久野市さんは忍びたい

白い彗星

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第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!

第55話 香織っちとちゅーしちまえ!

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「週末、作戦を決行しようと思う」

「おー、がんばれ」

「軽い! もうちょい興味持って!」

 翌日、学校、昼休み……俺は、ルアと火車さんと机を囲み、弁当をつついていた。
 ちなみに中身は、昨日作ったオムライスの残りだ。あのあと、焦げてないの作りたくて再度トライしたら、こうなった。

 最初に作ったものよりは、具合はいいと思う。これなら、桃井さんにも喜んでもらえる……はず。

「いや、作りゃいいじゃん、振る舞えばいいじゃん。わざわざ報告するようなことか?」

「そりゃ、そうだけど……」

「それに、作戦ってなんかあるのか?」

「……家に呼んで、ごちそうする?」

「それは作戦とは言わない」

 ……そうなんだよなぁ。考えてみたら、オムライスを作ることに夢中で……そこに至るまでの流れを、考えていなかった。
 いや、手料理を振る舞う以上、俺か桃井さんか、どちらかの部屋に行くしかないわけで。そこで、手料理を作る。

 だが、桃井さんの部屋に入り、桃井さんの部屋のキッチンで、桃井さんために料理を作る。
 これってなんか……すごくなんか、アレじゃない!?

 かといって、俺の部屋に招いたとしよう。そこで、料理を作る。するとどうなる。
 隣の部屋のく久野市さんが、においにつられてやって来るかもしれない。
 二人きりで感謝の気持ちを伝えたいのに、二人きりになれない。それどころか、面倒なことになりかねない。

『こ、この間のオムライス……その女に振る舞うために、私を実験台にしたんですね! よよよ……ひどいです主様、殺します』

『私のためとか言って、別の女の子に手料理を振る舞っていたなんて……見境がないのね。見損なったわ、死んで』

 そう、たとえばこんな風に……
 ……いや、さすがにこれは考えすぎか。

 少し前に、命を狙われたせいか、物騒な考えが浮かぶようになってしまった。

「……どうしたんだよ、さっきから顔色が変わりまくってるぞ。百面相か?」

 ルアはあきれたような顔を浮かべながら、俺の弁当箱からオムライスを取る。あ、このやろっ。
 それをもぐもぐと咀嚼し、ごくんと飲みこむ。

「ふんふん……悪くないと思うぞ。これで作りたてなら、もっとうまいだろう」

「ほ、本当か?」

「あ、じゃあウチも」

「あ」

 続いて、火車さんにもオムライスを奪われてしまう。
 さっきから静かだと思っていたら、オムライスを奪う隙を狙っていたのか。

 昼飯の時間に、弁当のおかずを交換し合う……なんでもない、ありふれた時間。
 まさかそれを、殺し屋だった火車さんとすることになるとは、思わなかったけど。

 俺もなんか奪ってやろうかな。

「んん、ま、悪くねえんじゃねえの。まずくはねえがうまくもねえ」

「殴るよ?」

 人の弁当から奪っておいて、言うに事を欠いてそれか。
 火車さんは、けろっとした表情だ。たとえ俺が本気で殴りかかっても、彼女には当たらないだろうな。

「ふふっ」

「! あんだよ」

 ふと、ルアが笑った。視線は火車さんだ。
 それを受けて、火車さんは不機嫌そうに、眉を寄せる。もう、口が悪いのを隠そうともしていない。
 やはり、こちらが素なのだろうか。

 そんな火車さんを見て、ルアは俺の弁当箱を指差した。

「いや、間接キスだなと思って」

「はぁ? ……っ」

 指摘され、指先を追い……火車さんは、固まった。その際、ごくん、とオムライスを飲みこんで。
 ルアが指摘したのは、オムライス……食べかけの、オムライスだ。

 今、火車さんはオムライスを割って食べた。その場所は、直前にルアが食べた場所だ。
 これは……しかし、間接キスと言えるのか? たとえばルアがオムライスを箸でつまんで、あーんでもしたなら間接キスになるだろうが。

 食べかけの部分を割り、食べた。それを間接キスと呼んでいたら、世の中間接キスだらけだ。
 これなら、ルアとの間接キスじゃなくて、俺との間接キス……

「あ、もしかして俺のことか」

「そうそう」

 なんだ、てっきりルアが自分のことを言っているのかと。
 どうやら、俺のことだったようだ。

 しかし、高校生にもなって間接キスくらいで……とは思う。しかし、だ。
 火車さんは昨日、ルアにキスされている。頬に、だが。

 だから、キスというものに敏感になってしまっている。見ろ、顔が赤い。

「っ、はっ、間接キスがなんだってんだよ!」

「お」

 そんな火車さんは、どうやら平常心を保ったらしい。
 そうだよな、さすがにこれくらいで取り乱さないよな。

「昨日はすごかったけど」

「! う、うるせえ! あんなの、不意打ちだったからだ! ウチがき、ちゅーの一つや二つで、動揺するように見えんのかよ!」

「うん」

 とはいえ、昨日のキスが尾を引いているのは確かだ。いつもならもっと近いルアに、今日は距離を取っているように見える。
 なんかこういうの、新鮮だな。

 てか、今キスじゃなくてちゅーって言ったな。
 なにそれかわいい。

「と、とにかくだ! 木葉っちは、そのオムライスをごちそうすればいいじゃねえか! そんでもって、香織っちとちゅーしちまえ!」

「なんでそうなる!?」

 オムライスはごちそうする、でもキスはしないよ!?
 桃井さんとそんな……で、できるわけないだろう!

「はっ、木葉っちも真っ赤じゃねえか」

「こいつ……」

「あっははは、二人とも真っ赤っかだ」

「「なってない」」

 キス云々はともかくとして。二人に話をしたことで、覚悟も決まった。
 決行は週末、場所は……まああとで考える!

 ちなみに、話をしている間、視界の端に見えていた久野市さんがちらちらとこちらを見ていたのが、気になった。
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