45 / 84
第一章 現代くノ一、ただいま参上です!
第44話 忍びと殺し屋
しおりを挟む「なあなあ、あの子めっちゃかわいくね」
「彼氏とかいんのかなぁ、なあ聞いてこいよ」
「お前が行けよ」
転入生の性、とでも言うべき事態。それがまさか、目の前で起こるなんて、考えたことがなかった。
転入生として教室に現れた久野市さん。その見た目のよさから、あっという間に男子の視線を釘付けにしてしまった。
そして、それを察した女子たち。まるで久野市さんを男子から守るように、ホームルームが終わるや彼女の席の周りを囲った。
俺とは席が離れている。近くに居たらぼろが出そうだし、よかったが。
女子たちがいるため、男子は遠巻きに久野市さんを見つめることしかできない。それでも、クラスの明るい奴……いわゆる陽キャは、構わず話しかけにチャレンジしているわけで。
「はぁあ、すごい人気だねぇ久野市さん。木葉は興味ないの?」
久野市さんの周辺を見物しつつ、ルアは俺に話しかけてくる。ルアも当然久野市さんのに興味はあるようだが、話し相手は俺だ。
「……転入生には興味あるよ。そういうルアこそ」
「オレも興味があるけど、オレは木葉と話している方が楽しいからさ」
「ルア……」
「男同士のキモい雰囲気やめてくんない」
俺とルアの会話を聞いていた火車さん。彼女も久野市さんの側にはいかず、俺たちの近くにいる。
火車さんが、久野市さんに近づきたくないのはまあわかる。俺が止めなければ、久野市さんは火車さんを害して……いや、殺していたのかもしれないのだから。
その火車さんが、なんで普通に教室にいるのかも、久野市さんが転入してきたのと同じくらいに気になっている。
そんな俺の気持ちを、察したのかはわからないが……
「ま、話は後でな」
「え、なになに?」
「なんでもねー」
話は後で、と俺に告げる。ルアからしてみれば、訳のわからない言葉だろうが、ありのままを話すわけにもいかない。
久野市さんとも、話せそうにないし……ていうか久野市さん、口を滑らして俺との関係を話さないでくれよ?
そしてこちらも、そんな俺の気持ちを、察したのかはわからないが……
「……ふふ」
ふとこっちを見て、うっすらと微笑んだ。
「! おい、今俺に微笑んだぞ!」
「バッカ俺だよ!」
「いーやおいどんだ!」
多分、久野市さんの笑顔は俺に向けられたもの……しかし、そうとは知らない、久野市さんの笑顔の直線上にいた男子は、自分に笑顔を向けられたのだと湧き立つ。
というか、俺も思わず声を上げそうになった。なんだよあれ、卑怯だろ。いつもアホみたいな言動や行動ばっかだったじゃないか。
なのに、なんだあの、清楚な感じ! 黙ってれば、まるでどこかのお嬢様だ!
「今、こっちに微笑みかけなかった? 久野市さん」
「あははは、どうだろうな」
いまいちピンと来ていないルア。助かった……が。
久野市さんよぉ、そういう思わせぶりなことはやめてくれ!
今すぐにでも、この学校に……それもこのクラスに来た理由を、聞きだしたい!
でも、他の男子も近づけない中で、俺だけ話しかけにいくのも変だし、話の内容が内容だけに人前では話せない。
かといって、どこかへ連れ出すわけにもいかない。どうすりゃいいのこれ。
救いがあったとすれば、久野市さんから俺に向かって「主様」や「木葉さん」と呼びかけながら来なかったことだ。
主様呼びはもちろんのこと、木葉さんなんて親し気に呼ばれては、クラスの連中から根掘り葉掘り聞かれるに違いない。
その危険を、久野市さんは考えて……くれているのはわからないけど、おかげで彼女との関係性は秘密にしておける。
「ほら席つけ、授業始めるぞ」
その後、授業が始めるチャイムが鳴る。いつも通り授業を受けるが、やはり美少女転入生の存在にみんな過敏になっているのか、なんか教室内がざわざわしていた。
それと、久野市さんがまだ教科書がないからって隣の男子に教科書を見せてもらっているときは、隣の男子がかわいそうになるくらいに殺意がびんびんだった。
授業と授業の合間の休憩時間、そして昼休憩……女子たちが久野市さんを囲んでいたことで近づくことはできなかった。
とはいえ、それも学校の中での話……学校が終われば、俺と話をする時間ができる。
「久野市さん、一緒に帰ろー」
「いやいや、久野市さん部活入らないの? ウチ入らない?」
「ごめんなさい、私今日、早く帰らないといけなくて」
放課後になると、やはり女子に囲まれていた久野市さんだが、それらをさらりとかわす。早く帰る……それはつまり、久野市さんも俺と話をしたいと思っているのか。
ならば俺も、帰るとするか。
「ルア、今日は早めにバイトあるから、俺帰るわ」
「あ、そうなの? じゃあ紅葉、一緒に……」
「悪い、帰り道に火車さんに話あるから! じゃーなー!」
久野市さん、そして火車さんから話を聞く。なので、火車さんにも一緒にご帰宅願う。彼女を引っ張り、教室を出る。
ちなみに、早めのバイトというのは自然に早く帰るための嘘だ。
「いやん、木葉っちってばだいたーん」
「やかましいよ」
火車さんも、理由はわかっているだろうに、からかうようなことを言ってくる。
それから俺たちは、足早に帰宅して……アパートに着くと、一足先に戻っていた久野市さんが、アパートの前に立っていた。
「! 主様!」
別に約束していたわけではないが、彼女を待たせてしまっていた。俺を見て表情が明るくなった姿に、ちょっと罪悪感。
「久野市さん、待たせてごめ……」
「主様主様ぁ!」
すると、久野市さんは俺に飛びついてくる。まるで待てでお預けをくらっていた犬みたいに。
「おわっ!?」
「私、寂しかったんですよ! 主様の姿を確認したのに、声をかけることも近づくことも我慢して!
でも、初日から主様に話しかけては、ご迷惑になってしまうと、香織さんが言うからぁ!」
我慢……俺に対して、我慢していたのか。そしてその理由が、桃井さんにある。
転入初日の美少女が、自ら異性に話しかける……これにより起こる可能性を危惧し、桃井さんは先手を打っておいてくれたわけか。
マジで助かった。それがなければ、どうなっていたか。
というか、桃井さんは久野市さんが俺の学校に転入してくるって知って……るか、当然。一緒に住んでたんだから、そういう話をすることもあるだろうし、そうでなくても今朝なら制服を見る機会もあっただろう。
「ちょっとちょっと、ウチを置いてイチャイチャしないでくんない?」
「いっ……まあ、なんだその、とりあえず……」
「?」
「いろいろ、聞きたいことがありすぎてね……まずは、部屋に行こう」
このまま外で騒いでいるわけにはいかないし、外でする話でもない。一旦は、俺の部屋にでも入ろう。
久野市さんが転入してきた理由、火車さんが普通に登校してきた理由……聞きたいことは山ほどだ。
まったく、おかしなことになったものだ。俺のことを守りに来たという、忍びの久野市さん。そして、一度は俺の命を狙った、殺し屋の火車さん。
この二人と、同じ学校に通うことになる……この先、俺の生活はいったい、どうなっていくのだろうか?
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。
女子高生は小悪魔だ~教師のボクはこんな毎日送ってます
藤 ゆう
青春
ボクはある私立女子高の体育教師。大学をでて、初めての赴任だった。
「男子がいないからなぁ、ブリっ子もしないし、かなり地がでるぞ…おまえ食われるなよ(笑)」
先輩に聞いていたから少しは身構えていたけれど…
色んな(笑)事件がまきおこる。
どこもこんなものなのか?
新米のボクにはわからないけれど、ついにスタートした可愛い小悪魔たちとの毎日。
学校一のモテ男がドS美少女に包囲されているらしい
無地
青春
容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群。あらゆるモテ要素を凝縮した男、朝日空(あさひそら)。彼が道を歩けば、女子は黄色い声援を浴びせ、下駄箱にはいつも大量のラブレター。放課後は彼に告白する女子の行列が出来る……そんな最強モテライフを送っていた空はある日、孤高の美少女、心和瑞月(こよりみづき)に屋上へ呼び出される。いつも通り適当に振ろうと屋上へ向かう空だったが……?!
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる