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ダンジョン創造者とダンジョン攻略者
第7話 ダンジョン攻略者を攻略したいダンジョン博士
しおりを挟むダンジョン内で能力値の一定ダウン。クレナイをぎゃふんと言わせるために作った掲示板に書き込まれていたのは、これまでに思いつきもしないものだった。
これは面白い試みだと感じ、さっそく取り入れることにする。
今更だが、ダンジョンを作るのに複雑な過程は存在しない。ただ、どんなダンジョンを作りたいかを、俺が頭の中で創造したもの。それが、ダンジョンとして出現する。
最初の頃は、とにかくひどかったもんだ。とにかく頭の中でイメージしたものが物体として出現するってことで、かたっぱしにダンジョンを作りまくった。
なんの、捻りもない……今でこそあれは、黒歴史だ。記憶から消し去ってしまいたい。
だが、一度ダンジョンを作った身としては、作ったダンジョンを消す、なんてことだけはしない。
「ここをこうして……あぁ、この部屋にオークとか配置しよう」
さらに、ダンジョンを作るので欠かせないのがモンスターだ。こいつらも、俺が想像したモンスターが実体化する。
逆に言えば、俺の知らないモンスターは作り出せないということでもあるのだが。
モンスターは、俺の知っているものとこの世界のモンスターとは類似しているみたいだ。スライム、ゴブリン、オークといったポピュラーなものから、フェンリルやドラゴンといった伝説級のものまで。
まあ、ダンジョンにモンスターを配置するにも、いろいろ条件があったりするのだが……
「主様主様」
「なんだよ、今ダンジョン創作中……」
「クレナイが現れたっすよ」
「なんだと!?」
ダンジョン創作中に、俺に話しかけるのはやめてくれと、ラビには言い聞かせてある。よほどの事態ではない限り。
そして、クレナイがダンジョンに挑むのは、よほどの事態だ。
「来やがったなクレナイ。このダンジョンは……ナンバー百九か」
俺は、作ったダンジョンについては名前をつけることにしている。まあ、名前とは言っても作った順に番号を当てているだけなのだが。
クレナイが挑むのは、俺が百九番目に作ったダンジョン。ダンジョンに番号はつけているが、もちろん、クレナイは作った順にクリアしていくわけではない。
ダンジョンを作るごとに、ここにあるモニターも増えていく。モニター一台につきダンジョン一つ……
ダンジョン内の様子を、映し出すのがこのモニターだ。
「今回は一人か……さあ、まっすぐ突き進むがいいクレナイ! その先には落とし穴トラップが……
あぁ! なんて跳躍力! 落とし穴を軽々超えて……いやまだだ、その角の先には大量のモンスターが!
あぁ! モンスターがバッタバッタとなぎ倒されていく……腰の剣すら使わずに!? このゴリラ女がぁ!」
「主様うるさっ」
俺はダンジョン創作も忘れ、クレナイのダンジョン攻略を見守っていた。これまで、挑戦者を次々と下してきたダンジョン。
しかし、クレナイはそれをものともせず、クリアしていくのだ。
そして……
「たった……五分で……!」
「見事に攻略されちまいましたねー」
クレナイがダンジョン攻略を始めてから、たったの五分。普通ならば、クリアするにも最低ニ十分はかかる計算だというのに……
完全無傷でダンジョンを攻略したクレナイは、深層の宝箱を開けていた。
『さすがクレナイのアニキ、略してクレニキ』
『安心感が違うよね』
『ダンジョン簡単すぎたんじゃね?』
『もっと苦戦してるとこ見たい』
『スライム出てきたのに服溶かすどころか逆に燃やされるとかw 無能ww』
『宝箱の中身なんだろ』
『ゲームなら宝石とか武器が定番じゃん』
今回も今回とて、視聴者の皆さんは配信動画にコメントを残していく。なんだよクレニキって、あいつ一応女だぞ。
挙げ句無能だと……好き勝手言いやがって。
そんでもってクレニキ……じゃなくてクレナイは、ダンジョンを攻略したというのに嬉しそうな表情一つも浮かべず、宝箱の中身を物色している。
ダンジョンには、宝箱がつきものだ。ダンジョンの最奥、つまりゴール地点にダンジョンボスなるモンスターを配置し、そいつを倒すと宝箱が出現する仕様だ。
もちろん、一度クリアされたダンジョンボスを倒したとしても、宝箱は出現する。だが、一度目に出現する宝箱と、二度目以降に出現する宝箱の中身の価値は、違う。
例えるなら、一度目の宝箱には十万円入っているけど、二度目以降の宝箱には一万円しか入ってないみたいな。
そうやって区切りをつけることで、あのダンジョンは我先にクリアする、という連中が押し寄せ、そして散っていくのだ。
「あの女、宝箱の中身なんに使ってんでしょうね」
「確かにな……武器や宝石が入ってて、それを持って帰ってるけど、それを使っている様子はない」
宝箱の中身は、コメントにある通り武器や宝石が主だ。それを使い、武器の新調をするなり、装備を新しく買い替えるなり。使い方はクリアした冒険者の自由だ。
だがクレナイは、クリア報酬をなにに使っているのかわからない。武器はいつもなんの変哲もない剣一本。使い古し、新しいのは持っていない。
防具だって、いつものものだ。宝石なら売って金に換え、豪華なものでも買えばいいのに。
俺には、ダンジョン外の景色を見ることはできない。だから、ダンジョンの外に出たクレナイが、クリア報酬をなにに使っているのか。それを知る術はない。
「目に見えない形で使ってるとかですかね。飲み食いとか」
「まあそれなら、報酬は腹の中に消えるからわからんが……それでも、全部食費に消えるか?」
「同業者に奢っているとか?」
「今日は私の奢りだ、好きなだけ飲め、ってか?
あの仏頂面がそんなことするとは、思えんな」
ラビの言うことにも一理あるとはいえ、毎回食費に消えているとは考えにくい。報酬一つで相当な額だ。
あの細身でそんなに食えるとも思えないし……いや、それともダンジョンで動くからこそ、実は食うのか?
そうで、なければ……
「! まさか……転売!?」
「てん……なんすかそれ」
考えられるのは、手に入れた武器や宝石を、他者に高額で売りつける転売行為! ラビの反応から、この世界に転売という言葉がないのはわかるが……
言葉がないだけで、行為がないとは言い切れない!
もし、そうだとしたら……俺の用意した報酬を、転売なんかのために利用しているのだとしたら……
「許さねえ……許さねえぞクレナイ……!」
「さっきからなんなんすかもう」
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