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転生魔王は体育祭を謳歌する
次なる対決
しおりを挟む「よー、お疲れ」
「あぁ」
二人三脚の競技を終えた俺たちは、自分のクラスのテントに戻る。
それを真っ先に向かえたのは、鍵沼だ。それに……
「さなちゃーん、お疲れ様ー!」
「わっ、あ、あいちゃん」
戻ってきたさなに、あいが駆け寄り抱き着く。
その直後に、クラスの女子たちも寄ってくる。
俺も、クラスの男子たちに囲まれ、一緒に出場した男子たち含めて賞賛される。
あまり、こういう機会などないが……うん、悪くはないな。
「俺も、負けてらんないなー」
「そういえば、そろそろリレーだっけか」
「頼むぜ鍵沼ー」
「任せとけ!」
プログラムを確認すると、そろそろ鍵沼の出場するリレーが近づいてきていた。
クラスからの期待も、高い。
当然ながら、二人三脚とリレーでは同じく走るのでも、純然な違いがある。
鍵沼含め、出場するのは足の速さに自信のある連中だ。
しかし、それは当然、他のクラスも同じこと。
「男女三人、交互で走る……だったか」
「そうそう。ちなみに俺はアンカー!
お揃いだな!」
「……そうだな」
リレーに出場するのは、男女三人ずつ、つまり計六人だ。
第一走者は女子、そこから男女と交互に走っていき、アンカーが男子になる形だ。
「お?」
ふと、隣が騒がしいので視線を動かす。
そこでは、見知った顔が動き出しているところだった。
そうか、あいつもリレーに参加するのか……
「ま、同じチームだから、心強い、か」
「どしたん、真尾」
「いや……まあ、頑張れよ」
「! おぉ……真尾が、俺に頑張れと?
なに、どしたの。明日死ぬの?」
「殴るぞ」
リレーに出場する選手の、準備が始まる。
さっさと行け、と、俺は鍵沼の背中を押す。
「わっ、とと……
もー、照れなくていいのに」
「照れてない。さっさと行け」
「へーい」
テントの外へと歩き出して行く鍵沼。その中に、また別の、見知った姿もあった。
へー、あいもリレーに出場するのか。
まあ、あいもかなり速いから、不思議はないかな。
にしても、あいつらは仲が良いんだか悪いんだか……
今だって、移動中になにやら言い合いをしている。
「ふふ、あの二人、仲がいいですよね」
「さな」
ふと、隣にさなが座る。
さなの方から、俺の隣に座ってくれるとは。
それにしても、さなの目から見たら、あの二人は仲が良いのか。
「そう、見えるか?」
「少なくとも、あいちゃんのああいう顔は、初めて見ます」
自分の知らない顔……か。
それを見せたからと言って、仲が良いことの証拠にはならないと、思うが……
それとも、同性の友達だからこそ、わかることがあるのだろうか。
「仲が良いのは、いいことだが……」
「? どうしました?」
「いや、なんでもない」
あの二人は、腐れ縁と言うが……本気で、嫌い合っているわけではなさそうだ。
それ自体は、俺も感じ取っている。
だが……
その二人を見つめる、少女が一人いる。
それは、同じくリレーに参加すべく、移動を始めた、隣のクラスの少女……
「小鳥遊……」
俺は小さく、その名を呟いた。
小鳥遊 さらさ……鍵沼に想いを寄せる、少女だ。
彼女は、鍵沼に恋をしている。だから、鍵沼と仲良さげに話しているあいのことが、気になるわけだ。
しかし、あいは小鳥遊が鍵沼に想いを寄せていることなんて知らない。
ただ、同じ部活の仲間として、認識しているはずだ。
「なあ、あの子かわいくね?」
「隣のクラスかな。あんな子いたか?」
そんな中で、クラスの男子たちがざわめく。
その視線の先にいるのは……話題の的となっているのは、他ならぬ小鳥遊だ。
どうらら、小鳥遊のことをかわいい、と言っているらしいが……
「はぁ、ったく男子って……」
「でも、確かにかわいいかもあの子」
男子たちのざわめきを聞いて、女子たちが呆れた声を漏らす。
しかし、その言葉の内容に、異を唱える者はいない。
小鳥遊 さらさと言えば、俺たちとは別のクラス。
入学したばかりで普段の交流はともかくとして、ここ最近は体育で一緒になることも多い。
だから、あんなかわいい子がいたら見ないわけがない、というのが、皆の意見らしいが……
「もしかして、今まで体育の授業休んでたとか?」
「えー、それならリレーなんかに出るか?」
「……あぁ、そうか」
なぜみんな小鳥遊のことがわからないのか……
それが謎だったが、その謎がようやく解けた。
いつもの小鳥遊は、おさげに眼鏡という、本人曰く地味なスタイルを取っているのだ。
だが、今回の小鳥遊は……髪を下ろし、眼鏡も外した状態だ。
今までも体育の授業はあったが、いつものスタイルのままだった。
それが、なぜ今日に限って……
それは、俺にもわからない。
「小鳥遊、今までいつもああなら人気も出るだろうに」
「え? さらさちゃん? どこに……
……あ、いた!」
ここで、ようやくさなが、小鳥遊に気付いたらしい。
同じ部活でいつも顔を合わせている仲でさえ、気がつくのには時間が掛かる。
交流のないクラスの連中には、無理な話だ。
「……あの子がさらさちゃんだって、よくわかりましたね?」
「え? いや、わかるものじゃないのか?」
「ぅ……そんな純粋な目で……
気づけなかった私が悪いみたいじゃないですか」
「いや、そうは言ってないが」
さなは、むくれてそっぽを向いてしまう。
なんなんだ、いったい。
そうしているうちに、リレーの出場生徒が、準備の配置につく。
鍵沼、あい、そして……小鳥遊。
「……へぇ」
事前に聞いていた、鍵沼はアンカー。
そして、あいの配置場所は……第五走者。鍵沼のひとつ前か。
残る、小鳥遊は……あいと同じ、第五走者のようだ。
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