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転生魔王は友達を作る

かつてない重大案件

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 俺もベンチに、座る。といっても、闇野たちと同じベンチではない。
 その隣にある、ベンチにだ。

 三人は座れるベンチであるが、こっちに座るなと言わんばかりに睨まれたので、仕方がない。

「で……だ。
 その子……えーと……」

「あ、すみません、自己紹介がまだでした。
 私、小鳥遊たかなし さらさと申します」

「さらさ、か」

「ちょっと、私の友達を気安く名前で呼ばないでよ」

「へいへい」

 やたらと厳しい視線を向けてくるな、闇野のやつ。
 それだけ、その友達が大事なのだろう。

 それにしても、こんなおとなしそうな子がねぇ。

「ゆ、遊子ちゃんっ、さっきから光矢さんに当たり強くない?」

「そう? こんなもんよあいつは」

 こんなもん、ね。
 闇野からすれば、これでもわりと話しているほうなんだろうな。

 俺は、別に気にしていないとはいえ……
 小鳥遊は、いつ俺を怒らせてしまわないかと、はらはらしているようだ。

「ところで、さっさと本題に入ろう……その前に、小鳥遊は俺のことを知ってるんだな?」

「あ、はい。と言っても、遊子ちゃんからお名前を伺った程度ですが」

「ふぅん」

「な、なによ……
 言っておくけど、話をスムーズに進めるために仕方なく、だからね」

 スムーズね……
 ま、確かに自己紹介の手間は省けたわけだが。

 それに、今回の本題は俺のことではないのだ。

「で、小鳥遊は鍵沼のことが好きだと?」

「すっ……い、いえそんな!
 まだ、気になるくらいといいますか……!」

 なーんだろうな、このデジャヴ感……
 誰かに似ているような……

 ……そうだ、出会った頃の、さなに似ているのか。

「気になる、ね」

 それを好きというのではないか、というツッコミは、ひとまず置いておくとしよう。

「そ、それで、その……光矢さんに、か、鍵沼さんのことを、教えてもらえたらと……」

「あんた、彼と仲良いんでしょ。なんでもいいから彼についての情報を教えなさい」

 偉そうに、腕と足を組み俺を睨み付ける闇野。
 尋問官かよ。

 ま、ここまで来たんだ。それに……
 どうにも、この小鳥遊 さらさという少女は放っておけない感じがする。

「まあ、中学は一緒だったから、それなりに知っているとは思うが……
 まず、あいつのどこがいいんだ?」

「それは、私が話したじゃない」

「本人の口から聞きたいんだ」

 走っている姿がかっこよかった、とは闇野から聞いたが……
 本人の口から、鍵沼のどこを気に入ったのか聞いてみたいものだ。

 すると小鳥遊は、肩を跳ねさせ、顔を真っ赤にしてうつむく。
 やっぱり、さなと似ているな。

「そ、その……小学生みたいな理由だって、思うかもしれないんですが……」

「構わん、人を好きになる理由にどうこういうものではないだろう。」
 俺だって、さなを好きになったのは一目惚れだし」

「おっ、ほほ……」

 俺の口から、恥ずかしげもなく今の言葉が出たのが意外だったのか、というか虚を突かれたのか、闇野は変な声を出して肩を震わせていた。

「ひ、一目惚れ、ですか……
 私も、それに近いのかな?」

「走っている姿にビビっと来た?」

「えぇ、そうなんですけど、そうでもなくて……」

 当時のことを思い出しているのか、小鳥遊は自らのおさげに指を絡ませ、くるくるやっている。
 髪の毛で遊ぶああいう仕草、さなもたまにやるな……
 良いよな。

「実は、以前にも授業が一緒になったときに、彼から話しかけられて……」

「ほぅ?」

 あいつから、話しかけた……か。
 まさか、かわいいから話しかけたとかいう理由じゃ、ないだろうな。

「私も、彼と同じでその、リレーに出るんですけど……
 その時に、転んじゃって。
 そこに、心配してくれた鍵沼さんが、大丈夫かって声をかけてくれて」

 どうやら、健全な理由で声をかけたらしい。
 疑ってしまって、ちょっと反省。

 というか、好きになったのつい最近っぽいな。俺が人のことは言えないが。

「なるほど。つまり、その時に鍵沼のことが気になった、と」

「は、はい……
 それから、彼の姿を目で追うようになって……」

「ほほぅ」

 話していて恥ずかしくなってきたのか、小鳥遊は顔を両手で覆ってしまう。
 闇野は隣で、愛しげに小鳥遊を見つめている。
 当然ながら、この話を聞いたのは初めてではないのだろうな。

 気になった人を、目で追ってしまう……俺にも、覚えがあるからわかる。
 それは、すなわち恋に間違いない。

 なるほど、ここで俺が選ばれた理由が分かった気がする。
 鍵沼の馴染みである以上に、恋愛経験のなさそうな闇野と違って絶賛恋愛中の俺に、白羽の矢が立ったわけだ。

「ねえ、なんだか失礼なこと考えてない?」

「考えてないない」

 さて、そうとなれば……期待には、応えねばなるまいて。
 もちろん、他人の恋愛ごとに首を突っ込むなんて、初めての経験だ。
 自分の恋愛さえ、ままならないというのに。

 だが、不承不承この『魔王』を務めた俺が、期待から逃げるわけにはいくまい。

「安心しろ小鳥遊、俺が必ずお前と鍵沼をくっつけてやる!」

「え? いや、まだそこまでは……」

「大船に乗ったつもりで、いるがいい!
 はっはっは!」

 これは、高校生活……いや、人生二番目とも言える、重大案件だ!
 一番はもちろんさなのこと。

 鍵沼に彼女を作る、という結果になるのが癪だが……まあ、そこには目を瞑ろう。
 この重大案件、必ずや成功させて見せる!

「だ、大丈夫……なの?」

「まあ……なんとかなるわよ、多分。
 あのバカが暴走したら、私が止めるから」

「あっはっはっはっは!」
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