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ダンジョン創造者とダンジョン攻略者
第13話 ダンジョン博士、君の名は
しおりを挟むあなたの名前は……
初対面の相手に聞くにしては、なんの不自然もない質問。その相手が、名乗った覚えもないのに自分の名前を知っているともなればなおさらだ。
クレナイの名前について知っていたことは、なんとか誤魔化せたとも思う。
だが、その流れで俺の名前の話題になってしまったことは、一つの失策と言わざるを得ないだろう。
「どうかしました?」
と、俺の名前を聞いてきた張本人クレナイが、不思議そうに首を傾げている。
くそ、まずいな……ここでだんまりを決め込んだら、ますます不審がられる。名前を聞かれて答えないなんて、腹にどんな黒いものを抱えているのかと思われてもおかしくはない。
だが、名前をすんなりと答えられない理由……それは、俺には名前がないからだ。
いや、名前がないとは語弊があるか。正しくは、この正解でも違和感のないような名前、だ。
「……」
クレナイがそうであるように、ダンジョンに潜って来た他の冒険者の名前も、カナ文字ばかりだった。それに、クレナイ・なんとか、もしくはなんとか・クレナイのように、フルネームのようなものも聞かない。
俺にも名前はある。だがそれは、死ぬ前……生前の名前だ。
零無 零、それが俺の本名だ。長い間自分の名前を名乗る機会なんてなかった。俺以外に名乗る相手はラビしかいないが、ラビは俺を主様と呼ぶし。
だが、実際にこの名前が、この世界で変だ、というのはわかる。それを素直に名乗れば、変な目で見られるに違いない。
こんなことなら、あらかじめ名前を決めてくるんだったぜ。
少しの間、名前について考える。そして、その結果として……
「……レイです」
なんの捻りもない、自分の名前だけを取った名前が誕生してしまった。
いやまあ、名前を捻る必要はないんだけどな。
「そう、レイさん、ですか」
俺の名前を聞いて、クレナイはうっすらと微笑んだ。
その顔を見ると、少し心臓がうるさくなるのを感じる。
というか、なんかこんな風にクレナイに敬語を使われると、なんかくすぐったいというか……そりゃ、俺とクレナイは初対面だから当然ではあるのかもしれないが。
ダンジョン内では、はきはきとした様子でタメ口で、パーティーメンバーに指示を飛ばしたりもしていた。その印象が強い。
ダンジョンの外と中とでは違う、ってことか。クレナイの新たな面を知れてうれしい気持ちと、イメージと違う困惑の気持ちとがある。
……嬉しい? なんで嬉しいんだ。
「そう、レイ。俺はレイだ」
「なんで繰り返すんです?」
レイ、レイ……とっさに思いついた名前ではあるが、なかなかに言い名前ではないだろうか。
これなら、この世界間にも合うだろうし、名前を聞いて不自然に思うやつも、いないだろう。
うん、なんだかしっくりくるぞ。これはいい。この世界での俺の名前は、レイだ。
「はいお待ち」
「お、キタキタ!」
その間にもおかわりが運ばれてきて、俺は皿ごと持ちそれを口の中にかきこんでいく。
うまいものを、腹いっぱいに食える。このなんと幸せなことだろうか。
ただ、さっきから俺が食ってばかりで、クレナイがなにも食べていないのが気にかかる。
「クレナイは、なんか食わないのか?」
「元々食事の予定はなかったですし……それに、そうだったとしてもあなたの食べっぷりを見ているだけで、お腹いっぱいです」
見ているだけでお腹いっぱい、とは不思議なやつだな。
ま、そういうことなら気にせずに食べさせてもらうけどな。
ただ、こうしてガツガツ食べているのを他人に見られているというのは、なんだか恥ずかしいな。
「んぐっ……ぷはぁ!」
「また喉に詰まらせないでくださいよ」
「わかってるわかってる。はぁ~、うまかった」
口の中にかきこんだものを、水で流し込んでいく。この、なんともいえない快感がたまらない。
そこでようやく、空腹だった腹は満たされた。いやぁ食った食った。
これほどまでに満たされたのは、いつぶりだろうな。ダンジョンを作る、それとはまた違った感覚だ。
「よくあれだけの量を食べましたね」
「へへ」
「いや、褒めては……ないこともないですけど、半分くらい呆れてますからね?」
クレナイのジト目を身に受けながら、俺は店員さんを呼ぶ。お会計の時間だ。
やって来た店員のおばちゃんは、テーブルの上に並んだ皿の山を見てそれはもう驚いていた。
しかも、これを二人ではなく一人で食べたのだから。
「はいよ。結構な額になるけど、大丈夫なのかい」
「大丈夫大丈夫」
ふふ、こんなときのために、さっき俺の所持している金をこの世界の通貨に変換しておいたのさ。
ま、チョチョイのチョイってやつですよ。
店員さんが皿の数を数え、計算している傍ら……俺は、転送してきた通貨を袋に入れ、手に持つ。
あの空間のものは外には持ち出せないが、通貨は別だ。ダンジョンで稼いだ金をその世界の通貨に変換し、変換した通貨は俺の所へ転送される仕組みだ。
とりあえず、俺の主観で金を払うとするか。
「うーん……これで、足りるだろうか」
袋の中に手を突っ込み、手のひらに掴めるだけ掴んだ金……金貨を、取り出して。
それをテーブルの上に、置く。その際、金と金とかぶつかり合い、ジャラっと音が響いた。
「え……き、金貨……!?」
「それも、こんなに……!?」
俺の出した通貨を見た瞬間、おばちゃんとクレナイは目を見開いて、通貨をじっと見た。
な、なんだ? なにか、いけないことでもあったか?
しかし、二人はただただ、驚いていた。それから、クレナイは俺を見つめて……
「あなた、何者ですか……?」
と、驚愕の表情を浮かべたまま、聞いてきたのだ。
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