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第一章 現代くノ一、ただいま参上です!
第33話 こいつ、意思があるんですか!?
しおりを挟む「お、おぉー……なんか、いろいろキラキラしてます!」
デパート内部に足を踏み入れた俺たち、というか久野市さんは、その場で固まってしまっていた。
なぜかは、今彼女本人が言っている通りだ。あまりにキラキラした内装に、足が止まってしまったのだ。
久野市さんがまず驚いたのが、自動ドアの存在。俺はもう慣れたもんだし、普通に暮らしている人たちにとっては当たり前の光景なのだろうが、その名の通りドアに近づくと自動に開くのだ。
それは、なんか不思議な力が働いているのか、と驚いたもんだ。
実際には、人を感知させるセンサー的なのが働いているらしい。まあ、説明されたところで俺にとっては、不思議な力であることに変わりはない。
いや、俺だけではない。
『!? と、扉が勝手に!? こいつ、意思があるんですか!?』
『お、落ち着いて忍ちゃん! 自動ドアだから、センターで反応して開いてるだけだから!』
『ジドウ? センター? 訳のわからないことを……!』
と、そんな不毛なやり取りが先ほどまで行われていた。自動ドアの側で変なやり取りをしていた俺たちは、不審者感丸出しだっただろう。
ていうか、警備員さんこっち見てたからね。もうちょっとしたら話しかけられてたよ絶対。
そんで、自動ドアエリアを抜けて。店内に足を踏み入れた瞬間、久野市さんは固まってしまった。
店内にあるあちこちのものが……というか店内が光り輝いているのだ。
「……木葉くん、木葉くんの村ってどんなところなの?」
「あはは……」
久野市さんの様子に、桃井さんは若干引き気味だ。
いくら田舎に住んでいたからって、ここまでの反応を示すものなのか……といった疑問だ。俺はただ、苦笑いをこぼすことしかできない。
今の久野市さんを見て、他人事とは思えなかったから。さすがにあそこまではしゃいでないけどね!?
「あ、あっち! あっちから食べ物のにおいがします!」
「はいはい、服売ってるのはここじゃないから。行くぞー」
「あぁん引っ張らないでぇ!」
一階は食品コーナーが主なエリアだ。そのにおいを嗅ぎ取ったのだろう、久野市さんはどこかへと歩き出そうとする。野生動物かよ。
これ以上時間を無駄にできないので、久野市さんの襟首を掴み……たいところだったが、この服は桃井さんのものなのでやめて。
普通に手首を引っ張って、移動する。
……後になって気づいたが、俺はなに女の子の手を普通に取っているのだろう。
「わわ、この階段、動きますよ! なにこれ、お、落ちるぅ!」
「エレベーターだよ。手すりに掴まってれば落ちないから、落ち着いて」
「……一応訂正しとくね。エレベーターじゃなくてエスカレーター」
「!」
さすがデパートと言うべきだろう、まず階層がたくさんある。このビルは六階立てで、服屋は二階以降にある。
しかも、服屋の数は一つ二つどころではない。一つの階に最低二つは存在している。服なんてどれも同じじゃないかと思ったが、どうやらブランドやらメーカーやらによって種類が違うようだ。
正直な話、俺は自分の服にそんなに執着はないので、とりあえず安い店で買うことにしている。
人によってはブランドにこだわりがあったりするため、これだけの服屋が並んでいるのは根強い人気によるものなのだろう。
「わぁ、服がいっぱい……こ、こんなにたくさん!」
「どう? 服には興味ないって言ってたけど、興味出てきたんじゃない?」
「うぬぬ……」
とりあえず近くにある服屋に向かう。マネキンに着せられている服、ハンガーにかけられ並べられた服を見て、久野市さんは目を輝かせていた。
そんな久野市さんを見て、桃井さんは妙に楽しそうだ。
今の久野市さんを見ていると、とてもあの痴女服のみで満足していた子と同じだとは思えないな。
「どんな女の子でも、おしゃれに着飾りたいって気持ちに嘘はつけないわよ」
桃井さんが言うには、こういうことらしい。久野市さんも、たくさんの服を見ておしゃれ心に目覚めたのか。
本人は肯定こそしないものの、否定もしない。むしろさっきからチラチラ服を見ている。
「ま、見てばっかなのもなんだし、中に入ってみよう」
「は、はい!」
まだ入り口に立ったばかり。果たしてこの調子で大丈夫だろうかという思いになりつつ、俺たちは足を踏み入れた。
服屋の中と外とで、別に敷居などで仕切られているわけではない。だが、服屋へと足を踏み入れた瞬間、まるで世界が変わったように感じた。
右を見ても左を見ても、服、服、服。たくさんの服に囲まれている。
それに、ほのかに衣類のにおいがする。他のお客さんや店員さんが移動しており、人通りも多い。
「さ、こっちだよー」
久野市さんだけではない、俺も動けなくなってしまっていた。しかし、桃井さんだけは違う。堂々とした様子で、先陣切って歩き出す。
さすがは、年上の女性。さすがは、都会の女性。彼女の背中を逞しく感じつつ、俺と久野市さんはその背中を追いかける。
俺たちは右も左もわからない状況だが、桃井さんは、迷いなくどこかへと歩いていき……
「このあたりが、レディースのエリアかな」
「れでぇーす?」
「……女性服、ってことね」
久野市さんは英語がちんぷんかんぷんなのであろう。頭にはてなを浮かべ、それを呆れるでもなく桃井さんは訂正する。
桃井さんの言う通り、ここは女性服を売っているエリア。女性服エリアならば、俺は当然来たことがないわけで……
……生まれて初めて、女性服エリアに足を踏み入れてしまった。大丈夫かな、逮捕とかされないかな俺。
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