68 / 84
第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!
第67話 瀬戸原くんが言っていた通りの子ね
しおりを挟む「まあー、お世話になっている親戚の子に、プレゼントを? それはとてもいいことね」
「あはは、まあ一応は」
桃井さんに手料理のお礼を振る舞い、桃井さんと一緒に久野市さんへのプレゼントを買いに行き、そして久野市さんにプレゼントを渡して喜んでもらえて……
その日の夜。俺はコンビニバイトのシフトに入っていた。
レジに並ぶのは、俺ともう一人。
篠原さんだ。気のいい人で、バイトを始めたばかりの俺にも気さくに話しかけてくれた。
どうやら俺と同じくらいの娘がいるらしい。
今では、こうしてプライベートもある程度話せるくらいに心を許している人だ。
「それにしても、瀬戸原くんの親戚の子が、同じアパートのしかも隣に引っ越してくるなんてねぇ」
「び、びっくりですよねぇ」
ちなみに、この親戚のこというのは久野市さんのことだ。
というのも、以前俺と久野市さんが一緒に歩いている所を、篠原さんに見られていたらしいのだ。
彼女か彼女かと詰め寄ってくる篠原さんに、俺はとっさに親戚の子だと話してしまったわけで。
正直に「彼女はくノ一で俺の命を守りに来たんですよぉ」なんて言っても信じては貰えないだろう。
「やたらかわいい子だったわねぇ。これは香織ちゃんも、うかうかしていられないわね」
「? 桃井さんがどうかしました?」
「なんでもないわ」
24時間営業のコンビニは、朝でも昼でも夜でも……一定の利用客層はいる。
だから、こうして話をする時間もあればお客さんの対応に追われるときもある。
今日も今日とて、忙しいようなそうでもないような時間を過ごしていた……
「いらっしゃいませ……」
「お、木葉じゃん」
扉の開く動作に反応して、店内に音楽が流れる。
お客さんが入店してきたことが分かり、お決まりの挨拶を言うと……その人物は、俺の名前を呼んだ。
とっさにその人物を見る。見慣れた金髪のツンツン頭。
そもそも俺のことを下の名前で呼び捨てにするのは、一人だ。
「ルア」
「よう」
そこにいたのは、クラスメイトの神崎 ルアだった。
彼はレジに立つ俺に手を上げ、他にお客さんがいないのを確認してから近寄ってきた。
「なんだ木葉、コンビニでバイトしているとは聞いてたけど、ここだったんだな」
「ま、場所までは言ってなかったからな。
ルアはこんな時間に、どうしたんだ? 家この辺りじゃないだろ?」
「夜の散歩ってやつさ。たまには、別のコンビニに入ってみようってな」
あははと笑うルアは、夜でも昼とは変わらない。
金髪に染めていると思われがちだが、これは地毛だ。両親が日本人と外国人のハーフで、日本生まれの日本育ち。
そんな彼は、高校で一人だった俺に最初に話しかけてくれた。
火車さんと同じ、俺にとって高校での特別な存在だ。
まあ火車さんは、俺に近づくために話しかけてきたのかもしれないが。
「あら、瀬戸原くんのお友達?」
俺たちの会話を聞いていた篠原さんが、俺とルアを交互に見る。
その視線に気付いて、ルアは小さくお辞儀をした。
「はじめまして。木葉のクラスメイトで親友の、神崎 ルアです」
「あらあらまあまあ」
ルアの真っ直ぐな自己紹介に、篠原さんは口元に手を当てて俺はとんでもなく恥ずかしくなる。
クラスメイトなのはともかく、親友て……ルアとは、高校に入ってからの付き合いだ。だから、まだ数ヶ月の付き合いでしかないのに。
し、親友て……
「あらら、瀬戸原くん顔が真っ赤よ?」
「なっ……そ、そんなことないです!
ルアも、親友とか恥ずかしいこと言うなよ!」
「え……恥ずかしかったか、ごめん」
照れ隠しにルアに指摘をするが、それを受けたルアは思いのほかしょげ表情を浮かべる。
眉を下げ、まるで飼い主に捨てられた小犬のよう。
耳が生えていたら間違いなく垂れ下がっている。
こ、こういうやつなんだよ……こういうところあるんだよ……
「あ、謝んなよ。悪かった……うん、し、親友だから」
「木葉……!」
途端に、ルアは表情を明るくする。
くっ、眩しい……そして恥ずかしい!
篠原さんがどんな顔をしているのか、見たくない! なんか温かいものをみるような視線を感じるけど、見たくない。
「神崎 ルアくんね。瀬戸原くんが言っていた通りの子ね」
「篠原さん!?」
「ん、木葉は俺のことなんか言ってたんですか?」
「えぇ。いつも明るくて、楽しませてくれて、助けられてて、一番のとも……」
「わーわー!」
篠原さんなにぶっちゃけてんの!?
そんなの本人に聞かれるとか……死ねるんだが!
いっそ殺してくれ!
「木葉……」
「やめろ! そんなキラキラした目で見るな!」
篠原さんに行ったことは嘘ではない。嘘ではないけど……
本人に聞かれるのは、なんか違うじゃん!
このままではいらないことまで吹き込まれてしまいそうだ。誰か助けて!
「! い、いらっしゃいませ!」
俺の願いが通じたのか、店の扉が開く。
お客さんが来たのがわかり、俺はいつもよりも大きな声で挨拶をする。
仕事が残っているから、ルアにはとっとと用事を済ませて帰ってもらいたい!
そう、思っていると……
「あら、美愛じゃない」
と、篠原さんが声を漏らした。
「! 篠原さん、知り合いですか?」
「えぇ。私のかわいい娘よ」
「……ども」
店内に入ってきたのは……まさかの、篠原さんの娘さんだった。
ジャージ姿に身を包んだ、俺と同い年くらいの女子。薄めの栗色の髪をツインテールにした、猫みたいに大きな目がきりっとしているのが印象的だ。
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない
七星点灯
青春
雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。
彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。
しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。
彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!
本町絢 外伝 絢と僕の留メ具の掛け違い・・そして
すんのはじめ
青春
絢と僕の留めメ具の掛け違い・・そして の本町絢の気持ちを綴った物語
水島基君、私の小学校3年のときから、ずーと同級生で席も隣が多かった。あることが、きっかけで私は彼のことを意識し始めて、それから彼の後ろを追いかけて・・ すれ違いもあったけど、彼の夢と私の夢を叶えるため、私は決心した。そして
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる