転生魔族は恋をする 〜世界最強の魔王、勇者に殺され現代に転生。学校のマドンナに一目惚れし猛アタックする〜

白い彗星

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転生魔王は友達を作る

運動嫌いな先輩

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「へぇえー、それは大変だったねぇ」

 体育祭の練習、そこであった出来事を聞き、目の前の先輩はカメラを拭きながら、口を開いた。
 現在放課後、場所は写真部。
 目の前に座っているのは、写真部部長である安達 なぐも先輩だ。

「えぇ。俺の不徳の致すところです」

「こ、光矢くんのせいじゃないですよ!」

 まさか、二人三脚というものがあんなにも難しいものだったとは。
 魔王であった頃は、誰かと歩幅を合わせる、なんてことはしたことがなかったからな。

 誰かと呼吸を合わせ、共に苦難を乗り越える。
 それが、こんなにも難儀なものであったとは。

「そんな難しく考えることもないと思うけどねー。
 キミ達は一年なんだし、楽しくやればいいんだよ」

 ケラケラと、なぐも先輩は笑う。

「それとも、楽しくなかった?」

「すごく楽しかった。
 さなとの距離も物理的に縮まって、最高の時間だった」

「はぅ……」

「おぉう、なんだかこっちが照れるね」

 なぐも先輩は、拭き終えたカメラを机に置く。
 曰く、定期的にメンテを怠らないことが大事、なんだそうだ。

「ところで、静海ちゃんは?」

「あいちゃんは、用事があって少し遅れるそうです」

「ふぅん、そっかぁ」

 この場にいるのは、なぐも先輩を除けば俺とさなだけだ。
 あいは、遅れるとのこと。
 まあ、結局あい含めて四人しかいないわけなんだが……

「先輩は、体育祭ではどの競技に出るんですか?」

 先ほど、俺たちは今日、二人三脚の練習をしたことを話した。
 その結果が、冒頭のやり取りに繋がってくるわけだ。

 あいが遅れているということで、体育祭の話になったのだ。
 というより、今日あった出来事を話し合うのが、最近のスタイルになっている。

「私は、ねぇ……」

 なぐも先輩はどの競技に出るのか……しかし、それを聞いた瞬間。
 わかりやすく、なぐも先輩はうなだれた。

「はぁ……体育祭なんて、なくなればいいのに」

「先輩!?」

 どうやら、なぐも先輩は体育祭に対して、いい思いを抱いていないらしい。
 なんというか、見ているだけで悲壮感が、漂ってくる。

「どうかしたんですか?」

「運動、きらい」

 答えるのは、ただそれだけ。
 短く、しかしシンプルなものだ、

 鍵沼のように、体育祭を楽しみにしている奴もいれば、こうして体育祭を呪うんじゃないかというくらいに落ち込む人もいる……ということか。

「わ、私も運動は苦手ですよ。
 でも、楽しみじゃ、ないですか?」

「苦手なんじゃない! 嫌いなんだ!」

 それは、魂からの叫びだった。

「できる限り運動したくないから、こうしてあんまり運動が必要ない部活に入ったのに!
 なんで部活対抗リレーとかあるんだよ! 意味わかんないよ!」

「……」

 初めて見る先輩の姿。
 あまり感情的な姿を見たことがなかったとはいえ、こういう姿はあまり見たくはなかったな。

 さなは、おろおろしている。

「で、でも、写真部だってそれなりに体を動かすのでは?」

 俺たちはまだだが、カメラに慣れた頃には外に行って写真を撮るらしい。
 それこそ、校外にまで足を伸ばして、だ。

 なので、文科系の部活だと思っていたが、思っていた以上に体も動かすらしいのだ。

「体を動かすのと、運動は違うんだよ!」

 今にも泣きそうな勢いで、なぐも先輩は言う。

「す、すみません……」

 もはやなにを言っても無駄だと悟ったのか、さなはただ謝った。
 ちょっと面倒な人だな、この人。
 知ってたけど。

「はぁ……ごめんね、取り乱したよ」

「いえ……」

「私の出る競技だったっけ。
 ……騎馬戦。しかも騎手」

「……」

「……」

 遠い目をして、なぐも先輩は言う。
 騎馬戦か……予想の斜め上を、言ってきたな。

 騎馬戦とは確か、四人が一組になり、三人が馬、残り一人が騎手になり競い合う競技だったか。
 確か、なかなかにハードな競技の記憶がある。

 それの、しかも騎手……
 額に巻いた鉢巻を、取られないように避けたり、逆に相手の鉢巻を取るために激しく動かなければならない。

 少なくとも、運動が嫌いだと豪語する人間とは一番相性の悪い競技だと思うのだが。

「運動が嫌いなのに、なぜ騎馬戦に……」

「私にも、わからないんだ。体育祭の競技を決める時間が苦痛で、寝てたら……いつの間にか、こうなってたんだ」

「そこは、起きてましょうよ」

 むしろ、この競技だけは断固反対だと訴えるために、起きておくべきだと思うが。
 クラスメートもクラスメートで、誰も止めなかったのか。
 単に運動が嫌いであることを、周知されていなかったのか。

 身から出た錆、というやつだな。
 まあ、俺も人のことは言えないのだが。

「あー、やだやだ! もうこの話おしまい!」

「お、おう」

 最初に話を切り出してきたのは、そっちだろうに……まあ、いいが。
 それから俺たちは、あいが来るまでの間カメラの掃除に移った。

 カメラの台数は十に迫る。一つ一つ、丁寧に拭いていくのだ。
 それに、バッテリーも充電しておかなければいけない。

「こんにちはー!」

 それからしばらくして、あいがやって来る。
 妙に上機嫌だ。あいは、意外と写真部がお気に入りらしい。

 そして今日も、写真部の活動が、開始されていくのである。
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