53 / 114
転生魔王は友達を作る
かつてない重大案件
しおりを挟む俺もベンチに、座る。といっても、闇野たちと同じベンチではない。
その隣にある、ベンチにだ。
三人は座れるベンチであるが、こっちに座るなと言わんばかりに睨まれたので、仕方がない。
「で……だ。
その子……えーと……」
「あ、すみません、自己紹介がまだでした。
私、小鳥遊 さらさと申します」
「さらさ、か」
「ちょっと、私の友達を気安く名前で呼ばないでよ」
「へいへい」
やたらと厳しい視線を向けてくるな、闇野のやつ。
それだけ、その友達が大事なのだろう。
それにしても、こんなおとなしそうな子がねぇ。
「ゆ、遊子ちゃんっ、さっきから光矢さんに当たり強くない?」
「そう? こんなもんよあいつは」
こんなもん、ね。
闇野からすれば、これでもわりと話しているほうなんだろうな。
俺は、別に気にしていないとはいえ……
小鳥遊は、いつ俺を怒らせてしまわないかと、はらはらしているようだ。
「ところで、さっさと本題に入ろう……その前に、小鳥遊は俺のことを知ってるんだな?」
「あ、はい。と言っても、遊子ちゃんからお名前を伺った程度ですが」
「ふぅん」
「な、なによ……
言っておくけど、話をスムーズに進めるために仕方なく、だからね」
スムーズね……
ま、確かに自己紹介の手間は省けたわけだが。
それに、今回の本題は俺のことではないのだ。
「で、小鳥遊は鍵沼のことが好きだと?」
「すっ……い、いえそんな!
まだ、気になるくらいといいますか……!」
なーんだろうな、このデジャヴ感……
誰かに似ているような……
……そうだ、出会った頃の、さなに似ているのか。
「気になる、ね」
それを好きというのではないか、というツッコミは、ひとまず置いておくとしよう。
「そ、それで、その……光矢さんに、か、鍵沼さんのことを、教えてもらえたらと……」
「あんた、彼と仲良いんでしょ。なんでもいいから彼についての情報を教えなさい」
偉そうに、腕と足を組み俺を睨み付ける闇野。
尋問官かよ。
ま、ここまで来たんだ。それに……
どうにも、この小鳥遊 さらさという少女は放っておけない感じがする。
「まあ、中学は一緒だったから、それなりに知っているとは思うが……
まず、あいつのどこがいいんだ?」
「それは、私が話したじゃない」
「本人の口から聞きたいんだ」
走っている姿がかっこよかった、とは闇野から聞いたが……
本人の口から、鍵沼のどこを気に入ったのか聞いてみたいものだ。
すると小鳥遊は、肩を跳ねさせ、顔を真っ赤にしてうつむく。
やっぱり、さなと似ているな。
「そ、その……小学生みたいな理由だって、思うかもしれないんですが……」
「構わん、人を好きになる理由にどうこういうものではないだろう。」
俺だって、さなを好きになったのは一目惚れだし」
「おっ、ほほ……」
俺の口から、恥ずかしげもなく今の言葉が出たのが意外だったのか、というか虚を突かれたのか、闇野は変な声を出して肩を震わせていた。
「ひ、一目惚れ、ですか……
私も、それに近いのかな?」
「走っている姿にビビっと来た?」
「えぇ、そうなんですけど、そうでもなくて……」
当時のことを思い出しているのか、小鳥遊は自らのおさげに指を絡ませ、くるくるやっている。
髪の毛で遊ぶああいう仕草、さなもたまにやるな……
良いよな。
「実は、以前にも授業が一緒になったときに、彼から話しかけられて……」
「ほぅ?」
あいつから、話しかけた……か。
まさか、かわいいから話しかけたとかいう理由じゃ、ないだろうな。
「私も、彼と同じでその、リレーに出るんですけど……
その時に、転んじゃって。
そこに、心配してくれた鍵沼さんが、大丈夫かって声をかけてくれて」
どうやら、健全な理由で声をかけたらしい。
疑ってしまって、ちょっと反省。
というか、好きになったのつい最近っぽいな。俺が人のことは言えないが。
「なるほど。つまり、その時に鍵沼のことが気になった、と」
「は、はい……
それから、彼の姿を目で追うようになって……」
「ほほぅ」
話していて恥ずかしくなってきたのか、小鳥遊は顔を両手で覆ってしまう。
闇野は隣で、愛しげに小鳥遊を見つめている。
当然ながら、この話を聞いたのは初めてではないのだろうな。
気になった人を、目で追ってしまう……俺にも、覚えがあるからわかる。
それは、すなわち恋に間違いない。
なるほど、ここで俺が選ばれた理由が分かった気がする。
鍵沼の馴染みである以上に、恋愛経験のなさそうな闇野と違って絶賛恋愛中の俺に、白羽の矢が立ったわけだ。
「ねえ、なんだか失礼なこと考えてない?」
「考えてないない」
さて、そうとなれば……期待には、応えねばなるまいて。
もちろん、他人の恋愛ごとに首を突っ込むなんて、初めての経験だ。
自分の恋愛さえ、ままならないというのに。
だが、不承不承この『魔王』を務めた俺が、期待から逃げるわけにはいくまい。
「安心しろ小鳥遊、俺が必ずお前と鍵沼をくっつけてやる!」
「え? いや、まだそこまでは……」
「大船に乗ったつもりで、いるがいい!
はっはっは!」
これは、高校生活……いや、人生二番目とも言える、重大案件だ!
一番はもちろんさなのこと。
鍵沼に彼女を作る、という結果になるのが癪だが……まあ、そこには目を瞑ろう。
この重大案件、必ずや成功させて見せる!
「だ、大丈夫……なの?」
「まあ……なんとかなるわよ、多分。
あのバカが暴走したら、私が止めるから」
「あっはっはっはっは!」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした
高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!?
これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。
日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる