はぐれ暗殺者の契約 ~最強暗殺者と第四王女の王位継承権争い~

白い彗星

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暗殺者と第四王女

四十話 あの日の真実

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「な……なにを、言っているんですか!」


 困惑した声を上げる、第四王女。それも当然であろう。なんせ、お前が……第四王女が、俺を殺したと、デルビートが指差したからだ。

 デルビートの表情は怒りに満ちており、とても嘘をついているようには見えない。俺を動揺させ、油断を誘う……そもそも、デルビートはそういう性格ではない。それに、そんなことをしなくても戦況はデルビートに傾いていた。

 ならば……これはただの、妄言? それとも……


「とぼけている……わけでもなさそうだな。忘れているか、まったく嘆かわしい。いや、むしろ当然の防衛本能とも言えるか」

「わ、訳のわからないことを! 私が人を……アルベールさんを、殺した!? そんなの、あり得ないです!」


 あり得ない……そう訴える第四王女は、必死だ。顔を赤くし、自らの無罪を訴える。こちらも、嘘をついているようには思えない。

 互いが互いの主張を訴え、ぶつかり合う。だが……


「俺は、見たんだ。アン……アルベールを、殺したガキをな」

「……!」


 その発言は、第四王女を黙らせるには充分だった。が、驚いたのは彼女だけではない……俺も同じだ。


「どういう、ことだ? 死んでいる俺を、見つけたって……」

「……嘘はついてないさ。お前は11年前のあの日、燃え盛る炎に焼かれて死んだ。だが、街を燃やすあの火事は自然発生や賊によるものではない……そこの女に、よるものだ」


 ……あの日、俺が死んだ11年前。住んでいた街を賊が襲ってきて、そのいざこざに巻き込まれて死んだはずだ。死の直前の記憶がないのは、蘇った弊害か、単に記憶が蓋をしているのか。

 デルビートは、その現場にいたというのか。そして、あの火事は、故郷を燃やすほどの炎は……賊とは関係なく、第四王女が……?


「ま。待ってください! 11年前って、私はまだ3歳程度です! なのに、火事を起こすなんて……まして、人を殺すなんて……」

「王女のお前があの日、あそこにいた理由なんざ興味はない。だが、お前の今の顔を見たとき、見覚えがあると思った……調べたら、ビンゴ。あの日、あそこで見かけたガキだった。そして俺は見たのさ……まだガキだったお前が、魔法を暴発させ、あの火事を引き起こしたのをな!」

「……っ」


 11年前……まだ3歳だと言う第四王女。そんな子供になにができるとは思えない。だが、デルビートの言葉はやはりどこか説得力があって……

 魔法の暴発。それも、制御のできない子供が……聞かない話では、ない。


「そんな……た、確かに私は、魔法の制御がうまくはなかったです。でも、それで街を燃やすほどの、火なんて……」

「制御ができない、それは自分の意識しない力まで引き出してしまうことだ。幼くても、魔法の適正が高いお前の力は膨大だ。しかも、お前の魔法は火事を起こすのにぴったりだ。……なあアン、お前はこいつを含め、王女たちの魔法属性を調べただろう? 思い出してみろ」


 第四王女、火事を起こすのにぴったり……それを聞いて、俺は思い出す。六人の王女を調べた際、魔法の属性も調べていて……


『第四王女 ティーラ・テル・アルクド 二属性セグン 火と風』


「火と……風……」


 第四王女は二つの魔法属性を持ち、それは……火と風だ。どんな小さな火でも、風の力が加われば大きな炎へと変わる。

 背筋が、凍るような感覚がした。もう、死んでいるというのに。


「そ、そんなの、こじつけです! 私以外にも、火と風の属性魔法を使う者なんて……」

「見た、調べた、と言ったろ。あの日のガキは、間違いなくお前だ。仮に姉妹と間違えたとしても……他に火と風属性の魔法を使えるのは、三属性テルセの第四王女だけだ。が、そいつは火と水と風……火事が大きくなる前に、消す力も持ってる。ついでに、そいつは11年前の時点で魔法制御は完璧だ、暴発の可能性はない」

「っ……」


 状況証拠……見たとは言っても、それが確実なものかはわからない。

 だが、確実に……


「アンだけじゃない、あの火事で死んだのは。己の魔法で、たくさんの人間を殺した……その現実に耐えられなくなったお前は、その記憶を封印したのさ」

「ちが……違う違う違う……あ、"あれ"は、私の、せいじゃ……!」


 頭を抱える第四王女は、違う違うとうわ言のように話しながら、首を振っている。違うと、俺もそう思いたい……だが、気づいているのだろうか。その口から、"あれ"という単語が出てきているのを。


「どうした、思い出してきたか? お前が殺した人間たちの顔を、声を……お前の愚かさを」

「ち、ちがっ……違う違う! 私は、ただ、魔法の練習を、してて……姉様たちに、ほめて、もらいたくて……魔法が、制御、できる、ように……」

「そんなお前が、よりによってアンを引き抜き、俺の下から引き離した……それが、許せないんだよ」


 俺を殺した、第四王女が……俺に、命を守ってくれと暗殺の世界から引き抜いた。それが、デルビートが怒る原因なのか……
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