65 / 114
転生魔王は体育祭を謳歌する
レッツ騎馬戦
しおりを挟むバトンを受け取った鍵沼は、それはまあ見事なものだった。
二位との差は確かに縮まっていたが、まだ差はあった。
その差を、あいつはあっという間に埋めていったのだ。
さすがは陸上部所属、そして本人曰く結構期待のエース扱いなのだそうだ。
俺はその話を半分くらい聞き流していたのだが、どうやら本当であったらしい。
二位、そして一位をも抜き去り、見事に鍵沼が一位でゴールした。
「へへーん、どんなもんよ!」
戻ってきた鍵沼は、えへんと胸を張っている。
素直にクラスメートからは喜ばれているので、あの態度もまあ大目に見よう。
もちろん、讃えられているのは鍵沼だけではない。
リレーに参加した六人、全員だ。
「あいちゃん、速かったよー、すごかった!」
「えへへ。でも、もうちょっとで負けそうになっちゃったし」
さなとあいは、そんな会話をしている。
負けそうになった、とは小鳥遊とのことだろう。
二人は一緒のチームなのだ。競う必要はないだろうが……
それでも、やはり個人的には悔しい思いも、あるのだろう。
「さらさちゃん、早かったねー」
「だねー、ひやひやしたよ」
小鳥遊のあの速さ、予想していたものよりもずっと速かった。
もし、同時に同じ場所からスタートしていたら、勝っていたのは小鳥遊の方だったかもしれないほどに。
その小鳥遊は、今は自分のクラスに戻り、闇野と話をしているようだ。
あいとは、先ほど走り終えたところでなにか話してはいたが……
ちなみに小鳥遊のクラスは、三位だ。
「よー真尾ー、見てたー? 俺のか、つ、や、く!」
「あー、見てた見てた」
「軽いな!」
言われずとも、ちゃんと見ていた。
素直に褒めるのは、なんだか癪だから言わないけども。
『続きましての種目は、騎馬戦……』
「あ、さなちゃん、光矢クン!
先輩が出るやつじゃない!?」
まとわりついてくる鍵沼をほどいていたところで、次の競技のアナウンス。
ぴょん、とこちらにやって来るあいは、さなの手を引きつつ話しかけてきた。
騎馬戦……そうか、確かなぐも先輩が出場する競技だったな。
騎馬戦、それも騎手だという。
俺たちは、なぐも先輩の実力のほどは、部活対抗リレーの練習でしか知らない。
それだけでも、運動がかなり苦手だというのがわかったが……
「どうなるやら、だな」
「なになにー、写真部の部長さんが出んの?
どの人どの人?」
俺たちの会話を聞きつけた鍵沼が、グラウンドを見渡す。
グラウンドには、三年生たちが集まっていた。
騎馬戦は、三年生のみなのだ。
その中に、目的の人物は……
「いた」
「え、どこどこ?」
「あそこだ」
あれだけの人数の中から、目的の人物だけを見つけるのは苦労する……かと思われた。
しかし、目的の人物、なぐも先輩はすぐに見つかった。
俺は、その方向に指をさす。
鍵沼も、さなも、あいも、指先に視線を移す。
「……あの人?」
「あぁ」
「あの、子鹿みたいに震えてる人?」
「あぁ」
そこに、いたのは……間違いなく、なぐも先輩だ。
ただしいつもの姿ではない。
鍵沼が言ったように、足が子鹿のようにガクガクと震えている。
容姿がいいだけに、余計に情けなさが目立つ。
「どうして、そんなすぐ見つけられるのかと思ったんですけど……」
「あれは確かに、わかりやすいね」
さなもあいも、納得の表情を浮かべている。
いくら運動が嫌いと言っても、あそこまで態度で示す人はなかなかいないだろう。
……大丈夫だろうか。
「チームは同じだけど……」
「個人的にも応援したいね」
「だな」
運動が嫌いなりに、今日まで頑張ってきたはずだ。
だから、せめてそれが報われる結果になってほしいが。
そうこうしているうちに、だんだんと騎馬の準備が進んでいく。
あぁ、遠目でもわかる。ものすごい顔色が悪い。
それでもクラスメートは淡々としたものだ。
もしかしたら慣れているのかもしれない。
不安しか残さない状況で、騎馬戦がスタートした。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる