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転生魔王は友達を作る
二人三脚の練習
しおりを挟む俺が体育祭で出る種目は、二人三脚。
それはいい。男女ペアらしいが、まあそれはいい。
問題があるとすれば……
「なぜさなと……」
普段であれば、問題どころかむしろ大歓迎だ。
それが、今は少し気まずい。
なんせ、あんなことがあったあとだ。
公開告白をしたときとは違い、好きだと語っているところを、しかも魂に誓っていたところを本人に聞かれていたと知っては、さすがに俺も気恥ずかしい。
そんな事情を、他の連中は知るはずもなく。
「くじ引きの結果だから、文句は受け付けないぞ~」
とのことだ。
三分の一の確率を引き当てるなんて、俺とさなはまさに運命で結ばれている……
平常時なら、こう思っていたことだろう。
「え、えっと……れ、練習、しましょう!」
「そ、そうだな」
いかんな、さなに気を遣わせてしまった。
気まずいのは、むしろあんな話を聞かされてしまったさなだというのに。
二人三脚……それは、二名の足首を結び、隣り合って走るというもの。
足首を結んでいるので離れられず、またリズムを崩せば転倒してしまうというものだ。
さらに、男女ペアであれば背の差も問題になってくる。
様々な要素を、考えなければならない。
「見事に、みな同じような背丈だな」
俺と、他の男子二人。
そしてさなと、他の女子二人。
面白いくらいに、背丈は同じだ。
だから、体格が近い者同士でペアになるのいうのは無理。
ならば、いっそくじ引きでペアを決めてしまおう、という運びになったわけだ。
結果として、俺とさながペアになった。
タイミングが違えば、もっと晴れやかな気持ちで挑めたのだろうが……
「じゃあ、結びますね」
「あぁ、頼む」
俺の左足とさなの右足を、結んでいく。
しかし……足首を結ぶということは、それだけ距離もかなり近くなるわけで。
触れ合う肌の体温が、妙に生々しい。
「こ、こんな感じ、ですかね」
「だな」
足首を結び終え、さなは立ち上がる。
否応なしに、お互いの肩や腕、足が触れ合う。
嫌なことなど、まったくないが……
女子校育ちのさなにしたら、かなり難易度の高い競技じゃないだろうか。
なんで、さなは二人三脚を選んだのだろうか。
「じゃあ……まずは、タイミングを合わせて、走ってみるか」
「ですね」
二人三脚でいい成績を収めるため、互いの息を合わせることが大事だ。
そのために……俺は、さなの肩へと手を回し、そっと置いた。
「!」
肩が少し跳ね上がるが、さなは抵抗しない。
これが必要なことだと、わかっているから。
ただ……なんだ、この華奢な肩は!?
柔らかいし、それに……なんだか、イケないようなことをしている気持ちに、なる。
そして次はさなが、俺の腰へと手を回して……しっかりと、触れた。
「っ!」
瞬間、俺の体に、まるで電気が走ったかのように衝撃が走る。
なんだ、これは……ただ、触れられただけだというのに。この、感覚は?
さなに触れられたからだろうか。
今までに感じたことのない、感覚だ。
「は、走ろうか」
「で、ですね」
くそ、落ち着け俺。柄にもなく緊張してどうする。
ただ、お互いに触れ合っているだけだ……落ち着け、落ち着いて状況を見ろ。
二人三脚のために、必要な事柄であるだけのこと。
妙に意識せずに、事を成せばなにも問題はない。
「では行くぞ。三、二、一だ」
「は、はい」
「ふぅ……よし、三、二……」
「あ……え、えっと、どっちの足から……」
「一……おわっ!」
「出せば……きゃっ」
タイミングに合わせ、足を出すつもりだったのが……タイミングが合わず、その場で転んでしまう。
いや、タイミングじゃない……どちらの足から出すのか、決めるのを忘れていた。
俺としたことが。
俺は左足を動かしたが、困惑するさなの動きが止まり、結果的に足がもつれてしまった。
「す、すみません……」
「いや、すまん……俺の、方こそ」
くっ、さなを転ばせてしまった。なんという不覚。
俺は、さなをゆっくり立ち上がらせる。
膝を擦りむいてしまっていないといいが。
「だ、大丈夫ですよこれくらい。
それより、もう一度やりましょう!」
「うむ……そうだな」
俺が落ち込まないようにとしてくれているのか、声を張り上げるさな。
その健気な姿に、心打たれるばかりだ。
「じゃあ、改めて……俺は、左足を出す」
「で、では、私は右足を……」
その後、俺たちは何度と二人三脚の練習をして……
その数だけ、転んだ。
何度も何度も何度もだ。
「ぷはははは!」
「笑うなお前殴るぞ」
「いひゃいいひゃいつねるな!」
結局授業時間が終わるまで練習を重ねたが、うまく走ることはできずじまいだ。
その姿に、なにがツボに入ったのか鍵沼は腹を抱えて笑っている。
鍵沼の頬を、つねる。
「あたた……
だってよ、お前のそんなボロボロな姿、初めて見たし」
考えてみれば、こうも擦り傷だらけになった経験は、ないかもしれない。
もちろん、魔王だった頃を除けば、だが。
「けど、如月さんには災難だったな……」
「……そこを突かれると、痛いな」
鍵沼のくせに、痛いところを突いてくる。
さなには、俺と同じ分ボロボロにさせてしまった……そこは、反省するばかりだ。
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