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転生魔王は友達を作る

ようこそ写真部へ

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 写真部……さなが興味を抱いた部活は、写真部であるようだ。
 ほう、こういうのもあるのか。

 写真か……悪くないかもな。
 風景や、人物を撮ったりするのだろう。

「さなちゃん、昔から写真撮ったりするの、好きだもんねぇ」

「なに、そうなのか」

 思わぬところで、さなが好きなものの情報を得ることができた。
 そうか、さなは写真撮影が好きなのか……
 また一つ、いいことを知ったな。

「なら、これを見学に行ってみるか」

「えっ? いやでも……」

「さなが興味があるなら、行く価値はあるだろう」

「私も、面白そうって思うかも!」

 そういうわけで、俺とさな、そしてあいは写真部へ見学に行くことに。
 鍵沼は、どうやら興味がないようで、運動部巡りに行った。

 写真部か……運動系の部活ではないらしいが、野外での活動も頻繁に行っているようだ。
 被写体は風景や動植物、それに人……

 カメラは学校から借りられるし、自分で持ってきてもいい。

「写真かぁ。スマホで撮ることはあるけど、あくまで自分の趣味の範疇だからなー。
 あんまり構図とか気にしたことないや」

 写真部の部室へと向かいつつ、あいが言う。
 俺も、あいとは似たようなものだ。

 そもそも、カメラだの写真だのという概念は、この世界で初めて知った。
 前世では、魔術による投影はできても、景色を切り取って残す……なんてことは、できなかったから。

 魔術にできないことも、科学でできる。逆もまた然り。
 なかなか、面白い世界に転生したものだと、思ったものだ。

「私は、お父さんの借りてたまに……」

「え、そうだったの!?」

「あんまり、話す機会なかったから」

 さなは、すでに写真経験者、か。
 興味を持ったというのも、その点がでかいのかもしれないな。

 ……それにしても、写真部の部室というのはずいぶん、端っこにあるのだな。
 それに、上階だ。人もあんまりいないようだし。

「あ、あったよ」

 最上階の、一番端の部屋……そこを指差すあいは、目的地を見つけはしゃいでいた。
 そこには確かに、写真部と名のついた立て札がかかっていた。

「……なんか、暗いな」

 雰囲気が、とでも言うべきだろうか。
 なんだか、これまで見てきたどの場所とも、異色な感じがする。

 それに気づいてか気づかずか、あいはスキップをして部室へと向かっていく。
 あいつには躊躇というものがないのか。

 俺とさなも、あとに続く。

「ここだ……よね?」

 部室の正面に立ち、あいは首を傾げた。

 ……電気、付いているのかこれ?

「ま、ここまで来たんだ。せっかくだし中に……」

「そうだね! 失礼しまーす!」

 俺がすべてを言い終わるより前に、あいは部室の扉に手をかけた。
 本当に躊躇ないんだな。

 まあ、異色な場所でも部室だ。いきなり襲われる、なんてこともないだろう。
 ガラガラガラ……と音を立てて、扉は開いていく。

 その中にいたのは……

「おっほぁー、この肉体美たまんない……!
 もっとこっちに視線向けて! あぁいいよぉ!
 インスピレーションどんどん働いちゃう!」

 …………カメラを構え、正面に立つモデルを撮影しながら、奇声を発する女の姿だった。
 ちなみに、そのモデルはマネキンだ。人ですらない。

 その人物は、俺たちが部室を訪れたことにも、気づいていない。

「あはぁー、いい! いいよそこ表情! たまんない!
 ワタシの中の、撮影意欲がくすぐられる!!」

 ……何度も言うが、撮影対象はマネキンだ。男性の、半裸の。

「あい、ここはだめだ。他を当たろう」

「え、でも……」

「でもじゃない。あれは完全にやばい奴だ。
 気づかれる前に……」

「おやぁ、そこにいるのは!?」

「……」

 時既に遅し……とは、このことを言うのだろう。
 その人物は、俺たちに気づき……素早く、近づいてきた。

「ももも、もしかして! 新入部員なのかな! かなぁ!?」

 ……怖いんだが、この人。

 所々くせっ毛のある黒髪を、肩まで伸ばしている。俺の周りではあまり見なくなった、丸眼鏡をかけている。
 身長は、俺と同じくらいか……女にしては高いな。

 見た目は、身だしなみを整えれば美人の部類に入るのだろう。
 だが、それよりも気になるのが……

「あの……ここって、写真部、ですよね?」

「そう、そうだとも! っはぁー、新入部員キター!」

「いや、まだ入るとは……」

「ワタシは、この写真部の部長にして唯一の部員!
 安達(あだち) なぐもだ! よろしく!」

 ……見た目以上に、この……妙なほどにハイテンションな様は、なんなんだ。
 しかも、この人が部長……なのは置いておいて。今唯一の部員って言わなかったか?

 部長さんのハイテンションに、さなもあいも呆気にとられている。

「あぁ、ごめんごめん、驚かせちゃったかな!
 なにはともあれようこそ写真部へ!
 さあさあ、中へどうぞ!」

「え、ぁ……」

 そのまま俺たちは、有無を言わさずに部室内へと連れ込まれてしまう。

 部室内は、片付いてはいる。ただ、そこに立つマネキンが異様な存在感を放っている。
 百歩譲って……他に部員がいないのだから、マネキンで写真の練習をしていたというのなら、理解はできる。

 それでも……あのハイテンションぶりは、なんなんだ。
 この人、危ない人なのか?
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