転生魔族は恋をする 〜世界最強の魔王、勇者に殺され現代に転生。学校のマドンナに一目惚れし猛アタックする〜

白い彗星

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転生魔王は体育祭を謳歌する

二人でタイミングを合わせて

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 二人三脚が始まり、第一走者のペアが一斉に走り出す。
 俺たちのクラス以外も練習を重ねてきたのだろう、それなりに息の合った動きを見せている。

 それでも、やはり二人が密着して走る、というのはそれなりに体力や、なにより精神力を使う。
 少しでもタイミングがズレれば、文字通りパートナーの足を引っ張り、転倒してしまう。

 自分の身にも起こったことだから、よくわかる。
 膝にあるいくつもの擦り傷は、今となってはいい思い出でもあるが。

「き、来ましたよ!」

「あぁ」

 第一走者から第二走者へ……
 そして、そのバトンを第三走者、アンカーである俺たちに渡すべく、懸命に走っている。

 今日のために練習してきた。それは、俺とさなだけではない。
 一年生は時間がない……が、時間がないなりに一生懸命やってきたのだ。

 俺も、ここまで物事に本気で打ち込んだのは、初めてだ。
 それは、なぜか……やはり、さながいるからだろうか。

「すまん、頼んだ!」

「あぁ」

 彼女に、かっこいいところを見せたい……その気持ちが、俺の中に確かにある。
 バカバカしいと思うかもしれないが、それだけの気持ちで、俺はこれまでになく張り切ることができていた。

 バトンを受け取り、俺とさなは目配せする。
 一瞬のアイコンタクト、しかし互いに言うべきことがわかったかのように、小さくうなずく。

 軽く、深呼吸……
 そして……

「せーの……!」

 さなの声に合わせて、お互いが左右別々の足を前に出す。
 俺は左足、さなは右足……布によって結ばれた二人の足は、タイミングを合わせ、地面を踏みしめていた。

「いち、に、いち、に……!」

 声に合わせ、リズムに合わせ、俺とさなは前進する。
 体格も違い、俺はさなの肩を、さなは俺の腰を掴んでいるほどに、背の差もある。

 だが、それをものともしない形で、俺たちは走り出した。

「いち、に、いち、に……!」

 俺とさなが考えた、二人三脚を成功させるための方法。
 それは、さなに声を出してもらって、そのリズムに乗せて走るというものだ。

 なぜさななのか……それは、さなの声を聞いた俺がやる気を出す……
 ……というのは半分冗談で。
 さなのペースに、合わせるためだ。

 さなは、練習の成果が出たとはいえ、まだ足が速いとは言えない。
 だから、さなが俺に合わせるのではなく、俺がさなに合わせるのだ。

「いち、に、いち、に……!」

 幸い、俺ならばさなに合わせることなど造作もない。
 さなの声を出すタイミング、歩幅の大きさ、足の速さ……それらを加味し、合わせる。それだけのこと。

「お、おいあのペア、速いぞ!」

「あっという間に二位まで追い上げたぞ!」

 バトンを受け取った段階では最下位に近かったが、タイミングを合わせて走っていった結果、先頭とかなり距離が縮まっていた。

 この調子であれば……!

「いち、に、いち、に……!」

 しかし、問題はある。さなの体力だ。
 いくら練習を重ねたとはいえ、そんな簡単に体力がつくはすない。
 まして、練習と本番では感じるプレッシャーも違う。

 そのプレッシャーの波に、さなは呑まれかけている。
 だから俺は、そんな心配はないと、安心させるようにさなの肩を強く抱く。

「! い、いち、に、いちっ……に……!」

 瞬間、一瞬さなの体が強張り、リズムが崩れる。
 が、持ち直したようだ。

 さなが、ちらりと俺を見上げてくる。
 その目からは、もっとペースを上げる、という意志を感じられた。

 さなが、そのつもりなら……
 俺は、小さくうなずく。

「いちにっ、いちにっ!」

「おぉ、あのペア、ペースが上がってるぞ!」

「これはひょっとするんじゃないか!?」

「いや、逃げ切れー!」

 俺たちを応援する者、現在一位を応援する者、後続のペアを応援する者……
 それは、様々だ。

 アンカーという大役を任された以上、無様な結果を残すわけにはいかない。
 さなには、悔いのないようにやればいいとはいったが……

 やはりやるからには、負けてはいられない。

「さな、しっかり掴まってろよ」

「いち、に……え……は、はいっ」

 俺は、さなの肩を強く抱く。もちろん、本人が痛くない程度に、ではあるが。
 決してやましい気持ちではない。それを察してか、さなも驚きこそすれそれ以上の反応はなかった。

 俺はさなのペースに合わせる。それがこれまでのやり方。
 俺が自分勝手に足早になったところで、せっかく合った足並みが崩れるだけだ。

 だから……

「いちにっ、いちにっ」

 今度は俺が、掛け声をする。さなのものより、若干早いリズム。
 それに合わせて、さなもペースを上げる。

 走り始めたばかりで、さなに俺のペースに合わせてもらうのは難しい。
 ならば、終盤になら……と、練習を重ねた。

 アンカーは、第一、第二走者が走るのよりも、距離が長い。
 だから、初めから飛ばすことはできないし……逆に、終盤であれば、さなでも俺のペースに合わせることが可能だ。

 シンプルだが、有効な手だ。

「おぉ、さらにペースが上がったぞ!」

 周囲のどよめきをBGMに、俺とさなは走る。
 もう、どれほどと練習した。ノリさえすれば、もはやお互いに気を遣うことなく、自然と合わせることができる。

 感じるのは、さなの体温、息遣い、それだけ……
 それだけを感じ、他にはなにもいらない。
 ただ、目の前の一点を目指すのみ。

『赤組速い! あっという間に先頭に躍り出て、他の追走も許さず……
 今、ゴール!』

 互いの呼吸を合わせ、ゴールへとたどり着く……
 俺たちは、見事に一位で、ゴールした。
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