上 下
48 / 114
転生魔王は友達を作る

特訓開始

しおりを挟む


「はい、あと少しですよ!」

「はぁ、はぁっ……も、もう許して……!」

 どこからか持ってきたハチマキをあいは額に結び、なぐも先輩を走らせている。
 ちなみにハチマキには『オニ』と書かれている。
 オニコーチ、ということらしい。

 特訓とは言うが、今のところはなぐも先輩を長距離走らせている。
 グラウンドの外周を走らせたわけだが、なぐも先輩はすでに満身創痍だ。

 俺とさなは、とりあえず成り行きを見守っていた。

「大丈夫、なんでしょうか?」

「大丈夫だと、信じたいがな」

 この中で、一番運動ができるのはあいだ。
 なので、あいに任せることにしたわけだが。

 部活対抗リレーに勝つためとして、まずは個々の実力アップが望まれる。
 その中でも、なぐも先輩は致命的だということだ。

 このままではだめだと、あいは動いた。

「あいとさなは、中学の時女子テニス部だったと言うしな。
 どうやれば体力がつくか、よくわかってるんじゃないか」

「私は全然ですよ。
 あいちゃんに任せておいて……私たちは、私たちでやれることをやりましょう」

 さなは、やれることをやろうと話す。
 それもそうだな……なぐも先輩が遅くても、俺たちが頑張ればそれだけ挽回できる可能性はある。

 体育祭までに部員が増えなければ、誰かに助っ人を頼むことになるか……
 いずれにしろ、それに頼ってばかりもいられないか。

「とはいえ、リレーなんだから結局は走ることしかやれることはないんだがな」

「あはは、そうですね……
 あ、バトン練習でもします?」

「そうしよう」

 リレーにおいては、バトンパスがうまくいくかどうかで、その後の勝敗が左右される。
 うまくバトンを繋ぐことができれば、それだけロスタイムは減るのだ。

 より正確に、確実にバトンを渡し、それを受け取る。
 これが、チーム戦であるリレーの肝と言っても、いいだろう。

 そういうわけで、俺とさなはバトンの練習をすることにした。

「よっ」

「はい!」

「ほっ」

「はい!」

 何度かバトンパスを繰り返す。
 わりと、難しいな……落としはしないものの、スムーズにいっているわけでもないし。

 しかし、何回と繰り返すことで、タイミングも合ってくる。

「あ、でも……まだ、走る順番を決めてないのに、いいんでしょうか」

 ふと、さなが言う。
 確かに、走る順番を決めていない現状では……俺とさなのバトンパスがうまくなったところで、意味があるかはわからない。

 渡す側と受け取る側のタイミングの問題だから、相手が違えばこの練習も意味がなくなってしまう。

「俺の考えでは、アンカーはあいの方がいい。
 もう一人がどこに位置するかはわからないが、あい以外の四人で考えるなら、俺とさなを連続にするのはありだと思う」

 第一走者は、それなりに速い人がいい。そして、五人であることを考えれば……
 速い→遅い→速い→遅い→速いでバランスを取ったほうがいいのではないか。

 そう考えれば、残る一人を第一走者とし、さなを第二走者。次に俺、なぐも先輩と続き、アンカーがあい。
 あくまで俺の考えだが、おそらくこうなるだろう。

「第四走者をなぐも先輩にするとして、それまでにどれだけ余裕をもたせられるか」

「そ、そうですね。頑張らないと」

 第三走者がはしり切るまでに、余裕を持っておく……そして、なぐも先輩にバトンを渡す。
 アンカーには、この中で一番速いあいを推す。

 ま、助っ人が誰かにもよるがな。

「私も、先輩ほどじゃないけど速くはないから、特訓しないとですね」

 おそらく無自覚だろうが、なぐも先輩が自分よりも遅いことを認めるさな。
 いくら運動が苦手な自分でも、あそこまでではない、と思ってのことだろう。

「先輩、お疲れ様です!
 いやぁ、やればできるじゃないですか!」

「はぁ、ひぃ……!」

 向こうでは、外周を走り終えたなぐも先輩が倒れる勢いで座り込み、あいが駆け寄っていた。
 ……本当にあの人、大丈夫だろうか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~

きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。 しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。 地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。 晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...