上 下
12 / 114
転生魔王は友達を作る

昼食の時間

しおりを挟む

 初登校、そして改めての初教室。
 昨日はホームルームのみだったため、今日から本格的な授業となる。

 俺たち四人は、それぞれの席へと座る。
 席は名字の順であるため、俺たちはわりと近い所にいる。
 それぞれ「か」「き」「こ」「し」だからな。

 ただ、俺の目標はさなと隣になること……
 今のままでは、俺とさなは直線状な上、間に別のクラスメートがいる。
 正直邪魔だ。

「……なんか後ろから圧を感じる」

 とは、俺の前の席に座る男が呟いた言葉だ。
 なんなら、席を変わってくれても構わんのだぞ。

「……なんでお前と隣同士なんだ」

「おれはこっちのセリフだよ」

 一方、あいと鍵沼であるが……この二人は、隣同士になっていた。
 昨日の時点で、わかっていたことではあるが。

 家は隣同士な上、クラスの席でも同じだとは……
 「か」と「し」で、予想していたことでもあるが……

 あの二人にとっては、とにかく認めがたい事実のようだった。

「仲が良いみたいで……」

「「よくない!」」

 どうやら聞こえていたらしい。
 だが息ぴったりじゃないか。

 その後、ホームルームが始まり、その後授業が始まる。
 高校の授業ともなると、やはり中学のものとは違うな。

 とはいえ、俺にとってはたいした違いはない。
 授業内容も、そんなに難しいものではなかった。

「んー、ようやく飯だー!」

 昼休みになり、喜びを体で表現するかのように、鍵沼は叫ぶ。
 こいつ、初日から授業中に寝て注意されていたが……大丈夫か?

 まあ、俺が心配することでは、ないのだが。

「あんたって、そんなんで授業についていけるわけ?」

「俺は本番に強いタイプなんだ」

「答えになってないぞ」

「あはは」

 俺たち四人は、それぞれの持参した弁当を広げ、一緒に食べる。
 教室内でこうして、誰かと食べるというのも……経験がなかったな。

 鍵沼が絡んできて、勝手に向かいの席に座って食べていたくらいか。

「おぉ、如月さんの弁当うまそう!」

「そ、そうですか……?」

「そうよ、さなは手料理が得意なんだから!」

「なんでお前が偉そうなんだよ」

「ほお、さなの手料理か」

 色合いも、栄養バランスも考えられた、素晴らしい弁当だ。
 これを、自分で作ったのか……すごいな。

 俺も、料理に挑戦したことはある。
 だが、どうやら俺には料理は不向き、だったらしい。
 とてもではないが、人前に出せるものではない。

 完璧である魔王にも、弱点はあったということだ。

「みんなのも、おいしそうですよ」

「俺のは、母さんが作ってくれたからなー」

「俺もだ」

「私も手料理は苦手だし……作っても、さなちゃんのには負けるわよ」

「そ、そんなことは……」

 同じ女子のあいでも、さなの手料理には負けを認めるほどか。
 容姿、頭がいいだけでなく、料理もできるとは。

 こうなると、是非ともさなの弁当……おかず一つでもいい。
 食べてみたいが……

 ……別に悩む必要はない。くれと、一言言えば……

「如月さん、おかず交換しない? その卵焼き食べてみたい!」

「あ、いいですよ」

 俺が考え込んでいたうちに、目の前でおかずの交換が行われる。
 ふわふわの卵焼きが、鍵沼の弁当に……

 俺はかつて、これほどまでに鍵沼に殺意を覚えたことはないだろう。

「! な、なんか顔が怖いんだけど、真尾?」

「いやいやなんでもない殺す気にするな殺す」

「本音が隠れてないんだけど!?」

 いかんいかん、弁当如き、おかず一つでなにをいらだっているんだ、俺は。
 鍵沼がむかつく奴だというのは、わかっていたことではないか。

 だが、それにしたって……俺が、俺が……!

「あの……こ、光矢くんも、よかったら……おかず交換、します?」

「する」

 まさか、さなの方からおかずの交換を申し入れてくるとは……
 さなの方から、だ。これは、俺から申し出るのとは意味合いが違う。

 さなから、だ。
 どうだ鍵沼。

「いや、なんか知らないけど、そんなどや顔されても……」

 なんとでも言うがいい。さなからの言葉……これは一歩前進と言えるのではないか。
 俺は唐揚げを差し出し、卵焼きをいただく。

「では……あむ」

「……ど、どうでしょうか?」

「う、うまい……」

 なんだ、これは……口の中で、ふわふわの卵が溶け、口の中でキミが広がっている。
 塩味が同時に口の中に広がり、黄身と混ざり合いうまみを引き出している。
 これは……うまい!

 一口で食べてしまったのがm、悔やまれるほどだ。
 いやしかし、これを割って食べていたら、割った部分から黄身がとろけだしていたであろう。

「うまい……こんなうまい卵焼きを食べたのは、初めてだ……」

「お、大袈裟ですよ」

 これまでは、母の味というやつで、母の作った料理が一番だと感じていたが……
 まさか、それを超えてくる料理が、現れるとは……!

 あぁ、口の中が幸せだ。
 毎日食べていたい。

「えっと……そんなに喜んでくれるなら、明日も、作って来ましょう、か?」

「本当か!?
 ぜひ頼む!」

 明日も、これを食べられるのか……なんという幸福! 贅沢!
 となると、俺の方も相応のものをお返ししなければならないだろう。

 昼食の時間は……騒がしく、そして賑やかに、過ぎていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...