転生魔族は恋をする 〜世界最強の魔王、勇者に殺され現代に転生。学校のマドンナに一目惚れし猛アタックする〜

白い彗星

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転生魔王は体育祭を謳歌する

それは秘密の中身

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「……は?」

 種目名は、借り物競争。
 それに出場しているあい……彼女はなんらかのお題を手にし、迷った挙げ句にクラスのテントに戻ってきた。

 そして……

「来て、鍵沼」

 そこになんのお題が書いてあったのだろう、あいはある人物の名を口にする。
 つまり、お題に書かれていたもの、あるいは人に合致するのが、鍵沼だというわけだ。

 いきなり名指しされた鍵沼は、目を丸くしている。
 あいつも、あんな顔するんだな。

「お、俺?」

「いいから早く、負けちゃうでしょ」

「お、おぉ」

 困惑もそのままに、あいは鍵沼の手を取り、引っ張っていく。
 鍵沼も、いまいち状況が理解できていないが、種目に勝つためとあっては強く抵抗もできない。

 ……しかし、こうも大胆に鍵沼を連れていくというのは……

「……わ」

 念の為に、隣のクラスを確認する……と。
 一人、めちゃくちゃこっちを見ている……凝視している生徒がいた。

 小鳥遊だ。鍵沼に想いを寄せる小鳥遊 さらさが、めちゃくちゃこっちを凝視している。
 なんか怖いな。

 俺は、目を合わせないようにそっと、視線をそらした。
 なんだか、俺の方も睨んでいるような気がするが、気のせいだ。うん、きっと気のせいだ。

「あいちゃん、鍵沼くんを連れていきましたね。
 お題なんだったんでしょうか」

「な、なんだろうな」

 俺の感じている気まずさを察して、というわけではないだろうが、さなが口を開く。
 俺は逃げるように、そちらに意識を向ける。

「男友達とか、そんなんじゃないか?」

「でしたら、鍵沼くんには悪いですけど……光矢くんを、連れて行くと思います。
 それに、あんなに悩むのもらしくないというか」

「確かに」

 さなのやつ、意外とズバズバ言うな……

 とはいえ、俺も同意見だ。
 なにより、あんなにも悩むのはあいらしくない。
 あいなら、思い立ったらすぐに行動するタイプだからだ。

 となると……やっぱり、わからない。

「足の速い異性、ムードメーカー……ダメだな、どれもピンとこない」

「ですね」

 鍵沼に当てはまるものは結構あるが、そこにあいがあれだけ悩んでいた理由、がついてくると……
 途端に、わからなくなる。

 ……まあ、ここでいくら考えても、仕方ないか。
 後であいに聞いてみよう。

 そのあいの足取りは、大きい。

「誰かー! 誰か子犬を貸してくれる人はいませんか!」

「!」

 また、別の方向からの声。
 それは、誰であろう闇野のものだ。

 どうやら闇野のお題は"子犬"であったようだな。
 当然、生徒たちは子犬どころかペットを連れ込めるわけもないので、対象は保護者に限られる。

 ……果たして、子犬を連れてきている者はいるのだろうか。

『それぞれがお題を集めている中で、すでにゴールに向かっているチームもいます!』

 そんな中で、ゴールに向かっているのはあいたち含め、三人だ。
 人や、もの。やはりお題はいろいろだったようだな。

 そして、真っ先にゴールしたのは……白チームのクラス。
 その次にあいたちがゴールし、惜しくも一位は逃した。

 だが、本当にゴールできたかどうかは、お題と同じものを持ってきたかどうか、による。
 たとえ一位でゴールしても、お題と外れたものを持ってきては、ゴール扱いにはならない。

「だ、大丈夫でしょうか」

 ゴール扱いにならなければ、再びお題のものを探しに戻ることになる。
 そうすると大幅なタイムロスとなり、順位が下がる可能性が高まる。

 そのため、お題に沿うものを、最初のうちから真剣に悩んでいた。
 結果、あいは鍵沼を選んだわけだが……

「一位は、そのままゴール……」

「あいちゃん……」

 次は、あいがお題を確認されている。
 確認するのは、教師のようだ。ひいき目に見たりとかは、しない。

 しばらく、お題の紙と鍵沼とを交互に見つめていたが……小さくだが、確かにうなずいた。
 これで、あいは二位でゴールできたわけだ。

「あ、鍵沼くん、お題の紙を取ろうとして……」

「奪い取ったあいが、ビリビリに引きちぎってるな」

 ここからだと、会話の内容は聞こえない。
 だが、お題の内容を確認しようとした鍵沼に、それを阻止したあいという構図は、見えた。
 そのため、お題になにが書かれていたのかは、あい本人にしかわからなくなってしまったわけだ。

 ……よほど見られたくなかったのだろう。
 多少顔が赤くなっているのは、走ったからか息巻いて紙をちぎったからか。

「まあ、あんなことしても後で質問攻めにあうことは、免れないだろうがな」

「あはは……」

 むしろ、あんな必死に紙をちぎってその内容を隠したんだ。
 人というのは、秘密にされればされるほど、それを暴きたくなるものだ。

 おそらく、戻ってきたら女子たちからの質問攻撃が待っている。
 それに、わざわざ異性を連れて行ったなど、いい話題だ。
 あいはそれを、どうかわしきるのか、楽しみだな。

 さて、グラウンドでは続々と、生徒たちがゴールしていく。
 その中に、闇野の姿は……

「お……」

 あった。今ようやく、観客からペットを借りたところだ。
 そこから急いでゴールに走る。

 勇者時代の体ならともかく、今の体でどれほど走れるのか、と思っていたが……
 なかなか、速いじゃないか。リレーに出てなかったのが、不思議なくらいだ。

 だが、お題探しで時間を食ってしまったせいだろう。
 闇野がゴールしたときには、すでに他の生徒たちはみなゴールしていた。

 つまり、びりだった。
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