転生魔族は恋をする 〜世界最強の魔王、勇者に殺され現代に転生。学校のマドンナに一目惚れし猛アタックする〜

白い彗星

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転生魔王は人間世界に転生する

転生魔王は人間世界に転生する

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 俺の名はザラドラード・クリディウス。ごく普通の魔王だ。
 こう言っちゃなんだが、世界で一番強い魔族だ。なんせ魔王だからな。

 俺率いる魔王軍は、世界を魔族で統一すべく、人里を襲っていった。
 こう言っちゃなんだが、かなり良いところまでいっていた。

 あと少しで、世界は我が手中に落ちる。
 そんな時だ、あいつが現れたのは。

『あなたが魔王ね! 私は勇者として、あなたを倒すわ!』

 勇者を名乗る人間。人間の女だ。この余の前に立ちふさがった。
 余は世界最強だ。たかが人間になど、敗けるはずもなかった。

 だが、勇者は強かった。余が今まで人間に手こずったことすらないのに……

『これでとどめよ!』

 事もあろうに、余は勇者に敗け、殺されてしまった。

 その後、魔王軍がどうなったのかは知らない。死んでしまった後のことは余にはわからないからな。
 だが、その後余の身には、不思議なことが起こっていた。

「…………だぶ?」

 気がついたら、目の前には知らない天井。体は自由に動けず、おまけに満足に喋ることもできない。
 その上、余のことを覗きこんでくるのは人間の男女だ。

 余のことを息子と言い、抱き上げる。己の体に反射する、透明な板に映った余の姿は、まさしく人間の赤子であった。
 それから、何日もの時間が流れ、余はようやく理解した。

 聞いたことがある……この現象を『転生』という。
 余が魔王であった時代、そのような魔術があると聞いたことがある。

 己の意識を、生まれ変わらせる……これは、その類いのものであると、受け入れた。

「おー、かわいいなよしよし」

「まあ、笑ったわ!」

 信じがたいことだが、己の身に起こっている出来事ならば信じるしかないだろう。
 余は、人間の赤子に生まれ変わった。それも、余の知っているのとは、別の世界に。

 魔族もいなければ、魔術も存在しない。代わりにカガク、というやつがある世界に。
 あまりの人間の多さに吐き気がしたが、それももう慣れた。

 世界に身を任せる。結局、それしか余にできることはなかった。
 そして……

「よし……今日から、俺も高校生か」

 光矢 真尾こうや まおという名前の人間として転生して、十六年。何気に魔王と近い名に満悦していた俺は、今日高校の制服に腕を通す。
 さすがに十年以上も人間世界で生活していれば、言葉にも慣れる。その際、余という一人称は目立つとわかったので、俺に変えた。

 己の体に反射する透明な板……いや、鏡を見て身だしなみを確認する。
 俺が魔王だったころは、こんなこと配下がしてくれたものだが……不便で初めは仕方なかった。

 それに、この特徴のない黒い髪に黒い瞳。髪も、放っておいたら一カ月二カ月で伸びまくるし、まったく人間の体は不便で仕方ない。

 まあ、この体でこの先、何十年と生きていくのだ。この程度で不平を垂らしていても仕方がない。
 気持ちを切り替えて、行くのだ。



 ……そして、このわずか数十分後のことだ。



「…………」

 登校中に、それは起こった。
 ……まるで、呼吸が止まったかのような感覚に、陥った。
 誰かに攻撃されたわけでは、ない。

 とある人物に目を奪われたのだ……この俺が。
 いや、俺だけではない……他の生徒も、彼女を見ている。

 風になびく美しい黒髪、凛とした佇まい、ただ歩いているだけなのに道を譲ってしまいたくなるほどの存在感……
 なんだ、これは。なんなんだこの感情は!

「胸が……締め付けられるようだ」

 以前、父が言っていた。学生は恋に学業、青春を楽しむものだと。
 恋とはなんだと聞いたが……胸が締め付けられるような、それでいてその相手のことしか考えられなくなる現象のことを言うらしい。

 まさか、これが……恋というやつか?

 俺は、気づけば一歩一歩と歩き出していた。
 そして、彼女の前に立つ。

「! ……あの、なにか……?」

 困ったように、小さく首を傾げる彼女。あぁ、かわいい。目大きいしまつ毛長い。
 間違いない、これが恋というやつだ。

 ならば、この後やることは決まっている。

『気になる女の子がいたら、結局大事なのは自分の気持ちを正直に伝えることさ。でも、時と場所は選ぶんだぞ?
 理想的なのは、まずは仲良くなることだ! そこから、徐々に距離を縮めていくんだ。間違っても、いきなり付き合ってくれとか言うんじゃないぞ? いや、父さんもそれで失敗した経験があってな……』

 父の言葉を思い出して、俺は……

「俺は、お前のことを好きになった! 恋人として付き合え!!」

「……はぇ?」

 道のど真ん中で、自分の気持ちを正直にぶつけていた。
 ……ん? なにか他にも気にすることがあったような。
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