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転生魔王は体育祭を謳歌する
借り物はなんですか
しおりを挟む次なる種目は、借り物競争。
それに参加するのは、あい。他に知った顔は……
「……あいつもいるのか」
見つけてしまった、知った顔を。
あいと同じ順番の走者、そこにいたのは……
闇野 遊子だ。
前世は、『勇者』として人ならざるほどの力を持っていた。
だが、ここではただのいち少女に過ぎない。
それが、どんな動きを見せるのか。
じっくり観察させてもらおうではないか。
「頑張れー、あいちゃん!」
そして、借り物競争はスタートする。
これはリレーに似た種目だが、最終的にお題に記されたものを持ってゴールしなければならない。
なので、足の速さはさして重要じゃない。
それがわかっているからか、みな全力で走ってはいない……
……が、中にはいの一番にお題を取るために、全力で走っている奴もいた。
「早いうちから選んだ方がいいのか、余り物には福がある的なことを願えばいいのか」
「難しいところですね」
指定の場所には、箱が置いてある。
上部に穴が開いており、そこから箱の中に手を入れる仕組みだ。
どうやら箱の中にはお題が書かれた紙がたくさん入っており、みなそれぞれ紙を引いていく。
その紙に、借りるべきものが書いてあるわけで。
『遅れて来た生徒も、それぞれ紙を引いていきます!
しかし、みんな一様に悩んでいる模様!』
紙を引いたはいいが、そこになにが書かれているのか……
そのほとんどが、紙とにらめっこしたまま、動かない。
その中には、あいや闇野の姿もある。
彼女らも、そのお題に苦戦しているようだ。
「なにが書いてあるんだろうな」
「さあ……
あんまり難しいものは、ないと思うんですが」
それもそうだ。
あくまでもこれは体育祭、競技だ。
競技である以上、指定したものに持ってくるのが不可能なものは書いていないはずだ。
たとえば世界そのものとか、魔力とか……
いや、それは生前の世界でも持ってこれるものじゃないか。
とにかく、現実的に持ってこられないものは、書いていない。
だから悩む理由としては、お題のものがなかなか見つからないか、他に躊躇するものでもあるのか……
「こういうもんの定番って、"好きな人"とか書いてあってゴールできなかったってパターンが多いよな!」
「定番ってなんだ」
鍵沼はおかしそうに笑っている。
その定番とやらがなにかはよくわからないが、ものじゃなくてそういう概念のものでもいいのか?
まあ、それならば今、みなが動けない理由もわからんでもない。
俺ならば、すぐにさなを連れてゴールするがな。
「お、続々動き出したぞ」
「人によっては、メガネ、帽子、ペット、とか簡単なものもありますからね」
「……ペットは簡単なのか?」
ちなみにこの借り物競争。お題のものは、必ず誰かから借りなければならない。
たとえば、今さなが挙げたメガネ。これは、お題を引いた生徒がメガネをかけていた場合、自分のものを持っていけばいいのか?
答えはノーだ。
たとえ自分が身につけているものが、お題に合っていたとしても、そのお題のものは必ず誰かから借りる必要がある。
でなければ、借り物競争にはならないからな。
そんな中で……
「あいちゃん……」
「まだ、迷ってるみたいだな」
立ち止まったままの中に、あいの姿があった。
ちなみに闇野は、少し前に走り出した。
このままでは、負けてしまうが……
あいはやる以上は、勝ちたいはずだ。
となれば、そのお題の内容はそんなにも難しいものなのか?
ここから見ていても、わかるくらいに葛藤している。
しかし、しばらくしてから動きを止め、走り出した。
あいが、向かう先は……
「ん?」
「あいちゃん?」
俺たちのいる、テントだった。
急いできたからか、息が荒い。
誰かを探しているようだが……
もし友達とかなら、さながいるしすぐに来るはずだ。
それ以外で、誰を、もしくはなにを探しているのか。
そのあいの視線が、あるところで止まった……
「鍵沼、来て!」
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