久野市さんは忍びたい

白い彗星

文字の大きさ
上 下
74 / 84
第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!

第73話 私が付きっきりでご指導します

しおりを挟む

「それで……なんで屋上に?」

 久野市さんが屋上の鍵を持っていた理由については考えないことにして、ここに俺を呼び出したことを問いかける。
 ここには、俺と久野市さんの二人きり。どんな話をしても、誰に聞かれることもない。

 ……目的があるなら、それしかない。

「主様なら、もうわかっておられるでしょう?」

「まあ……けど、人目を避けなきゃいけないほど重要な話ってこと?」

「そういう認識で正しいです」

 やっぱり、人に聞かせられない話をするため、か。
 それにしたって、なんで昼休みに?

「放課後まで待つんじゃだめだったの?」

「どうしても、学校が終わる前に調べておきたいことがありまして」

 学校が終わる前に調べておきたいこと……つまり、学校じゃないとできないなにか。

 ……いや、違うな。学校でできることなら、別に放課後こっそり残ればいい。
 学校自体じゃなくて……学校にいる誰かについて、調べるため? 放課後だと、その誰かは帰ってしまうかもしれないから。

「主様にも聞きたい話がありまして。なので、私だけが一方的に話しても意味がなく、お呼び申し上げたわけです」

「一方的……あ、さっきのあれどうやったのさ!」

 ふと俺は、屋上に呼び出された経緯について思い出す。
 耳元で久野市さんの声はしたけど、振り向いてもどこにも久野市さんの姿はなかったあれだ。

 あのときは俺から返事をしても、応答がなかった。やっぱりあれは、会話できるものじゃなくて一方通行のものだったのか。
 自惚れるわけじゃないけど、久野市さんが俺の呼びかけを無視するなんて考えにくかったし。

「あれは、忍術の一つです」

「忍術の一つ!?」

 俺の疑問について、なんでもないように話す久野市さん。
 それは忍術だ……と。

 いや、あれ忍術なの!? 忍術の類いなの!? 忍術ってあれでしょ、火遁の術とか水遁の術とかってやつ!
 あの会話術は忍術ってよりなんか……魔法って感じしたけど!

 んーまあ、タネがわからない忍術って魔法みたいなもんだけどさ!

「自分の声を、対象に届ける。離れたところにいる相手に、言葉を届けることが可能なのです。
 ただし、欠点が一つ。届けられるのは自分の声だけで、相手の声は聞こえません。それと一定の距離でしか効果は発揮されず、対象は一人に限定されます」

「欠点一つ以外にもあったけど」

 まあ、それが欠点と呼べるものかどうかは別として。遠くの相手に声を届けられるものなら、あって然るべきの当然のデメリットな気がする。
 デメリットというのもどうだろう。

「この術で会話をすることはできません。とはいえ、対象も同じ忍術を使えれば、お互いに声を届けて実質会話をすることは可能ですが」

 自分の声を届けるだけ……というのでも充分すごいが、相手が同じ忍術を使えれば、実質会話をすることができるという。
 それってつまり、俺も同じ忍術を使えるようになれば、久野市さんとあんな風に会話ができるってこと!?

 忍術ってすげー!

「俺もその忍術使えるようになるのかな!?」

「もちろん。練習すれば誰でも使えるようになりますよ」

「おぉ!」

 忍術とは、訓練すれば誰でも使えるようになる。
 そう付け加えて、久野市さんはにっこりと笑った。

 ってことは、俺も忍術を使えるように……!

「もしも所得したいのでしたら、私が付きっきりでご指導します。所得までに必要な年月はざっと五年ほどでしょうか」

「なげえ!!」

 そんなうまい話はなかった。それも当然だよな。
 なにをするにも、時間がかかるってことだ。

 と、ここからだ本題の話は。

「ま、いいや……それで、本題。俺を呼んだ理由は?」

「はい」

 俺が本題を口にすると、久野市さんのまとっていた空気が変わったような気がした。
 思わず、背筋を正してしまう。

「今朝、主様がご友人と話していたことについてです」

「友人……ルアと火車さんのこと?」

「あの女はどうでもいいです。その、金髪の彼のことです」

 話は、今朝の内容についてだという。火車さんはあっさりだった。
 哀れな火車さん……

「ルアがどうかした? あ、ルアと話していたこと、か」

「はい。金髪の彼と、メッセージ交換をしたという女のことについてです」

 久野市さん、思いの外話を聞いていたんだな。
 それもそうか。久野市さんは耳が良い……俺たちの会話は聞き耳を立てていてもおかしくはない。

 とはいえ……メッセージ交換をしたという女、というのは……

美愛みあさんのこと?」

「名前は存じ上げませんが、そうです」

 会話は聞いていたのに、名前には興味がないのか……とことんだなぁ。
 初対面ですらない相手の名前を覚えろってのも、無茶な話だけど。

 それにしても、美愛さん……篠原 美愛さんについてどうしたというのだろう。
 朝なぜか怒っていたけど、それと関係あるのか?

「その方のことなのですが……詳しく教えてもらっても、いいですか?」

「へ?」

 なぜか久野市さんは、美愛さんのことを教えてくれという。
 どうしたんだ……久野市さんが誰かに興味を持つなんて、珍しいな。

 なんだって、会ったこともない人のことを?

「教えてって言っても……俺も昨夜会っただけだから、そんなに知らないけど」

「えぇ、構いません」

 俺も知っていることは少ないけど……逆に、これくらいのことなら個人情報気にしなくてもいいから、まあいいのかな。

 ……って、さっき調べたいことがあるって言ってたよな。そんで、美愛さんの名前を出した。
 調べたいこと……いや人って、もしかして……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

坊主女子:友情短編集

S.H.L
青春
短編集です

坊主女子:学園青春短編集【短編集】

S.H.L
青春
坊主女子の学園もの青春ストーリーを集めた短編集です。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

切り裂かれた髪、結ばれた絆

S.H.L
青春
高校の女子野球部のチームメートに嫉妬から髪を短く切られてしまう話

処理中です...