久野市さんは忍びたい

白い彗星

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第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!

第70話 女の、先輩?

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 結局、久野市さんを下の名前で呼ぶのかどうか問題はひとまず保留となった。
 保留と言っても、うまくはぐらかすつもりではいる。だって、女子を下の名前でとか、恥ずかしいじゃん。

 久野市さんは不服そうな顔をしていたが、「久野市さんだって俺のこと名前で呼ばないでしょ?」と言ったら「……それもそうですね」と返ってきた。

「とりあえず納得してくれたようでよかった」

 正直、「だったらこれからは主様のことは名前でお呼びしますね!」と言った言葉が返ってきたらどうしようかと思っていたが……
 それは、杞憂だったようだ。

 久野市さんの中では、俺はあくまでも主様というわけだ。
 校内に入り、靴を履き替えて教室へと向かう。

「おー、木葉おはよう」

「おはよう、ルア」

 教室に入ると、真っ先に俺に声をかけてくれるルアの姿が目に入った。
 ルアは座っていた椅子から腰を上げて、そのまま机に寄りかかった。

 ちなみに、ルアが座っていたのは俺の席だ。

「へへ、温めておきましたよっと」

「どうも」

 軽いやり取りを交わしながら、荷物を置いて俺は席に座る。
 久野市さんは、チラッと俺を見た後にそそくさと自分の席へと向かった。

 学校では、主様なんて呼ばれたらとんでもないことになる。だから自重してくれと頼んだわけだが……
 その結果、久野市さんの中では俺にはあまり話しかけないようにしたらしい。

 とはいえ、時折こちらをチラチラ見てくるのはやめてほしい。まるで捨てられた子犬みたいだ。

「なーなー木葉。俺さ、昨夜美愛みあさんと早速メッセージのやり取りしたんだ!」

「へ……お、おう、そうなのか」

 ルアは嬉しそうに、俺に話しかけてきた。
 美愛さん……とは誰のことかと思ったが、すぐに思い出す。昨夜コンビニで会った、篠原さんの娘さんだ。

 言っちゃ悪いが無愛想な人だった。篠原さんが言うには、同じ学校の先輩らしいけど。
 その先輩と、ルアはなんと連絡先を交換したのだ。

「メッセージのやり取りって、早速だな」

「まあな。言っても、今帰りましたとか学校で会ったらよろしくお願いしますとか、そんなんだけどな」

「ふぅん」

 初めて会った先輩……しかも女性相手に、よくもまあそこまで積極的になれるものだ。
 俺だって、今でこそ桜井さんと仲がいいが、初めて会った時はそりゃあ緊張しまくりだ。

 桜井さんが積極的に話しかけてくれたから、良い関係を築けた。
 嬉しかったが、男として情けない部分もある。

「で、先輩はなんて返してきたんだよ」

「ほれ、見てみ」

 ルアは自分のスマホを取り出して、俺に画面を見せる。
 昨夜やり取りをしたという、メッセージ画面だ。


『さっきはありがとうございました。今帰りました。先輩もですか?』

『うん』

『先輩と仲良くなれて、俺嬉しいです。これからも、メッセージとか送っていいですか?』

『別に、いいけど』

『やった。学校で会うことがあっても、話しかけたりしていいですか?』

『先輩? おーい、先輩? 寝ちゃいました?』

『せんぱーい?』


 めっちゃ淡白な返信しか来てないんだけど!
 初対面の相手に、しかも夜にこんなメッセージ送るルアもルアだけど、先輩も先輩だよ! 返事するにしても短すぎだろ!

 しかも最後のやつ既読のままスルーされてる!
 多分学校じゃ話しかけるなってことなんだろうけど、それにしたって返信しようよ!

 そしてこいつはどうしてこんな満足そうな顔を浮かべられるんだ!? ハート強すぎだろ!

「ルア、これ……」

「あぁー、途中で寝落ちしちまったのかな。夜遅かったもんな」

「超ポジティブ!」

 ルアのやつ、既読スルーされたことに気づいてないのか? 天然なのか? 本物なのか?

 しっかし……これ、先輩を怒らせたりしてないだろうな。
 学校で話しかけてくるんじゃねえよ、的な意味で。

「なあ、あんまりしつこくメッセージとか送らないほうがいいんじゃないか?」

「そうかな。俺なら、友達からメッセージ来たらめっちゃ嬉しいけど」

「いや、お前ならな。あと、程度の問題」

 そりゃあ、ルアの返信スピードは半端ないからな。よほど楽しみにしているのだというのがわかる。
 画面見てたら、メッセージが即既読になることはよくある。

 ただ、誰も彼もがルアのような性格ではない。
 あんまりしつこくメッセージを送ると、鬱陶しく思う人がいるかもしれない。

「ま、大丈夫だろ。嫌なら嫌って言ってくれるさ」

「……なんというか、ルアはすごいよな」

「え、なんだよ急にー、照れるー」

「褒めてない」

「よー、なんか盛り上がってんじゃん」

 照れるルアの表情をじっと観察していたが、第三者の声が割り込みそちらを見る。
 そこには、投稿してきた火車さんの姿。

「あ、紅葉おはよー」

「火車さん、おはよう」

「へい、おはよう。
 で、なにをそんなに盛り上がってんだよ?」

 最近、火車さんの馴れ馴れしさが増してきた気がする。
 というか、学校でもわりと本性を見せるようになってきた気がする。

 もちろん、殺し屋がどうとかいう話はしないが。

「あぁ、ルアが昨日知り合った女の先輩と、メッセージ交換したってだけの話」

「だけってのはひどいなー」

「へぇ、そう…………女の、先輩?」

 俺も、人ともう少し積極的に関わるために……ルアの積極さを見習ったほうがいいのだろうか?
 いや、でもなぁ……どうしたもんか。
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