍵沼くん積極的ねぇ」

「むぐぐー!」

「そうか? 渡された傘を差しただけだろう」

「はぁ、わかってないわねぇ」

 呆れられてしまった。

「ヘタレな男なら、あそこで傘を受け取らずに走って帰ってるわよ」

「……それはそれであまりいないだろう、そういうのは」

「ふっ」

 なんだろうか、これ以上あまり聞いたらいけないような気がする。
 もしや闇野のやつ、過去に今言ったようなことが……?

 ……いや、このゴリラ女に限ってそれはないな。

「ねえ、今失礼なこと考えてない?」

「まさか」

「んんんー!」

「あ、悪い悪い」

 そうだった、あいの口を塞いだままだったのを忘れていた。
 手を離してやると、あいは軽く咳き込み、大きく息を吸う。

 大袈裟なやつだなぁ。

「あまり騒ぐなよ、バレる」

「けほ、けほっ……うぅ、光矢クン乱暴だよぉ」

「お前がいきなり騒ごうとするからだ」

 実際、あのまま口を押さえていなかったら、バレないかはともかく不審がられていたはずだ。
 それを指摘され、あいは拗ねたように唇を尖らせる。

「だって、相合傘なんてしてるんだよ……?」

「なんだ、うらやましいのか」

「はっ……ち、違うし!?
 わ、私でもまだしたことないのに、鍵沼に先を越されたのが、生意気だなって思っただけだし!」

「そういうものか」

 ふむ、あいもあいで負けず嫌いというか。
 それほどに競うほどのものでもないとは思うがな。

 しかし、叫びたくなるくらい悔しかったのか。

「なら、今度俺が相合傘でもしてやろう」

「……そういうことじゃないし、もしそんなことしたらさなちゃんに言いつけるからね」

「? なぜさなに……」

「はいはい、言い合いはそのくらいにして。
 あの二人ももう帰るみたいだし、私たちも濡れないうちに帰りましょう」

 パンパン、と手を叩く音が聞こえて、その主を見る。
 呆れたような表情を浮かべた闇野。

 確かに、闇野の言う通りこのままでは風邪を引いてしまうな。

「そうだな」

「で、でも……」

「そもそもあいの家は鍵沼の家の隣だろう。
 着いていけば、自然と帰宅するか見れるだろう」

「それは、まあ……」

 とはいえ、この雨の中をさなひとりで帰らせるわけにもいかないな。
 闇野はともかく。

 どのみち俺も、途中までは道は一緒なんだ。
 この際最後まで見届けるとするか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...