転生魔族は恋をする 〜世界最強の魔王、勇者に殺され現代に転生。学校のマドンナに一目惚れし猛アタックする〜

白い彗星

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転生魔王は体育祭を謳歌する

一生懸命の各自

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 過熱を極める……というと、少々大げさかもしれないが。
 ともかく、部活対抗リレーは続いている。周囲からの熱の声はさらに燃え上がる。

 俺の所属する写真部は、第三走者である俺から、第四走者であるなぐも先輩へと、バトンが渡ったところだ。
 その顔は青ざめ、今にも逃げ出しそうなほどではあったが……

 しっかりと、バトンをキャッチして……彼女は、走る。

「いやぁ、はぇえな真尾。陸上部入んない?」

「はぁ、ふぅ……」

 俺と、隣を走っていた鍵沼は、ほとんど同着。
 しかし、どうやら鍵沼の眼鏡に、俺は叶ったらしい。

「俺を勧誘するのか?」

「あぁ

 走った直後だというのに、こいつはあまり息切れもしていないのか。
 その点も、やはり体のつくりが違うと、実感させられるな。

「誘いはありがたいが、断らせてもらう。
 俺は、この場所が気に入ってるんだでな」

「写真部、か。
 で、その部長さんは……」

 会話も一区切りに、俺たちは視線を巡らせる。
 その先は、もちろんバトンを渡した第四走者の姿。

 なぐも先輩は……いた。

「……おっせぇ」

 ぼそっと、鍵沼が呟くのが聞こえた。
 確かに……練習したフォームもなってないし、次々に抜かれていくし、遅いことに違いはない。

 だが……

「諦めずに走っている」

 その姿は、無様でも……その姿は、美しいものだ。
 あれだけいやいやと駄々をこねていながら、その姿勢は真面目なものだ。

 自分が走りたくないがために新入部員を得ようとしたり、少しアレなところはあったが……
 それでも、決してあきらめようとは、していなかったし、していない。

 その姿勢が、尊敬できる一つの姿なのだ。

「はぁ、はぁ……し、静海、さん……!」

「先輩!」

 言葉こそ聞こえないが、二人が何事か言葉を交わしたのが、わかる。
 それも、短い……お互いの存在を、確認する程度の。

 ついにバトンは、第四走者なぐも先輩から、アンカーであるあいへと渡る。

「あい……!」

 駆け出したその姿は、目を惹いてしまうほどに美しい。
 とても、これより前にリレーや借り物競走で走っているとは、思えない。

 本人曰く、昼飯を食べて元気いっぱい……とのことらしいが。
 あれは、空元気ではなく、どうやら本当だったようだ。

「やっぱ速いなー、あいつ」

「……お前は、あいを勧誘しないのか?」

 腕を組み、あいの姿を見送る鍵沼。
 幼馴染というのなら、その足の速さも知っているだろう。
 鍵沼の性格なら、是が非でも陸上部に誘いそうなもんだが。

 そこで鍵沼は、ゆるく首を振る。

「前に誘ったことあるんだけどな。
 あいつは、友達と楽しく部活したいんだと」

「……」

 友達と楽しく、か。
 なるほどだからあいは、中学ではさなと女子テニス部に入っていた、と。

 とはいえ、部活ならば入部してからでも、部内で友達を作れそうなものだが。
 それも立派な、友達と楽しく、だと思うが。

 ……単に、鍵沼と一緒の部活に入りたくないための文句、だとは思いたくないな。さすがに。

「おぉ、負けるな先輩!」

「お……」

 その、走るあいはぐんぐんと人を抜いていく。陸上部、というか運動部でないのが、不思議なくらい。
 鍵沼が声を漏らすのを見るに、あいが迫っている背中は、陸上部のものか。

 走るあいのフォームは美しく、一切の乱れがない。
 会場の熱気も、ヒートアップしていく。

「あいちゃん……」

「さな」

「あ、光矢くん」

 さなの走りを見守りつつ、走り終えた生徒はそれぞれの部活に固まり、集まる。
 歩みを進めていると、さなと合流。

 両手を組み、あいを見つめているさなは、あいの勝利を願っているのだろう。
 まったく心優しい少女だ。

「あの、ごめんなさい。私、あんまり役に、立てなくて」

 しゅんと、さなは表情を暗くする。
 先ほど、自分が走っていた時のことを、言っているのだろう。
 小鳥遊が広げた差を、縮められるどころか……

 しかし、俺はそのことでさなを攻める気など、毛頭ない。

「気にするな、さな。
 さなは一生懸命やった、それが一番だ」

「でも……!」

「そうそう。結果も大事だけど、それまでの過程が大事なんだから」

「お前はさっさと自分の部活に帰れ」

 真面目なさなは、こういうことも重く受け止めてしまう。
 こちらが気にするなと言っても、だ。

 だが……

「光矢さんの言う通りですよ。
 各自一生懸命やった、それでいいんです」

「さらさちゃん」

 そこに、小鳥遊も合流。
 額を濡らす汗を拭う彼女の仕草は、とても様になっている。

 ……鍵沼がいなくなったのを確認してから、来たのだろうか。

「二人共、ありがとうございます」

「気にするな。それより、なぐも先輩は……」

「あそこで、ダウンしてますね」

 小鳥遊が指さす先に、なぐも先輩はいた。
 地面に座り込み、大きく呼吸しているのがわかる。

 ある意味で、期待を裏切らない人だ。

「あいちゃん、頑張れ!」

 さて、リレーも佳境。あいの姿は、すでに先頭を捉えていた。
 先頭にいるのは……やはり、陸上部。

 会場のボルテージも上がる。名前を、部活名を、叫ぶ人々。
 その気持ちに応えるように、走者の足は加速していく。

 そして……その時は、訪れる。


 パンッ


 ゴールした、合図が鳴り響く。
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