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第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!
第49話 大切なのは気持ちだよ
しおりを挟む「うーん……」
「どうしたんだよ木葉」
日々の感謝を伝えるため、桃井さんに手料理を振る舞うことを決めた俺。しかし、口で言うのは簡単だがなかなか難しいものがある。
作るからには、桃井さんの好物をごちそうしたい。しかし、俺は桃井さんの好きなものを知らない。
好きなものどころか、嫌いなものを出してしまったら。桃井さんは優しいから、たとえ嫌いなものが出ても食べてくれるだろう。だけど、そんなことにはしたくはない。
うーんうーんと頭を悩ませているところ、話しかけてきたのはルアだ。
「朝から悩み事かい?」
「まあ、ちょっとな……
なあルア、女の人に料理を振る舞った経験ってある?」
「あるヨー」
椅子にもたれ、落ちないように椅子を傾けてプラプラしつつ、なんとなくルアに聞いてみた。
すると、返って来た答えは予想外のものだった。危うくバランスを崩してしまいそうになるが、倒れる前に机を掴み、体勢を立て直す。
……神崎 ルア。学校での俺の一番の男友達。金髪のツンツン頭で、よく笑っているのが印象的だ。ちなみに地毛だ。
爽やかで嫌味がなく、上京してきたばかりの俺にも気さくに話しかけてくれた。
「えぇ……あるのか、そうか……
あ、母親とか、身内相手にってオチはなしだからな!」
「母さんは常に世界中飛び回ってるから、料理を振る舞うどころか正直あんまり記憶がないんだよね。一人っ子だから姉妹もいないし……
って、どしたの木葉」
「いや……なんかごめん」
父親が日本人で、母親が外国人であるというルア。母親がなんの仕事をしているのか、実はルアもよくわかっていないらしいが、世界中を飛び回っているらしい。
本人はあっさりと言っているが、実は結構気にしていることなのかもしれない。
「別に謝ることなんてないけど……ま、その話はいいじゃん」
「あ、あぁ、うん……
こほん。で、女の人に料理を振る舞ったことがあるって?」
「あぁ。幼馴染のお姉さんがいるんだけど、その人に何度かね」
ここで、ルアが異性に料理を振る舞ったことがあるということがわかった……ルアはこういうことで嘘をつく奴では、ないしな。
そういう経験があるのなら、なんらかのヒントになるのでは、と考えたわけだが。
「それを聞いてくるってことは、木葉、手料理を振る舞いたい相手がいるんだ? ふぅん」
「……なんだよその笑顔は」
「べぇつに」
ここで、それは違う、と反論しても意味のないことだ。だって事実なんだし。
この手の話題を出した時点で俺がそう考えているのはわかってしまうし。考えてもいないことを話題には挙げない。
また、ここで恥ずかしさとかを感じるなら、そもそも人に聞くなって話だ。
「まあ、そうなんだけどさ……お、お礼! 日々のお礼でって意味だから!」
「? 料理を振る舞いたいんだろ? なら別に意味とか関係なくないか?」
「……そう、だな」
別に俺がどういう意味で考えていたとしても、料理を振る舞いたいという気持ちが変わるわけではないのだ。この部分で焦っても仕方ない。
ルアは真摯に会話をしてくれている。なら俺も、話を前に進めよう。
「それで、日々のお礼で感謝の気持ちを伝えたい……そのために料理だ、と」
「あぁ……バイト先の人に、アドバイスをもらって。
結果的に、手料理がいいんじゃないかってな」
「なぁるほど」
俺の説明を受け、ルアは合点がいったとばかりに頷いた。
ちょっと気恥ずかしいが、ここは我慢だ我慢。
俺が聞きたいのは、ルアの経験談だ。
「それで、異性に料理を振る舞った時って……どんな感じ?」
「うーむ、どんな、と言われてもなぁ……
オレはその人に料理とか教わって、ある程度できるようになった頃に、感謝の気持ちを込めて振る舞ったからなぁ。ただ一生懸命だったというか」
「お、おぉ……」
なんか、思っていた以上にすごいエピソードが出てきたな。
その人に料理を習って、いわゆる初料理をその人に振る舞ったのか! なんかすごい!
俺が初めて料理を振る舞ったのはじいちゃんだったからなぁ。そりゃ、じいちゃんがおいしいと言いながら食べてくれたことは、嬉しかったけどさ。
「ま、大切なのは気持ちだよ。感謝の気持ちがあれば、ちゃんと伝わる」
「ルア……」
気持ちがあれば伝わる……か。それはその通りかもしれないな。
桃井さんにお礼の気持ちを伝えたいって気持ちは嘘じゃないし、なんかなんとかなる気がしてきたかも!
「おっはー木葉っちルアっちー、なんの話してんの?」
「あ、紅葉。おはよう」
俺たちに向けて、挨拶をしてくるのは今教室に入ってきた、火車さんだ。
ひらひらと手を振りながら、以前と変わりない笑顔を浮かべている。あんなことがあってまったく変わらないってのも、すごいな。
それから火車さんは、自分の席に荷物を置いてから、俺たちの近くに歩み寄ってきて……
「あの女は一緒じゃないのかよ?」
と、俺に耳打ちをしてきた。
あの女とは、久野市さんのことだろう。
「久野市さんなら、クラスの女子に連れられてどっか行っちゃったよ」
「ふーん、木葉っちにべったりだったから、着いて離れないと思ってたのに」
「学校じゃ自重してくれってお願いしてるからね」
久野市さんは、ただでさえ転入生だというのに、あの見た目だ。どこに居たって人の目を惹く。
そんな彼女が、家での様子と同じく俺につきっきりでは、あらぬ噂を立てられてしまう。
彼女には、なんとか説得して納得してもらったものだ。
「二人とも、どうしたの?」
「別に。それより、なんの話してたのさ」
「あぁ。木葉が、お世話になってる女の人に、手料理を振る舞いたいんだってさ」
「ちょっ……」
俺と火車さんの関係を、ルアは知らない。殺し屋と殺されそうになった関係、なんて言えないよな。
火車さんはそのあたりさらっと流している。さすがだ。
ただ、そうやって感心しているうちに、先ほどの話の内容をばらされてしまった。
別に、火車さんにバレても桃井さんに話が伝わるわけではないから、隠す必要はないんだけど……
「女の人にねぇ……ふぅん……」
ニタニタと笑う火車さんの顔が、少々癪に障る。
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