上 下
16 / 20
ダンジョン創造者とダンジョン攻略者

第16話 ダンジョンが……作りたいです……

しおりを挟む


「はぁ……」

 冒険者登録を終えた俺は、一人ほそぼそと薬草採取を行っていた。
 冒険者になったはいいが、ダンジョンに入るには冒険者ランクを上げなければなならない。そして冒険者ランクを上げるには、とりあえずクエストをこなすしかない。

 俺はさっさとダンジョンに……というか、ダンジョンに潜るクレナイに着いていき、クレナイの弱点を探りたいのに。
 なぜこんなことをしているのだろうか。

「ちまちま薬草集めるためにこの世界に降りてきたわけじゃないっての」

 ブツブツと一人文句をたれている俺は、周囲から見ればさぞ変な人に見えるだろう。
 でもいいんだ、周りには誰もいないし。それに一人でしゃべることには慣れている。

 ラビはたまに反応してくれないときもあったし、一人でしゃべってるみたいになってたことは一度や二度じゃない。べ、別に寂しくなんかないんだからね!

「っと、こんなもんかな……」

 とりあえず目的の薬草を、目的の数だけ採取完了、っと。本当なら、もっとどーんとやって一気にランクを上げたいが。
 低ランク冒険者だと、受けられるクエストは限られるし、それも複数受けてようやくランクを上げられるようなものだ。

 仕方ない、か。俺は転生者とはいえ、その力はすべてダンジョン創作に注ぎ込んでいる。
 そしてダンジョンを作ることのできないこの世界では、転生の恩恵なんてないのだから。

 俺が異世界でしたいのは、こんなことじゃない。さっさとランク上げて、クレナイに着いていけるくらいのランクになって、ダンジョンに潜って……

「……あれ? クレナイの弱点を探るだけなら、別にダンジョンに着いていく必要なくね?」

 クレナイの弱点を探るなら、ダンジョンに一緒に潜るのではなく、日常生活をストー……探ればいいのではないか。
 今になって、気づいてしまった事実。あぁいやでも、ダンジョンの中で近くにいてこそわかることもあるかもしれないしな……

 うーむ、どうしたら……

「わ、あぁあ!」

「ん?」

 考え事をしつつも、薬草を採り終えたのでギルドに帰るか……と思い至ったところで、俺以外の声があった。
 それは女の声。反射的に声の方向に顔を向ける。

 そこには、カゴいっぱいに木の実を入れていたが……その木の実がこぼれ、ゴロゴロと形の良い赤い実が落ちているところだった。

「あぁー、あぁー」

「……」

 ……クエストを終えたら、ギルドに帰りクエスト終了の報告をする。報告のために必要なものを証明することで、クエストは完了となる。
 薬草採取なら指定の数の薬草を、モンスター退治ならば対象のモンスターの体の一部を……といった具合に。

 すでに指定の数の薬草を採取した俺は、あとはギルドに帰り報告をするだけ。さっさと終わらせて、さっさと冒険者ランクを上げたい。
 時間が惜しい。他のことに構っている暇などないのだが……

「あぁーん、待ってぇー」

「……はぁ」

 コロコロ転がる木の実を拾い、拾うために屈んだことでまた別の木の実が落ちてしまう。負の連鎖に陥ってしまった、桃色の髪の少女。
 それを見て見ぬふりは、どうしてかできなかった。

「……はい」

「え! あ……ありがとうございます!」

 俺は近くに転がってきた木の実を拾い、女の子に近づき、手を差し出す。目の前に木の実が出てきたことに女の子は驚いていたが、俺の顔を確認するや、にっこりと微笑む。
 木の実を手渡しし、そのまま落ちている木の実拾いへと移る。

 薬草採取の次は、と木の実拾いかよ。なんつってな。
 しばらくの間、木の実拾いに専念することに。事あるごとに「ありがとうございます、ありがとうございます」と言われるのはちょっとうるさかったが。

 たくさんあった木の実も、二人で拾えばすぐに作業は終わる。

「これで最後、っと」

「あ、ありがとうございます!」

「いいって何度も」

 最後の木の実を、女の子の持っているカゴに入れる。
 様々な種類の木の実があるが、これはいったいなんだろう……まあ、関係ないか。

「いえ、助けていただいたからにはお礼をしなければ。あ、おひとつどうですか?」

「お、食べていいの?」

「あ……あ、はい。クエストで集めたものなんで、本当はだめなんですけど……でも、お礼で……」

 差し出してくれた木の実、それはクエストの内容で集めたものらしい。じゃあ食べちゃだめじゃないか。
 それと、意図せずに木の実集めの理由を知ってしまった。彼女は冒険者なのか。それも、木の実集めをしているということは俺と同じく低ランクの。

 彼女は、目を強く閉じて「むむむ……」と唸っている。お礼をしなければいけない、しかしお礼するには木の実しか手元にはない。

「いや、別にいらないよ。お礼が欲しくて手伝ったわけじゃないし……
 それに、キミみたいな子供からもらうわけにも……」

「むむ、子供じゃないです!
 もう十六です、成人です!」

 成人です、と薄い胸を張る少女。この世界では、十六歳から成人と言われる。
 なのでカテゴリー的には大人なのだが、背も高くはないし、なんか見た感じが子供っぽいので、はいそうですかとはうなずけない。

 とはいえ、このままじゃせっかくクエストで集めた木の実をお礼として差し出されてしまう。それはよろしくない。
 お礼はいらないと突っぱねても、聞きそうにないし。

「じゃあお礼はまた、別のものでいいからさ。
 とりあえず、キミもクエストクリアしたんだろ? なら、一緒にギルドに戻ろう」

「お兄さんも冒険者なのですか。わかりました、一緒に行ってあげてもいいですよ!」

 ……なんか、個性的な子と出会ってしまったなぁ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

超人気美少女ダンジョン配信者を救ってバズった呪詛師、うっかり呪術を披露しすぎたところ、どうやら最凶すぎると話題に

菊池 快晴
ファンタジー
「誰も見てくれない……」 黒羽黒斗は、呪術の力でダンジョン配信者をしていたが、地味すぎるせいで視聴者が伸びなかった。 自らをブラックと名乗り、中二病キャラクターで必死に頑張るも空回り。 そんなある日、ダンジョンの最下層で超人気配信者、君内風華を呪術で偶然にも助ける。 その素早すぎる動き、ボスすらも即死させる呪術が最凶すぎると話題になり、黒斗ことブラックの信者が増えていく。 だが当の本人は真面目すぎるので「人気配信者ってすごいなあ」と勘違い。 これは、主人公ブラックが正体を隠しながらも最凶呪術で無双しまくる物語である。

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

神様に妻子の魂を人質に取られたおっさんは、地球の未来の為に並行世界を救う。

SHO
ファンタジー
相棒はあの名機! 航空自衛隊のベテランパイロット、三戸花乃介。 長年日本の空を守ってきた愛機も、老朽化には勝てずに退役が決まる。そして病に侵されていた彼もまた、パイロットを引退する事を決意していた。 最後のスクランブル発進から帰還した彼は、程なくして病で死んでしまうが、そんな彼を待ち受けていたのは並行世界を救えという神様からの指令。 並行世界が滅べばこの世界も滅ぶ。世界を人質に取られた彼は世界を救済する戦いに身を投じる事になる。これはチートな相棒を従えて、並行世界で無双する元自衛官の物語。 全ては、やがて輪廻の輪から解き放たれる、妻子の生きる場所を救うために。 *これは以前公開していた作品を一時凍結、改稿、改題を経て新規に投稿し直した作品です。  ノベルアッププラス、小説家になろう。にて重複投稿。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

配信者ルミ、バズる~超難関ダンジョンだと知らず、初級ダンジョンだと思ってクリアしてしまいました~

てるゆーぬ(旧名:てるゆ)
ファンタジー
女主人公です(主人公は恋愛しません)。18歳。ダンジョンのある現代社会で、探索者としてデビューしたルミは、ダンジョン配信を始めることにした。近くの町に初級ダンジョンがあると聞いてやってきたが、ルミが発見したのは超難関ダンジョンだった。しかしそうとは知らずに、ルミはダンジョン攻略を開始し、ハイランクの魔物たちを相手に無双する。その様子は全て生配信でネットに流され、SNSでバズりまくり、同接とチャンネル登録数は青天井に伸び続けるのだった。

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

処理中です...