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転生魔王は友達を作る
デート開始!
しおりを挟む待ち合わせ場所に立つ少女は、間違いなくさなだ。
しかし、待ち合わせ時間まであと三十分も、ある。
なのに、もう居るだと……?
「! いかんいかん」
さなの姿を、のんきに眺めている場合じゃない。
俺は、駆け足になってさなの下へと、向かう。
さなは、噴水前の柱に寄りかかり、空を見上げている。
そのさなの姿は、誇張なしに絵になる……それが証拠に、周りの男どもはさなに視線を向けている。
もっとも、さな本人は、向けられる視線に気がついてはいないようだが。
「さな!」
「! あ、光矢さん」
正直な話、可憐なさなの姿をもう少し見ていたかった気もするが……
このままでは、さなが他の男に声をかけられる可能性がある。ナンパというやつだ。
なにより、すでに待たせている彼女を、これ以上待たせるわけには、いかない。
「すまない、待たせたか」
「いえ、私もついさっき、来たところです」
それが真実かどうかは、わからないが……
デートでは待たせてはいけないと学んだのに、さっそく待たせてしまった。
待ち合わせ時間まであと三十分もあるが、実際にさながここにいる時点で、言い訳は通用しない。
「それにしても、待ち合わせまでまだ、三十分はあるというのに」
「あ、それは……」
ただ、感心していた。同時に、感激もしていた。
俺は、今回のデートが楽しみでなかなか寝付けず、対して早く目覚めた。
結果として、家を早く出ることができたのだが……
もしや、さなも同じように、楽しみに感じてくれて、いたのか?
「で、デートというものが、私、初めてなので……は、早めに着いた方が、いいのかなと」
「そうか……」
さなも、俺と同じようなものか……デートが、人生で初めてだと。
さなほどの美貌ならば、これまでに男に誘われていそうだが……
そこは、中学が女子校というのが幸いしたのだろう。
それに、さなの側には頼もしいあいがいたはずだ。
きっと、ナンパをされても、うまくかわしてくれたことだろう。
「結果として早めに集合することになったが……行くか?」
「は、はい」
しょっぱなから、計画が崩れた感はある。
待ち合わせ場所に速めに到着し、余裕を持って今日のデートの計画を整理する……
そのつもりだったが。
まさかさなが、こんなにも早く到着しているとは。
嬉しくも、予想外で頭の中軽く、パニックだ。
「えっと、その……どう、します?」
これからの行動を決めるにあたって、さなが首を傾げる。
うむ、実にかわいらしい仕草だ。ずっと見ていられる。
っとと、ここで見惚れているわけにも、いくまい。
「ふ、今日のデートの予定は予め考えてある。
これから、映画を観ようと思うのだが」
「映画……いいですね」
デートの定番には、映画が最適だという記事を見た。ネットで。
特に初デートの場合、相手の好みを知れる上に、約二時間を相手と同じ空間で過ごすことができる。
初デートする相手と、同じ時間を過ごせと言われても困るだろう。
だが映画なら、その間座って同じ画面を見ているだけ。
しかも、映画が終わったあとは、映画の内容で盛り上がることもできる。
問題があるとすれば……
「早めに待ち合わせたから、映画が始まるまでまだ時間がある」
「な、なるほど」
三十分早く待ち合わせた……単純な話、三十分予定が前倒しされたということ。
だが、映画の始まる時間は決まっている。
よって、映画が始まるまでの時間を、別の方法で消費しないといけないわけで。
「とりあえず……さなは、どの映画が観たい?」
「今話題なのは……この三つ、ですか」
まあ時間の使い方は後々考えるとして、今は観る映画を決めよう。
さなに、俺がチョイスした映画作品のタイトルを、見せる。
恋愛系、アクション系、ホラー系だ。
「うーん……
……で、では、恋愛系で」
しばらく、三つの映画を見比べ悩んだあと……さなは、そのうちの一つを指さした。
それは、俺が予測していた通りの、恋愛ものの映画だった。
やはり女子は、こういうものが好きなのか。
見ると、さなは顔を真っ赤にしていた。
「そうか、よし。
なら、先に券だけ買っておこうか」
「は、はい!」
予定は前倒しとなり、映画は上映時間は変わらないものの……映画の券は、前もって買っておかないとな。
そういうわけで、俺たちは映画館へと向かう。
向かう先の映画館は、これから行く予定のショッピングモール内にあるものだ。
映画館以外にも、様々な施設がある。
一日だけでは、モール内すべてを見て回ることは、できないだろう。
それほどの施設、まさにデートするにぴったりだ。
映画館の近くにもいろいろあるし、映画の上映時間まで時間を潰してもいい。
「おぉ、結構人がいるな」
映画館では、休日だからかそれなりに人がいた。
正直鬱陶しいが、まあこれも休日デートの宿命と言えよう。
俺は、券売機で二人分の券を買う。
「あ、私の分は私が……」
「いや、いいさこれくらいは」
「でも……」
こういうのは男が奢るものだ、とネットに書いてあったからな。
渋るさなを落ち着け、俺たちは上映時間まで適当に時間を潰すことにする。
……俺たちの後をつける、二つの影には気づかないまま。
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