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第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!
第73話 私が付きっきりでご指導します
しおりを挟む「それで……なんで屋上に?」
久野市さんが屋上の鍵を持っていた理由については考えないことにして、ここに俺を呼び出したことを問いかける。
ここには、俺と久野市さんの二人きり。どんな話をしても、誰に聞かれることもない。
……目的があるなら、それしかない。
「主様なら、もうわかっておられるでしょう?」
「まあ……けど、人目を避けなきゃいけないほど重要な話ってこと?」
「そういう認識で正しいです」
やっぱり、人に聞かせられない話をするため、か。
それにしたって、なんで昼休みに?
「放課後まで待つんじゃだめだったの?」
「どうしても、学校が終わる前に調べておきたいことがありまして」
学校が終わる前に調べておきたいこと……つまり、学校じゃないとできないなにか。
……いや、違うな。学校でできることなら、別に放課後こっそり残ればいい。
学校自体じゃなくて……学校にいる誰かについて、調べるため? 放課後だと、その誰かは帰ってしまうかもしれないから。
「主様にも聞きたい話がありまして。なので、私だけが一方的に話しても意味がなく、お呼び申し上げたわけです」
「一方的……あ、さっきのあれどうやったのさ!」
ふと俺は、屋上に呼び出された経緯について思い出す。
耳元で久野市さんの声はしたけど、振り向いてもどこにも久野市さんの姿はなかったあれだ。
あのときは俺から返事をしても、応答がなかった。やっぱりあれは、会話できるものじゃなくて一方通行のものだったのか。
自惚れるわけじゃないけど、久野市さんが俺の呼びかけを無視するなんて考えにくかったし。
「あれは、忍術の一つです」
「忍術の一つ!?」
俺の疑問について、なんでもないように話す久野市さん。
それは忍術だ……と。
いや、あれ忍術なの!? 忍術の類いなの!? 忍術ってあれでしょ、火遁の術とか水遁の術とかってやつ!
あの会話術は忍術ってよりなんか……魔法って感じしたけど!
んーまあ、タネがわからない忍術って魔法みたいなもんだけどさ!
「自分の声を、対象に届ける。離れたところにいる相手に、言葉を届けることが可能なのです。
ただし、欠点が一つ。届けられるのは自分の声だけで、相手の声は聞こえません。それと一定の距離でしか効果は発揮されず、対象は一人に限定されます」
「欠点一つ以外にもあったけど」
まあ、それが欠点と呼べるものかどうかは別として。遠くの相手に声を届けられるものなら、あって然るべきの当然のデメリットな気がする。
デメリットというのもどうだろう。
「この術で会話をすることはできません。とはいえ、対象も同じ忍術を使えれば、お互いに声を届けて実質会話をすることは可能ですが」
自分の声を届けるだけ……というのでも充分すごいが、相手が同じ忍術を使えれば、実質会話をすることができるという。
それってつまり、俺も同じ忍術を使えるようになれば、久野市さんとあんな風に会話ができるってこと!?
忍術ってすげー!
「俺もその忍術使えるようになるのかな!?」
「もちろん。練習すれば誰でも使えるようになりますよ」
「おぉ!」
忍術とは、訓練すれば誰でも使えるようになる。
そう付け加えて、久野市さんはにっこりと笑った。
ってことは、俺も忍術を使えるように……!
「もしも所得したいのでしたら、私が付きっきりでご指導します。所得までに必要な年月はざっと五年ほどでしょうか」
「なげえ!!」
そんなうまい話はなかった。それも当然だよな。
なにをするにも、時間がかかるってことだ。
と、ここからだ本題の話は。
「ま、いいや……それで、本題。俺を呼んだ理由は?」
「はい」
俺が本題を口にすると、久野市さんのまとっていた空気が変わったような気がした。
思わず、背筋を正してしまう。
「今朝、主様がご友人と話していたことについてです」
「友人……ルアと火車さんのこと?」
「あの女はどうでもいいです。その、金髪の彼のことです」
話は、今朝の内容についてだという。火車さんはあっさりだった。
哀れな火車さん……
「ルアがどうかした? あ、ルアと話していたこと、か」
「はい。金髪の彼と、メッセージ交換をしたという女のことについてです」
久野市さん、思いの外話を聞いていたんだな。
それもそうか。久野市さんは耳が良い……俺たちの会話は聞き耳を立てていてもおかしくはない。
とはいえ……メッセージ交換をしたという女、というのは……
「美愛さんのこと?」
「名前は存じ上げませんが、そうです」
会話は聞いていたのに、名前には興味がないのか……とことんだなぁ。
初対面ですらない相手の名前を覚えろってのも、無茶な話だけど。
それにしても、美愛さん……篠原 美愛さんについてどうしたというのだろう。
朝なぜか怒っていたけど、それと関係あるのか?
「その方のことなのですが……詳しく教えてもらっても、いいですか?」
「へ?」
なぜか久野市さんは、美愛さんのことを教えてくれという。
どうしたんだ……久野市さんが誰かに興味を持つなんて、珍しいな。
なんだって、会ったこともない人のことを?
「教えてって言っても……俺も昨夜会っただけだから、そんなに知らないけど」
「えぇ、構いません」
俺も知っていることは少ないけど……逆に、これくらいのことなら個人情報気にしなくてもいいから、まあいいのかな。
……って、さっき調べたいことがあるって言ってたよな。そんで、美愛さんの名前を出した。
調べたいこと……いや人って、もしかして……
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