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転生魔王は友達を作る
小柄のツインテール
しおりを挟む如月 さな。彼女も、頭がいい……と。
いいじゃないか、この魔王の恋人ともなれば、バカには務まらんからな。
だが悪く思うなさな。いかに面倒な入試トップの挨拶があったとはいえ、俺は常に一番でないと気が済まんのだ。勉学も運動も何事も。
魔王、だからな。
「ふふふふ……」
「おい、あいつ笑ってるぞ」
「やだ、先生呼ぶ?」
おっと、思わず感情が昂ぶってしまった。
そのさなだが、さっきから机に座ったまま、俯いて顔を上げようともしない。なんだか耳が赤いような気もするが、まさか風邪か?
魔族は風邪など引かない。が、軟弱な人間の体は脆い。この俺でさえ、この体で何度風邪に犯されたことか。
まったく、仕方ないな。未来の恋人の体調を気遣うのも、魔王たる俺の務めか。
「あ、立ち上がったわよ」
「如月さんの席に向かってない?」
俺は席を立ち、さなの席へと向かう。
先ほどは告白を断られてしまったからな……ここで、気遣いの出来る男アピールだ。
「さな、どうした。具合でも悪いのか?」
「名前呼び!?」
背後から声が聞こえた。振り向くと、先ほどからこそこそやっている女子が、しまったと言わんばかりに口を押さえていた。
まったく無粋な。少しは静かにできんのか。
「どうしたさな、聞こえているか?」
返答は、ない。
「……あいつ、公開告白して振られたんだよな」
「正確には、如月さんが逃げたって話だけど」
「そんなの私だって逃げるわよ」
「つまりあいつは、公開告白して逃げられた相手に、傷も癒えないうちに下の名前で呼びかけてんのか? メンタルどうなってんだよ」
やれやれ、外野がうるさいが……ま、どうでもいいか。
俺が用があるのは、さなだけなのだから。
それから何度か名前を呼びかけるが、本人は小刻みに震えながらうつむくばかり。
やはり風邪か?
今日はすでに終わった始業式と、その後のホームルームのみだ。具合が悪いなら、早く帰るに越したことはない。
なんなら、俺が送ってやろうか。
そう、声をかけようとしたとき……
「ちょっと待ったぁ!」
ダンッ、と、机を叩く音が聞こえた。それは、さなの机の隣から……座っていた女子生徒が「ひっ」と声を漏らした。
机を叩いた人物は「あ、ごめん」と平謝り。
俺は、視線を……下へと滑らせる。俺の目線に、そいつはいなかったからだ。
視線を落とした先……そこには、一人の小柄な女が立っていた。
「なんの用だ、チビ」
「ちっ……!」
女は、固まった。なんだ、なにか用事があるから話しかけてきたのではないのか。黙ってるんじゃない。
徐々に、女は顔を赤くしていく。トマトのようだ。
その後、何度か深呼吸を繰り返し……
「ふぅ……し、初対面でチビ呼ばわりか。ふぅん、なかなかおもしろいね、キミ。そのおもしろさに免じて、許してあげるよ」
かなり無理をした様子で、そう言った。
そしてなんか知らんが、許された。
それにしても……小柄ではあるが、度胸はあるらしいな。
他の連中が遠巻きに見てくるだけだった中、ただ一人、俺に物申した。
女であるからと軽く見るわけではないが……なかなか、見どころがある。
強気に見えるツリ目がちの目、小柄だかどこか迫力を感じさせる雰囲気。
茶髪を、左右で結って……あれ、なんて言うんだっけか……
「なんだ、その……尻尾みたいな……」
「ツインテール! キミやっぱり失礼だな!」
そうツインテールだ。短めのツインテール。そうだそうだ。
小柄のツインテールは、腰に手を当て俺を見上げている。
「あ、あいちゃん……」
「安心してさなちゃん。ボクがビシッと言ってやるから」
ふむ、体格の違う異性にも物怖じしない度胸。やはりなかなかの好評価に値するぞ。
というか、ここに来て初めてさなの声を聞いたな……一言だけではあるが。
うん、鈴の音のように凛として、それでいて透き通るような、実に耳当たりのいい声だ。
「あの、聞いてる?」
「もちろん聞いているぞ。
……で、なんの用だ小柄のツインテール」
「っ……言い返してたら一生話が進まない気がするから、ひとまずそこは置いて……はおけないけど、とりあえず話を進めようか」
「うむ」
言葉にならないかのように、手をぶんぶんさせている。どうした急に。
その後、これまたなにかわからないが、謎の葛藤を終えたらしい。
小柄のツインテールは、改めて俺に向き直る。
長いな、小柄のツインテールって。
「コホン。ただその前に、まず、ボクには静海 あいって名前があるんだから、チビとかツインテールとか、体の特徴で呼ばないでほしいかな」
「そうか……それはすまなかったな」
やっぱり、ひとまず置いてはおけなかったようだ。
ただ……指摘されて、ハッとする。確かに俺も、昔デカ男とか言われた時には、それを言った女を消しずっみにしてやろうと思った。
やられて嫌なことはやらない。人間世界の常識だ。
「お、おう。なんか素直に謝られると気味悪いな」
「俺だって、悪いと思えば謝るさ」
そう、悪いと思えば謝る。
人間世界の常識以前に、俺は素直な性格なのだ。
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