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第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!
第66話 なんだか勝手に、涙が出てきて……
しおりを挟むその後、勘違いをした久野市さんの誤解を解くのにしばらくかかってしまった。
勘違いさせた犯人である火車さんは、にやにやと笑ったままだったけど。この野郎。
ただ、誤解を解くにも『男女の大切な話』をどう説明すればいいかわからず……下手な言い訳はなんだか逆効果な気がした。
だから……
「その……これを、買いに行くのに桃井さんや火車さんに、協力してもらってたんだよ」
「……これ、ですか?」
俺は、先ほど買ってきたばかりの小包に包まれた品を、鞄から取り出した。
本当は、もっといいシチュエーションで渡したかったんだけど……いや、いいシチュエーションってなんだ?
なにをどう考えても、結局渡すことには違いない。
ならば、久野市さんに変な勘違いをさせたままよりも、今この場で説明と同時に渡してしまった方がいいだろう。
俺は、小包を久野市さんへと差し出す。
「……?」
しかし久野市さんは、きょとんとした様子で首を傾げるばかり。
「あ、その……プレゼント、だよ」
「えっと……ぷれ、ぜんと? 誰が、誰に?」
「俺が、久野市さんに」
俺の言葉をしばらく噛みしめるかのように黙りこくっていた久野市さん……
しかしやがて、その言葉の意味を理解したらしく、小包と俺とを交互に見ている。
それから、顔が赤くなっていったように見えた。
「あ、ああ、あ、主様がわ、わた、私に、ですか?」
「そう」
まさか自分へのプレゼントだとは思っていなかったのか、久野市さんはひどく慌てた様子だ。
なんとも新鮮な姿に、自然と頬が緩んでいくのを感じる。
ただ、ちゃんと返事を返せているのか。変な顔をしていないのか。自分ではよくわからない。
「え、えぇえ……い、いただいて、よ、よろしいんですか?」
「そりゃ、そのために買ったんだから」
俺の許可を取るようにして、久野市さんは恐る恐ると手を伸ばす。
そして俺の手のひらに乗せられている小包を、そっと手に取った。
まるで腫れ物を扱うかのように、そっと自分の胸元へと持っていく。
「あ、開けてみても?」
「うん」
またも俺の許可を取り、久野市さんは小包を開けていく。
包みを破ってしまわないように。丁寧に、慎重に。リボンで結んであるため、まずはそれを解く。
どれほどの時間をかけてか、小包を開け終えた久野市さんは、中から品物を取り出す。
「わぁ……これ、香水、というやつですよね? てれびで見ました」
「そうだよ。オレンジの香りがするんだって」
俺がプレゼントとして買った、香水。
それをまじまじと見つめる久野市さん。どうやら、香水の存在は知っていたようだ。
大切に持って見つめているのは、入れ物が小瓶だから……という理由以外にもありそうだった。
もしもそれが、俺があげたものだから……と、うぬぼれてしまいそうになる。
「オレンジの……私の、好きな香り」
「久野市さんにはいろいろお世話になってるからさ。なにか、お礼をしたいなって思ってて。それを選んだんだ。
とはいっても、なにを送ればいいかはわからなかったから、桃井さんにアドバイスをもらったんだけど」
「……」
「あ、そのために今日アタシがお前を連れ出したんだ。なんでアタシが誘うのかって聞いてきたが、誰がてめえを好き好んで誘うかよ」
香水をまじまじと見ている久野市さんに、今日桜井さんと一緒にいた理由、火車さんが久野市さんを誘った理由を話す。
まさか、こんなにも正直に話すはめになるとは。恥ずかしい。
プレゼントを渡すにしても、もっとこう、ムードとか……あぁ、俺こういうの慣れてないんだよなぁ。
それにさっきから久野市さん喋らないし。
恐る恐る、久野市さんの表情を見てみると……ボロボロと、目からは涙を流していた。
「え、あ、え!? く、久野市さん!?」
まさか泣かれるとは思っていなかったので、俺は慌ててしまう。
自分の中から、血の気が失せていくのがわかる。
こ、香水が気に入らなかったかな! それとも、プレゼントなんて気持ち悪かったかな!
「あー、木葉っちが泣かせたー」
「や、やっぱり俺!?」
ニヤニヤと笑う火車さんの言葉は、俺の中の焦りをさらに大きくされる。
同じ女の子である火車さんに言われたことで、俺はなにかとんでもないことをしてしまったのでは、という感覚に陥る。
「ち、違います」
しかし、その焦りはほかならぬ久野市さんの言葉でかき消えた。
「え……ち、違う?」
「は、はい。その……う、嬉しくて……なのに……
すみません、なんだか勝手に、涙が出てきて……」
流れる涙を拭い、久野市さんは答える。その涙の理由を。
ただ、久野市さんにも正確にはわかっていないようだったが……彼女の言葉を整理すると、こうだろう。
嬉しくて、涙が出てくる。けれど、なんで嬉しいのに涙が出てくのかはわからない。
「そ、そっか」
とにかく、この涙は悲しみとかそういうのじゃないとわかって、俺は安心した。
ただ……プレゼントして泣かれるってのは、なんというかむず痒いな。
でもま、喜んでくれているのならそれは、とても嬉しいことだ。
「主様、私のためにこんな……っ、あ、ありがとうございますぅ!」
「おわぁ!?」
ただ、次の瞬間に久野市さんに抱きしめられてしまい、俺の中の嬉しさは吹っ飛んでいった。
いや、吹っ飛んだというより別の嬉しさにすり替わったと言うか……
さ、さすが忍び……気がついた時には、すでに抱きしめられて!?
うわぁ、柔らかいしあたたかいし……
「……」
「ぅっ」
そんな俺たちを、火車さんは終始ニヤニヤした表情で見ていた。
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